データとクリエイティビティはせめぎ合いながら進化する — 安藤元博×嶋浩一郎×堀宏史座談会

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広告業そのもののデジタル化に取り組む「AaaS」

—安藤さんが中心に開発を進めている「AaaS」は、どのようなサービスなのですか。

安藤:「AaaS(Advertising as a Service)」は博報堂DYグループが開発・推進している広告メディアビジネスの次世代型モデルです。「AaaS」とは、昨今の「SaaS」や「MaaS」といった他業界のサービス同様の考え方で、広告取引とそれに必要な情報がすべてオンライン化され、広告主のマーケティング目標達成に必要なサービスが常時接続的に提供されるモデルです。

いまデジタル化であらゆる産業やサービスの形態が変化しています。僕らもさまざまなクライアントに日々提案をしていますよね。しかしその中でデジタル化が遅れている産業があって、それは広告業そのものなんですよ。自分たちの足元の生業が残念ながら、いわゆるDXが全く進んでいない。言っていて恥ずかしいのですが、認めざるをえないと思います。

広告業は一般的にはサービス産業だと思われています。しかし実態は、いまだに広告枠の取り扱いと、それに対する手数料をいただくモデルで成り立っている。それはいわば固定的な“モノ”を売っているわけで、サービスそのものではない。例えば自動車産業なら、車というモノを売って利益を得るのが今までで、「消費者は移動をしたいわけであって、別に車が欲しいわけではない」と考えてモビリティサービスを提供するのが産業のサービス化です。

広告業は今まで、「ここに広告したい」と注文を受けて、「わかりました。では手数料はいくらです」と右から左にモノを動かしてきました。しかし突き詰めて考えれば、広告主は広告が欲しいわけでなく、人に態度変容を起こしてもらいたいわけです。例えば「うちの商品を好きになってほしい」「うちの店に来てほしい」「買い続けてほしい」「手に取ってほしい」「買ってほしい」「競争相手の商品を買っている人にこちら側を振り向いてほしい」など、そういう“状態”を起こしたいと広告主は要求しているわけで、その効果を提供するから対価をもらうように、広告会社はなっていかなくてはいけない。

そこで「AaaS」では、今まで枠として売られていた広告を、サービスに変える試みを行います。効果に対して対価をいただく、つまりサービスとして広告を売る方向にシフトします。

:これまで広告業の中心は枠の売買によるコミッション収入が中心で、それに付随するマーケティングとクリエイティブが言わば“おまけ”になっていたということですよね。ケトルは、フィービジネスを成り立たせることに数十年挑戦してきたわけだけど。

安藤:クリエイティブに関しては、そういう挑戦が実はいろいろなところで起こっていた。嶋さんはそのフロントランナーの1人だと思う。ただ、引いて見た時に日本の約6兆円の広告費の中で、圧倒的に“モノ”のビジネス(広告枠取引のビジネス)が中心だったという話なんです。その本丸を変えていかないと、本当のデジタル化にはならない。

この課題に取り組もうと思ったら、まず最初に「広告効果を提供する」形態にシフトしないといけない。しかし現実的に、それは全くできていない。なぜなら、テレビとデジタルという2大メディアはそれぞれ別々に売られていて、野菜は八百屋に行かないと買えない、魚は魚屋に行かないと買えないというふうになっているから。仲買人もいるけれど、結局買い方の基準が違うものを買い集めてもらうことになる。

そうではなく、広告メニューや効果を一元的に管理するためのデータウェアハウスをつくらないと話にならない。まずその基盤をつくりました、という話です。こうしたデータの蓄積に生活者のデータを掛け算して、何と何を組み合わせると何が起こるのかアルゴリズムを整理して、ツールの形にして提供する、これができれば広告業のデジタル化と言えると考えています。

:テレビとデジタルの枠を組み合わせて、態度変容が効率的に生み出されるプランをつくってそれをサービスとして提供するということですよね。総合的にメディアを販売するというのがポイントのひとつ目ですよね。

安藤:組み合わせることによって何が起きるか、まで予測したうえで提供できるようにするということですね。

:もうひとつ、安藤さんのお話で面白かったポイントは、そこに生活者データを組み合わせるとさらに解像度が高くなるというお話ですね。それが博報堂ならではの強みだという。

安藤:その通りです。一般的にはメディアのデータはご存じの通り視聴率があり、そこにデモグラフィックデータが追加されます。従来は「M1層が何%取れたか」で評価されていましたが、同じM1でもどういう状態のお客さんが欲しいのかは、ブランドや状況によってさまざまなはずです。

メディアごとにどこにその人たちがいるのか、まずデータが必要になります。そのデータがテレビにもデジタルにもあり、一定の基準で同じように扱えれば、メディアを超えて組み合わせることができるようになるのです。そうすると、これまで効果がわかりにくかった個別のメディア、たとえばテレビの価値自体ももっと明確になる。

:生活者データを掛け合わせるというのは、具体的にはどういうことなんですか?

安藤:例えば、あるテレビ番組を見ている人が、Web上では何の商品の情報を見ているかを紐づける、といったことですね。あるいは流行関心層に届けたい、ということであれば、流行関心層の規定をある程度した上で、その含有率が高いメディアを提案します。

:ターゲットのペルソナとメディアの枠は1対1で紐づいているわけでないけれど、商品に合った枠の組み合わせをアルゴリズムで導き出して、PDCAで運用して精度を高めていけるということですよね。

安藤:そう。リアルタイムに結果を見ながらメディアを最適化していく、そのためのダッシュボードを提供します。一発でプランニングして終了ではなく、継続的に運用していくのがポイントです。広い意味での「運用型」広告といわれるサービスの中でも実効性と解像度の高いきめ細かいサービスの提供が可能になります。

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