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「資源」の定義が新しい市場を生み出す 「戦略」論から考えるマーケティングのヒント

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音部大輔氏の戦略論の要は「目的と資源」にあり

©123RF

P&G、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂などの国内外の企業でマーケティングに携わってきた音部大輔氏は、この業界きっての「戦略」の大家であり、その著書『なぜ「戦略」で差がつくのか。戦略思考でマーケティングは強くなる』で、その重要性を説いています。音部氏によれば、戦略の要諦を一言でいえば、「目的と資源」に注目することだそうです。

「戦略」においてはマイケル・ポーターが、1985年に刊行した『競争優位の戦略』で提示した、外的な競合環境に注目する「ポジショニング(競争戦略)」が、ジャック・トラウトやアル・ライズのようなコンサルタントによる解釈を経て、マーケティング業界では有名な存在です。

また、「資源」に注目するという視点は、経営学的に言えば、90年代以降にジェイ・B・バーニーらが唱えた「リソース・ベースト・ビュー(resource based view経営資源を元にした戦略論)」として知られる考え方が元になっています。

「ポジショニング」は戦略の中でも、目指す場所、つまり「目的」に関係するものです。つまりポーターの競争戦略は、目指す市場の構造を理解したうえで自社にとって有利な場所、「どこを狙うか」という「目的」に関わる戦略であり、バーニーの経営資源の戦略は、それを「どうやって達成するか」という自社の「強み」を活用する戦略であるといえます。

実際には両者の視点は別々に解釈されるものではなく、「資源」の活用自体が、「目的」を示唆する場合もありますし、一方で「目的」の定義によって、自社の新しい「資源」を発見するということがあり得ます。

「資源」の発見が、新しい市場を創造する

これまで市場そのものを発見し、開拓、発展させる方法は、新製品開発や新規事業開拓などとして語られることの多い話題でした。また新製品開発というのは、どれほど優良な大企業が取り組んでも、成功する確率が低いものが多く、それはP&Gやユニリーバのようなマーケティングに優れた会社においても例外ではありません。

その多くは、自社の経営資源である製造や流通の強みを活用したうえで、新しい消費者のニーズを満たした製品を創造し、流通対策でさらなる店頭におけるシェアを拡大する、という拡張志向に支えられていました。その視野は自社のことを前提としつつも、外部との競争環境である「ホワイトスペース」に注目し、その隙間を埋めるために製品ラインを拡張しようとするものです。そこで、新製品の中に失敗するものがあったとしても、自社の経営資源である製造や流通の強みが損なわれるわけではないので、大して問題にならずに、失敗は忘れ去られてしまうだけという事態になります。

大企業であるほど、自社の資源というと生産、流通、予算などの規模に目が向きがちです。これらの資源とは、これまで培ってきた「ヒト、モノ、カネ」であり、それがそのまま新しい事業や製品にスライドされて使われることになります。ですが、この方法だと、いくら新製品をつくったとしても、その“やり方”は従来の製品と同じまま。これまでと資源を活用する戦略に違いはありません。

これに対して、音部氏の戦略に関する話が面白いのは、従来と違った「資源の活用」という視点です。ユニリーバ・ジャパン時代に、「リプトン」という紅茶ブランドを担当した音部氏は、通常のティーバッグが封筒型でホチキスが必要なのに対して、「リプトン」は三角錐型なので「ホチキスがない」ことを「資源」としてみなした、という興味深い話をしています。ホチキスがないので、そのまま電子レンジに入れてあたためることができる、ことが他社にはできない競争優位性につながる、ということです。

新しい資源の定義が市場を創造するという視点は、経営戦略では「ブルーオーシャン戦略」と呼ばれています。欧州のINSEADの教授、チャン・キムとレネ・モボルニュが提唱した『ブルーオーシャン戦略』とは、単に競争戦略で競争相手多い市場がレッドオーシャンなのではなく、顧客のために活用する経営資源を「足したり、引いたり」することで、競争相手のいない市場を生み出す、という資源の定義にポイントがあるわけです。

次ページ 「軸を変える、新しい「見方」で資源を定義する」へ続く

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