データとクリエイティビティはせめぎ合いながら進化する — 安藤元博×嶋浩一郎×堀宏史座談会

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データとの向き合い方には、2つのクリエイティビティがある

:今日は「データとクリエイティビティ」がお題なわけだけど、僕はデータはあくまでも過去のものだから、それを元に企画しても新しいものにならないという思いがあります。だから、さっきの「コロナ下で路上飲み会をしている人」のように、まだ顕在化していない欲望を体現するファーストペンギンを見つけて企画に活かすということをやってきたわけで。安藤さんの話で「AaaS」の仕組みはよくわかりました。ある種データの民主化ですよね。でも、誰でも同じように手に入れられるデータから、人と違う発想を生み出すところがデータを見たあとの重要なスキルですよね。

安藤:その質問に答える前に、僕が好きな歴史上の話を3つしていいですか?ひとつは第二次大戦中に連合国軍を苦しめたドイツの潜水艦「Uボート」。なぜイギリスがやられ続けたかというと、暗号を解読できなかったことも大きかったようです。Uボートが使っている暗号を解読できなかったイギリス軍には、どこにいつUボートが現れるかの情報、元になるデータがなかった。ところが、天才数学者アラン・チューリングの出現で解読に成功する。チューリングはコンピューターの父と呼ばれている人の一人ですね。彼の解読法の開発で暗号を完全に解析できるようになり、Uボートの出没を読み解くことができるようになった。それを境に、今度はイギリスが徹底的に勝ち始めます。僕は、このような「仕組みの発明」はクリエイティビティのひとつだと感じます。データはひとたび可視化され解けたら誰にでも簡単に使える。イギリスはドイツに勝ちました。広い意味でデータを可視化して仕組み化するというクリエイティビティの成果です。

2つ目は時代をさかのぼり、ナポレオンの時代です。ナポレオンは「腕木通信」をフランス中に普及させた。腕木通信とは通信システム。これによってパリからフランス海岸まで8分間で信号が伝送できるようになった。要するに情報伝送の仕組みをつくり、国中に広めたのです。これはナポレオンの偉業です。僕はこれもクリエイティビティだと思います。

3番目は、さらに時代をさかのぼって、諸葛孔明です。魏呉蜀の「赤壁の戦い」で強国の魏を破りました。諸葛孔明は魏の水軍の船に火を放ち、船は燃え落ちて、絶対負けないと思われていた魏の大軍が負けます。三国志演義では、孔明が祭壇を築いて風を呼び、風を吹かせたという物語があります。が、実際には彼は天候情報を読んでいたのではないかという推測もあります。風がこちらから吹くから、火をこの方向で放てば魏の船が火事になり負けるとわかっていたから、それを戦争に利用して勝利した。天才軍師として名高い彼ですが、ひとつの見方として、一種のデータに熟知していたからこそできた技だという解釈の仕方がある。

僕は勝手にこれを「歴史上の3大データ話」と呼んでいて、非常に好きです。要するに徹底的に勝ったりするときは単に武勇ではなく、誰も使えていないデータをぽんと持ってくる仕組みや仕掛けを作って、それで信じられないくらい圧勝する。えらく話が飛んでいるように思われるかもしれないけれど、それがデータと向き合う上でのクリエイティビティだと思っている。

:データの読み解き方、つまり置かれている状況をどういう前提でとらえるか、どういう仮説を立ててデータを見るかによって、見えるものが違ってくるということですよね。それは見立てと言ってもよくて、働き方や通勤に関するデータも、コロナ前の見立てとコロナ禍での見立てで、全く違う意味にとれる。あと例えば、仕事を持っている感覚でデータを読むか、年金受給者の気持ちでデータを読むかみたいなところでも、全く変わりますね。

安藤:そう。でも本当に言いたいことは読み解き方の次の話で、さっきの歴史の話もそうだけど、これまで使われていなかった、誰も気づいていなかったデータを持ってくることで局面を一変させられることがある。そういう状況を起こす装置を提供する。それが2つ目のクリエイティビティで、「AaaS」はそこに取り組んでいると思っているんです。

嶋浩一郎の場合は、頭に異様に高精度のCPUが入っているじゃない?人生で築いてきたデータベースが頭に入っていて、「変な飲み会をやっている人たちがいる」という情報が入ってきたら、わーっと情報同士がくっついて、新しい発見を導き出す装置なんですよ。それは嶋浩一郎じゃないとできないけれど、別バージョンの装置をいろいろレイヤーでつくることはできるということなんです。

次ページ 「データの「読み解き方」と「使う仕組み」がせめぎ合いながら進化する」へ続く

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