世の中の「言葉」はすべて、広告コピーの要素を持っている。

【前回コラム】「広告賞の使い方。そして、コピーを測る「目盛り」について。」はこちら

コピーの本を書きました。コピーライターのために書き始めた本でしたが、書きながらこれは、どんな職業の人にも関係のある話、共通する話だな、と思いました。本文の82ページに『世の中のあらゆる仕事はクリエイティブであり、言葉はすべて広告コピーの要素を持っている』と書きました。広告業界の「クリエイティブ」という言葉はたしかに「制作する」ことなのですが、コピーライターの「クリエイティブ」は「工夫する」とか「見つける」というほうが近い気がしています。(初対面の)人に何かを伝えたり、納得してもらったりする必要のある仕事なら、どんな職業でも「工夫」が必要でしょ。その時に使う言葉はぜんぶ広告コピーと同じだと思います。そういう意味で、どんな職業もクリエイティブだし、クリエイティブじゃなければダメだとさえ思います。

デパートの店員さんの言葉、飲食店の店員さんの言葉、ビジネスマンの商談、駅のアナウンス、政治家の演説、大学教授の授業、SNSに書き込む言葉、合コンの自己紹介。初めての人に言葉で何かを伝えるということ。ぜんぶ広告コピーと一緒でしょ、と思うのです。

例えば駅のアナウンス。「危険ですから駆け込み乗車はおやめください」と連呼している。だけど、ほとんど効果がない。そりゃそうです。誰も「危険」だとは思ってないから。ドアに挟まったって、また開けてくれるでしょ。挟んだまんま、走り出したりしないよね。だから「ウソ」だとバレているんです。

ある時、地下鉄丸ノ内線のアナウンスがこう行っていました。「電車の遅延につながりますので、駆け込み乗車はおやめください」拍手です。そうなんです。そう言って欲しかった。何回もドアに挟まる人がいるたびに電車の出発が遅れる。先に乗っている人が遅れてきた人のせいで、さらに遅れてしまう。他のお客さんは迷惑しているんです。「危険ですから」ではなく「他の乗客に迷惑だから」やめてください、と言う。このほうが効果はあると思いました。広告コピーも一緒でしょ。当たり障りのないウソを言っても届かないのです。

結婚式のスピーチも広告コピーです。「本日はお日柄もよく」とか、天気が悪ければ「雨降って地固まると申しますが」などという予定調和から始まるとたいてつまらない。(それも結婚式らしいと言えなくもないのですが)最初の一言で心をつかみ、来賓客を飽きさせず、笑わせながら泣かせながら、多くの人の記憶に残るスピーチを考える。これ、広告コピーと一緒でしょ。

結婚式のスピーチはまだカンタンなほうです。聴衆の方向性がほぼ同じだから。もっと難易度が高いのは、いろんな人が集まっている立食パーティでのスピーチ。ざわざわしている。みんなスピーチなんか聞いていない状況。誰もスピーチなんか聞きたいと思っていない状況でのスピーチは、まさに広告です。その時に、会場の心を鷲掴みにするようなイントロ、口調、声、言葉。これ、広告コピーでしょ。

スピーチで思い出すのは、コピーライターの秋山晶さん。静かに語られるその言葉は、けっして大きな声ではないのだけれど、深く刺さる。ドキッとする言葉を使うのです。いまだに憶えているフレーズがいくつもあります。また、「間」もいいんですよ、これが。いいラジオCMを聞いているようで、ざわついた会場も静まり返ります。秋山さんのプレゼンも聞いてみたいですね。きっと、簡単に納得しちゃうと思います。

よく広告コピーのことをラブレターやプロポーズの言葉に例えることがあります。でもボクは、ちょっと違うんだけどな、と思っています。ラブレターやプロポーズはだいたい「発信する人」と「受信する人」が知り合いであることが普通ですよね。でも広告はほとんどが「誰だか知らない人から聞く話」であるところが違うんだと思います。全くの赤の他人が「自分のことを好きになってください」と言っているのです。かなりハードルが高いラブレターです。

初めて会う人に自分の思いを伝えるということは、とても難しいことです。八百屋さんとお客さん、大学教授と学生、洋服屋と客、政治家と国民、SNSと世間。これらの関係は、話す人と聞く人、お金をもらう人とお金を払う人の関係、売る人と買う人の関係。ここは共通です。ここで使われる「言葉」はすべて広告コピーの要素を持っているのです。

コピーライターの思考法って、何も特別な業界の専門分野の話ではなく、「工夫」を必要とする仕事をしていて、初対面の人に何かを伝えたい人みんなに、共通する話なのです。『最も伝わる言葉を選び抜く コピーライターの思考法』という本を書いてみて、改めて強くそう思ったのです。全6回のコラム、お読みいただきありがとうございました。

nakamura

最も伝わる言葉を選び抜く コピーライターの思考法
宣伝会議刊(2017年3月1日より全国書店・ネット書店にて発売)

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中村禎(フリーエージェント・コピーライター)
中村禎(フリーエージェント・コピーライター)

1957年 福岡県北九州市門司区生まれ。成蹊大学在学中に自分の適性を判断するため、宣伝会議コピーライター養成講座へ。J・W・トンプソン(営業職)サン・アド(仲畑チーム・コピーライター)電通を経て2016年に独立し フリーエージェント・コピーライターとして活動開始。TCC最高新人賞・TCCグランプリ・TCC賞など数々の広告賞を受賞。現在、『コピー年鑑』最終審査員、宣伝会議賞最終審査員、ピンクリボンデザイン大賞審査委員長、東京コピーライターズクラブ事務局長を務める。宣伝会議コピーライター養成講座専門コース講師は2017年で14年目になる

中村禎(フリーエージェント・コピーライター)

1957年 福岡県北九州市門司区生まれ。成蹊大学在学中に自分の適性を判断するため、宣伝会議コピーライター養成講座へ。J・W・トンプソン(営業職)サン・アド(仲畑チーム・コピーライター)電通を経て2016年に独立し フリーエージェント・コピーライターとして活動開始。TCC最高新人賞・TCCグランプリ・TCC賞など数々の広告賞を受賞。現在、『コピー年鑑』最終審査員、宣伝会議賞最終審査員、ピンクリボンデザイン大賞審査委員長、東京コピーライターズクラブ事務局長を務める。宣伝会議コピーライター養成講座専門コース講師は2017年で14年目になる

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