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コラム

国民総ダンサー時代前夜に考える、ダンスとクリエイティブの幸福な関係

ダンスは観客が“没入体験”する時代へ。DAZZLEが起こす「イマーシブ」革命。

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型破りの90分長尺公演が、世界への扉を開いた。

飯塚:私も加入して、2007年に初の舞台作品「ienai iitai」を上演します。これは、当時オムニバスでの公演が多かった中、90分で一つの物語を紡ぐというストリートダンスの常識では考えられない作品でした。

それを可能にしたのが、コンテンポラリー的なアプローチと字幕表示によるかなり強固な脚本だったと思います。ダンサーはしゃべらないので、バレエのようにどうしても物語が抽象的にならざるを得ないところを、うまく克服した手法でした。

長谷川:ダンスはダンサーにしか理解できない技術的な領域があります。それはすごく魅力的ではあるんですけど、例えばダンスがわからない人を振り向かせることができなければ、アーティストとして生きていけないと思いました。そのために取り入れたいと思ったのが物語。個人的にゲームが好きだったということもあり、発話でのセリフなしでもRPGのようにテキストでの字幕表示で十分心を動かせるという確信もありました。

ダンスは言葉より先にあるものだから、言葉を使うのはナンセンスだと言う方もいますが、僕にとってはそういうことはあまり重要ではなくて、観ていて伝わるか、面白いかという点で、言葉や映像も含めて作品にしたいと思ったんです。

飯塚:長谷川さんが他のダンサーと大きく違うところの一つに、ダンスに対する客観性があると思います。多くのダンサーは、ダンスが面白くて、いいダンスを作るということに盲目的に注力しがちですが、長谷川さんは明確にダンスの限界を意識して作品を設計していますよね。

長谷川:ダンスを職業に選んでいますし、ダンスは好きです。ただ、クラブイベントなどでショータイムが数時間続くと、どんなにテクニックのあるダンサーのダンスであっても、見ていると飽きてくるし疲れてくる。ダンスが好きにもかかわらず。観客としての、その偽らざる感情を大事にしているだけです。だから、長編作品でも次のダンス、次の物語、次の展開、とどんどん移行していくように作っています。

飯塚:長編作品の三作目「花ト囮」で海外公演のオファーがあり、韓国の芸術祭で初の海外公演を行いました。その後、世界三大演劇祭の一つであるルーマニアのシビウ国際演劇祭をはじめ、イラン、アメリカ、シンガポールなどで公演やショーを行いました。

日本で自分たちの作品が好評だったとしても、それは文化的な背景を共有しているからかもしれないし、がんばっているから人間的に応援しているなどの感情からかもしれない。

でも、この海外公演を経て、自分たちがそのような文脈が一切ないところでも純粋に作品のクオリティに対してスタンディングオベーションをしてもらえたということが、大きな自信になったと思います。

長谷川:そうですね。海外で賞をもらうこともできましたし、むしろ日本以上に観客の心に届いているような気もするぐらいでした。すべての国が日本より過酷な環境なので、作り手として鍛えられた部分もありますし、誰も自分たちを知らないからこそ気負いがなく踊れるという発見もありました。

飯塚:DAZZLEが舞台を続けてきたここ10年ほどで長編作品を上演する団体も増え、振付・演出に対する注目も高まったと思います。長谷川さんが第一回で優勝した振付師日本一を決めるコンテスト「LEGEND TOKYO」が生まれたり、DAZZLEで企画・演出をした日本のトップダンサーを集結させた公演「ASTERISK」の開催などもあり、振付師が大人数のダンサーで作品を作る「ナンバー」イベントも増えました。

今後、DAZZLEに続いて海外で公演ができる団体が出てきたり、この環境から真の意味での「名作」が生まれてくるといいですね。

次ページ 「人間国宝とも!? 遠いジャンルとのコラボレーションで世界を広げる。」へ続く