エンターテインメント部門
「音楽」映像作品
岩井澤健治
贈賞理由:
バンドで経済的に成功するまで、あるいは文化的に挫折するまでを描いた作品は、過去膨大にあった。しかし、バンドで最初に音を出したときの、ふっと軽くな瞬間。生物が魂を宿したような、例えようのない時間をズバリとらえた作品は皆無だったように思う。作者自身が、一人で絵コンテや作画を7年もの歳月をかけてつくり上げたことと、結果として素晴らしいエンターテインメントが生まれたことは、無関係ではない。だが、必然でもない。同じように苦労して生み出された芸術作品は、数多くある。VFXやAR/VRなど多くの技術が点在する現代において、ロトスコープという古典的な手法で生み出されたアニメーションが、例えようもない時間を一番鮮明な形で残しているのが興味深い。驚くべきことに、この作品はまだ商業的に成功していない。審査委員としての任期最後の年、この作品を文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞に選べたことを、誇りに思う。(川田十夢)
