詐欺師の技術ではない、「邪悪の本質」について
マーケティングにおいて、正しいこと、良いこと、優れたことについて言及した記事は多いですが、「悪」について書かれたものは少ないように思います。
たしかに心理学や行動科学の知見をもとに、マーケティングに「悪用」可能なテクニックとして解説したものはあります。しかし、ここで言いたいのは、そのような詐欺師の技術のようなものではありません。今回はマーケティングにおける「正義」に反する「悪」とはどのようなものかを書いてみたいと思います。
具体的には何が言いたいのか。それは、上記のような「詐欺師の技術」と呼ばれるモノは、それ自体は良くも悪くもありません。なぜなら、これは単に「悪い目的」にも使うことができる、というだけだからです。そして、人々は映画や小説で泥棒や詐欺師が出てきて、人を欺いたり騙したりしても、それをフィクションとして楽しむことができるからです。またこうした表現は、ある意味で人間の本質的な意識や行動に基づいているから興味深いのであって、人を騙すことが道徳的に悪いことだと知っているからです。
したがって、ここでは心理学や行動科学を悪用する方法については解説しません。今回、私が問いたいのは、そのような技術的な問題ではなく、かつてスコット・ペック氏が『平気でうそをつく人たちー虚偽と邪悪の心理学』で解説したような、「邪悪の本質」についてです。それはサイコパスのような特定の性格に起因する邪悪さによって語られることも多いですが、それもここでは取り上げません。ここではむしろ普通の人々が、特に集団で起こす可能性がある「悪」の本質について考えたいと思います。
ベトナム戦争のソンミ村虐殺事件に見る組織が邪悪に陥る要因
私たちは通常、“悪の組織”と聞くと、サイコパスで独裁者のようなリーダーによって導かれている、ならず者の集団のようなものを想像しがちです。しかし「悪を行う」集団というのは実際、そのような組織であることは稀です。
スコット・ペック氏は、集団の悪について、ベトナム戦争時に起きたソンミ村虐殺事件を取り上げています。ベトナム戦争時に、米軍は南ベトナム解放民族戦線が展開するゲリラ戦に苦慮していました。そのとき、疑心暗鬼になった米軍の部隊が、無抵抗で非武装のソンミ村の住民を虐殺したという事件です。それでは、ベトナム戦争で戦っていた米軍人は「悪人」だったのでしょうか?
スコット・ペック氏は、この悲惨な事件の背景として、戦争という極度のストレス状態によって、幼児のような短絡的思考に退行してしまうという状況があったと言及しています。戦争という特殊な環境下であるからこその心理状態が引き金になっているのでしょう。
しかし、同氏が指摘した理由はそれだけではありません。「敵、味方」を分けることによって、米軍の部隊が集団的なナルシシズムにおちいり、個人の道徳的責任を他人や集団に転嫁してしまった、という理由もあげています。また、こうした責任の転嫁は、特に組織でありがちな専門家による分業体制が生み出しやすいとも指摘しています。
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