【前回コラム】「「肯定」よりも「受容」が大切。怖さも受け入れる“闘う哲学者”の生き方(ゲスト:村田諒太)【前編】」はこちら
今回の登場人物紹介
※本記事は7月8日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。
マイクタイソンと殴り合うのも怖くない
権八:僕は村田選手の魅力は、怖いことを「怖い」と言うなど、正直なところだと思います。アマチュアからプロになられて、より一発の「怖さ」やプレッシャーと向き合うことで、アマ時代とまた違った迫力が自分の中で出てきたのかなと。
村田:プレッシャーの捉え方も考えるようになりますね。たとえば、今、この狭い部屋でマイクタイソンと1対1で殴り合えって言われたら、別に僕は怖くないんですよ。
一同:えー!?
村田:なぜ試合になると怖くなるかというと、観衆がいる、TVで放映されるからです。自分が残してきた金メダリストとしての存在、今までTVの前で出てきた自分がある一方で、地球の反対側から僕を見たら「そんな人もいるんだ」ぐらいの存在です。見る人によって全く違う村田諒太像がある。フィギュアスケートのファンだったら、「そんなボクサーいるの?」ぐらいのものだと思うんですね。
見る角度を変えてしまえば、大きな存在にも小さな存在にもなるし、ある人にとっては無でしかない。それを失いたくないという恐怖なんです。殴り合うことなんて、殴り合いが好きでやってることなので、マイクタイソンと1回スパークリングやってみよう、こいつこんなに強いんだ、パンチあるんだ、そのぐらいのもののはずなのにみんなが見てるとなると変わります。
やっぱりアイデンティティですね。自分の存在を失ってしまうという恐怖と闘っている話で、それはあるような、ないようなものであるという認識をしておくと、少し楽になります。
権八:世界選手権のときですかね。試合していても、50メートル先から見たら「ボクシングの大会やってるんだ」、500メートル先から見たら「何やってるかもよくわからない」、所詮はそれぐらいのものだとおっしゃっていて。
村田:それをだんだん忘れちゃうんです。脚光を浴びて、注目されると、みんなが自分の近くの距離まで来てると勘違いしちゃうんですよ。でも、それは常に変わらないものなんですね。お隣の国に行って、「村田諒太知ってる?」と聞いたら、「誰だ、それ」とみんな言います。そんなものなのに、自分で空想の村田諒太像をつくってしまう。
権八:偶像みたいなものですよね。
村田:そうです。それを失うことに常に怯えているというのが恐怖の正体だと思います。
権八:何かのインタビューで、負けたらこれまで積み上げてきたものを全て失うかもしれないと考えたときに、ふと自分の子どもの写真を見て冷静さを取り戻せたという記事を読みました。地位や名誉を失ったところで、このかわいい子どもが自分にはいる、そのことに何の変わりもないと。
村田:そうです。大事な人間は失われないですよね。子どもや親、家族は失うことはないので、離れていってしまう人間はそこを見ているだけの人間ということ。むしろ離れてしまうことを喜んだほうがいいんじゃないかと思うぐらいですね。
権八:一緒にしては申し訳ないが、僕らも多かれ少なかれ、いろいろなプレッシャーと闘うといったら大げさだけど、メンタルを保ちながら、どうやって仕事に取り組むかを考えます。
村田:うちの子どもがジャングルジムにのぼるんですが、1~4段目までやることは一緒なのに3段目からは怖がって足が震え出すんですね。あれが面白くて。人生はそんなもんじゃないかなと思います。3、4段目だからと足がすくんでしまうから上がれなくなるわけであって、同じことやっていたら進めるのに。
僕も誰と試合してもやることは一緒なのに、同じことができない状況がある。それは心理、メンタルが生んでるものです。スポーツ心理学でいうと、「自分のプレイだけに集中しなさい」という言葉があって、コントロールできるものだけに集中しなさいという意味です。
中村:なるほど。
村田:審判がどうするかはコントロールできません。ジャッジの採点、観客が何を言うか、ほとんどのものはコントロールできないんです。唯一コントロールできるものは、自分が何をするか、自分のプレイだけです。それしかコントロールできないので、コントロールできるものだけに集中しながらリングに上がればいい。
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