【前回】
「【高崎卓馬のクリエイティブ・クリニック】アイデアを手繰り寄せる技術」
時代の流れと共に広告手法は変化し、WEB動画やデジタルサイネージなど新しい表現方法が確立されていっています。そんな中、時代の急激な変化に対応できず、何が面白いものなのかわからなくなってしまったクリエイターたちが増加。高崎氏の単著『面白くならない企画はひとつもない 高崎卓馬のクリエイティブ・クリニック』では、そんな悩みを抱えた若手クリエイター、宣伝担当者たちの企画を丁寧に分析し、面白い企画の作り方、正しい悩み方などを解説しています。ここでは発刊を記念して行われた講演会を3回に分けてお届けします。最終回の今回は、時代の空気や世の中の流れに焦点を当てて語っています。
CMは“出オチ”の時代か
回路をつくることに夢中になった僕は、20代の終わりにACのクジラ、「黒い絵」と言われているCMをつくりました。
来る日も来る日もひたすら画用紙を黒く塗りつぶす子どもに対して、親や教師や医師たちの困惑する様子が流れる。そして、最後に何十枚もの黒い画用紙を組み合わせると巨大なクジラが表れ、「こどもから、想像力を奪わないでください。」という一文が流れるというものです。
これはミスリードという長尺のときに有効な回路を使っています。海外でも広く理解されたいと思っていたので、言葉に頼らない映像に挑戦しました。こういう自分に新しい制約を与えていくと、またひとつオリジナリティある表現に近づきます。このCMを作って、何度もいろんなひとたちに見てもらいながらその表情を見ているうちに「予定調和を壊す」という表現はとてもいいものになることに気がつきました。
「まさかそんなことが起きるとは!」という驚きは広告にとても重要です。洗剤でシャツを洗うと白くなるとか、美味しくて驚くとか、広告は自分の長所をできるだけ大げさに言おうとします。しかしそれは基本的に自画自賛です。自画自賛は表現としては相当レベルの低いものです。もっと豊かで大きなことができるのに、自分で買ったメディアで自分を褒める、みたいなことをやっていると、広告というもの自体がきっと世の中から飽きられて、価値の低いものになってしまうのではないでしょうか。広告で自画自賛するということほどの予定調和はないと思います。