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データとクリエイティビティはせめぎ合いながら進化する — 安藤元博×嶋浩一郎×堀宏史座談会

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「考現学」の発想をデジタルの力でさらに拡張

—デジノグラフィは、博報堂らしいデジタル×調査手法の掛け合わせということですね。

安藤:本の中にも書かれていますが、「考現学」という考え方があって、徹底的に生活の細部まで観察して、そこから新たな発見を見出していく。明治21年生まれの民俗学者である今和次郎の考え方がベースになっていて、生活総研でもずっと行われています。先ほど嶋さんが言っていた「昨年は路上で飲み会しているグループを10回以上見たし、そこに新しい欲望の胎動を感じた」もまさに考現学の発想ですよね。博報堂の人間は、こうした事象を観察しながら、一部ではなくて、全部を見ようと心がける発想があるのだと思います。

:デジノグラフィでは今、安藤さんが話してくれた「考現学」の発想をデジタルの力を使ってさらに拡張しています。例えばスマートニュースと行った共同研究では、美容記事のWebの閲覧履歴で、女性の年齢別に35歳から60歳までの人にどんな記事が人気なのかを、1歳刻みで見ていったんです。すると「ショートヘア」という言葉を含む記事の閲覧が年齢を追うごとに増えていき、特に47歳でぐっと上がることを発見しました。プロの美容師に聞いたところ、それぐらいの年齢を境に髪質の変化があり、ロングヘアをキープするのが難しくなるらしいんです。そろそろショートにしなきゃなと気になって見てしまう、アンケートではわからない潜在意識がデータに出てしまっているんですね。ここから、47歳から上の女性に対して、どういう新しい商品や企画ができるのかも考えられるでしょう。データを別の視点から見ることによって、新しい発見がありました。

:本の中にも出てくる事例ですね。これは素晴らしいと思いました。人間の欲望がそれと知らない間に可視化されるという。

安藤:自分では言いたくない本音が、つい行動に出てしまうということですよね。

:そうです。このケースでは、年齢を“1歳刻み”で解析できる解像度の高さがビッグデータならではの強みになっています。もうひとつ、SNSに投稿された画像の解析を活用した生活者研究事例を紹介しましょう。Instagramと微博(ウェイボー)上に投稿された人物写真の撮り方に、日本、中国、タイでどのような文化差があるのか。約20万枚のセルフィー画像を解析しました。セルフィーの配色について出現の傾向差を見たところ、多出する色が日本、中国、タイで各国の伝統色に落ち着いたんですね。僕らもこれはびっくりして、若い世代も含めて、そういう色のものを知らず身に着けていたり、写真でも表現しているんだな、と。

安藤:この話も本に出てきますよね。面白かった。SNSの画像データを使って、配色をデータ化したことがポイントでしたね。

:データの抽出はいつも試行錯誤ですが、その試行錯誤や行ったり来たりがすごく大事な気がします。デジタルデータは行ったり来たりがすごくやりやすいんですね。先ほど嶋さんが言ってくれた「街中で飲み会をしている人がいる」であれば、言葉で検索したり、画像データやネットの書き込みで調べたりするうちに「あれっ。これってこういう世代の人たちがやっているな」と気づいてまた別のデータを調べる。そこでまた新たな気づきがある。今やいろいろなデータが使いやすくなっているので、データサイエンティストに限らず誰にでもできるようになったんです。

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