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コラム

「恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。」ディレクターズカット

『恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。』刊行記念/これからの広告エージェンシーはどうあるべきか(前編)

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社会変化に対応する提案が、広告主にとって価値になる

—改めて広告エージェンシーの役割や強みを言葉にすると、何でしょうか。

小霜:僕は提案力だと思います。いろいろなレイヤーがありますが、一番上のレイヤーで言えば、マーケットの変化を読んで次の打ち手を提案すること。企業が破綻するときは社会の変化に対応できないという理由が多いわけですが、エージェンシーの客観的な視点から提案をすることが結構大きな価値なのではと思っています。

エージェンシーからの提案を鬱陶しがる広告主はもちろんいます。一方で、提案してほしいという広告主もいる。提案を待っているところには提案できておらず、提案を待っていないところには鬱陶しがられているというような、ミスマッチが起こっているように感じます。

川上:今はそこがずれているということですよね。それは僕も致命的だなと思っています。

提案で一番大事なのは、相手のニーズを知ること。何かしらのニーズがあるから我々エージェンシーに相談が来るわけなので、そのニーズを的確につかんで言語化し、最適なリアクションを考えるのが提案だと思います。そのとき、求められたことに100%応えるのが正解の場合もあれば、求められたこと以上の提案でニーズを満たすのが正解の場合もあり、それはニーズをきちんと把握していなければ判断できない。ミスマッチが起こっている一番の原因は、ニーズをつかむ力が弱っていることなのかもしれません。

小霜:最近は「For the クライアント」から「With the クライアント」へ、みたいな話がエージェンシーの中でよく言われるじゃないですか。でも「For the クライアント」を一生懸命やった結果として「With the クライアント」にいくということなんじゃないかと僕は思います。広告の現場はあまり儲からないから、コンサルのようなビジネスプロデュースをやらなきゃというところに意識が行き過ぎていて、本業が危うくなっているのではないでしょうか。

川上:「For the クライアント」が一番大切です。クライアントが何十年も事業を続けていくためにエージェンシーが知恵の限りを尽くすという過程の中で、一緒にビジネスをやろうかという「With the クライアント」が生まれるべきです。それを、いきなり一緒にやろうと言われたら、それは不信がられますよね。

小霜:そうですよ。ビジネスプロデュースを恋愛にたとえれば、お付き合いしましょうと言う前に一緒に子どもをつくりましょうと言っているようなもの。ドン引きですよ。

川上:クライアントの事業を成長させることが本当のゴールなので、いきなり一緒に新しいビジネスをやりましょうという前に、やるべきことがありますよね。

小霜:あとね、広告主は「エージェンシーは騙しに来るもの」と疑っているところがありますよ。提案ですと言われても、純粋に良かれと思って持ってきているのか、またうまく騙して金を巻き上げようとしてるのかの区別がつかない。

川上:それはクライアントとエージェンシーの信頼関係に直結する大事な話ですね。エージェンシーは、クライアントの事業を成長させるために存在するわけですが、そのエージェンシーが自社都合で背負っている売り物を売るというのは、自分の存在意義や価値を下げる行為です。

そもそも、クライアントの事業を成長させられるチャンスはたくさんあるわけです。電通グループで言えば、デジタルやクリエイティブもあれば、テレビやコンテンツやイベントもある。今申し上げたのはほんの一例で、電通グループを見渡せば実はいろんなことができる。ではグループ社員がそのケイパビリティを完全に分かっているかと言ったら、そうはなっていない。勉強せずに、ただ自分の身の回りの武器だけでクライアントに向き合っていると、結果的に騙されたんじゃないかという不信につながってしまうのではないかと思います。

僕はクライアントと本音ベースで付き合うのが好きなので、これくらい稼がないとうちのチームを食わせていけないということを言える範囲では言っていましたね。安くしたいという気持ちはもちろん分かりますが、それだと本当にいいものは絶対につくれないし、チームを維持することができない。僕は、自分が担当したからには10年も20年も同じクライアントと仕事がしたいと思っています。だから、たった半年や1年の収益のためにお互いが不信になるというのは、最悪なケースだと思っているんです。

小霜:デジタルの人は、わりと正直だという印象を受けます。管理画面上ですべて可視化される世界だからそうなのかなと思いますが。

川上:そうだと思いますね。だから、そこに何%のフィーで何人が食っていけるということを、きちんとクライアントに説明したほうがいいんですよ。デジタルメディアの仕事は大人数で長時間支えている分、その分のフィーがなければパフォーマンスを維持していけない。それを営業が、これだけいただければ数年先もクライアントのためにチームをつくれるといった話を、きちんとするべきなのだろうと思います。

小霜:最近の大手エージェンシーのウェブサイトを見ると、「社会のために」とはうたっていますが、「クライアントのために」という言葉がなくなっていて、一足飛びのような気がするんですよ。基本はクライアントビジネスなのに、クライアントに対して価値を提供するということから飛躍してしまっている。

川上:クライアントと寄り添った結果として社会が良くなっていくことを目指すというのは素敵な話だと思いますが、クライアントという言葉が出てこないのに社会とばかり言っているのは、やはり多少誤解を生むのかもしれないですね。

後編へ続く

【登壇者】

小霜 和也 氏
『恐れながら社長マーケティングの話をします。』著者

1962年兵庫県西宮市生まれ。1986年東京大学法学部卒業。同年博報堂入社。
コピーライター配属。1998年退社。2020 年現在、株式会社小霜オフィス、no problem LLC. 代表。2018年4月より、内閣府政府広報アドバイザー。クリエイティブディレクター/コピーライターとしてマス・Webを統合する広告キャンペーンに携わる一方、幅広い企業のマーケティングアドバイザーとして従事。

 

川上 宗一 氏
電通デジタル 代表取締役社長

1998年 東京大学法学部卒 電通入社。マーケティング・プロモーション局、営業局に所属し、自動車、消費財、情報通信、エンターテインメント企業を担当。2019年から電通デジタルに参画。人を基点としたデータドリブンマーケティング「People Driven Marketing」を推進。執行役員兼アカウントプランニング部門長、アドバンストクリエーティブセンター長を経て、2020年より代表取締役社長執行役員に就任。

 

恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。

<目次>

はじめに


第一章 社長、まずはマーケティング部をなくしましょう
・マーケティング=価値の創造
・マーケティングの4P
・総力戦の時代
・マーケティング部を宣伝部に戻す
・貯めるべきもの3つ「直感力、共有知見、データ」
・忖度のない体質がマーケティング体質


第二章 「名物宣伝部長」はどこいった
・管轄外の責任を負わされる宣伝部長
・広告業界の構造的問題
・宣伝部とエージェンシーの深まる溝
・CMOに「4P」全部預けられるのか?
・社長と部長はパートナー


第三章 御社は「ミドル・ファネル」作れますか?
・ミドル・ファネルから作る
・外してならないファネルだけが外れてる
・トップ、ミドルのクリエイティブを寸断させない
・社長は「トータルCPA」を見る
・部門「間」がますます重要に


第四章 やっぱし事件は現場で起きている
・制作現場の実状
・戦略、メディア設計、クリエイティブの順に
・現場の忖度で得体の知れないものができあがる
・社長が「おかしい」と感じたら、何か起きている


第五章 「Vision」の本当の話をします
・時代変動の中で自分は何者か再点検
・Visionを間違うと正しいマーケティングはできない
・Visionの話(つづき)
・Values
・オレのCI


第六章 テクノロジー変わるマーケティング思想変えるビジネスモデル変える
・新たなマーケティング思想、カスタマーサクセス
・競合より顧客の動向を見て成功する
・広告という神話
・顧客を手放さないサブスクリプション
・商品は優れていても、ビジネスモデルで負けていないか
・テクノロジーが新しいビジネスモデルを閃かせる


第七章 不買運動が起きてます!
・SDGsはイケてる
・誰かを変えるCSR、自分を変えるCSV
・ESG投資で変わる企業の戦い方
・Belief Driven
・次世代の動き
・SDGsはこれからの参加資格
・IRで商品Promotionの土壌をつくる


第八章 社長、さっき言いかけたことですが


おわりに