デザインするように経営し、経営するようにデザインする【ブレーン創刊60周年企画】

2018年、経済産業省と特許庁から報告書が発表された「デザイン経営」。日本デザイン振興会の調査(2020年)によると「デザイン経営に積極的な企業ほど高い売上成長を実現し、顧客や従業員に愛着を持たれている」との結果が出ており、事業の変革や組織文化の形成にこそデザインの力が必要という認識が広がりつつある。

そこで、企業向けに多摩美術大学でデザイン経営をビジネスに実装するプログラム「TCL」を推進する永井一史さんと石川俊祐さんとともに、「クリエイティブな問題解決者になる」という考えのもとアパレル事業などを拡大してきたスノーピーク 代表取締役社長の山井梨沙さん、リサイクル企業で「捨て方のデザイン」に取り組んできたナカダイ 代表取締役の中台澄之さんが、「デザインと経営の未来」を語る。

本企画は、月刊『ブレーン』創刊60周年記念号(6月1日発売7月号)からダイジェストでお届けします。

(左から)永井一史氏(HAKUHODO DESIGN)、山井梨沙氏(スノーピーク 代表取締役社長)、中台澄之氏(ナカダイ 代表取締役)、石川俊祐氏(KESIKI)。

共通項が多い経営とデザインの仕事

永井

:数年前から多摩美術大学の統合デザイン学科で教えているんですが、経済産業省・特許庁の「『デザイン経営』宣言」策定に関わったことから、社会人向けにデザイン経営を教える「多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム(TCL)」を始めました。石川さん含め、いろいろな先生をお誘いして。

永井一史(ながい・かずふみ)
HAKUHODO DESIGN 代表

多摩美術大学卒業後、博報堂に入社。2003年、デザインによるブランディングの会社HAKUHODO DESIGNを設立。さまざまな企業の経営改革支援や、企業・行政の事業、商品・サービスのブランディング、VIデザイン、プロジェクトデザインを手がけている。著書に『これからのデザイン経営』(クロスメディア・パブリッシング)など。

石川

:私はイギリスで工業デザインを学んで、その後日本のメーカーに就職したのですが、もっと創造性を活かせる環境をつくろうと組織のデザインを手がけるようになって。IDEOの日本法人立ち上げ、BCGDigital Venturesなどを経て、今はKESIKIという会社を仲間と立ち上げ、教育や事業開発、組織カルチャーのデザインまで、いろいろとやっています。

山井

:私も元はアパレルブランドのデザイナーでした。人々の生活を豊かにしたいという思いから家業のスノーピークに入社して。チーフ・デザイン・オフィサーとして企画開発全般を見るようになって、2020年に3代目の社長に就任しました。

山井梨沙(やまい・りさ)
スノーピーク 代表取締役社長

創立者の祖父・幸雄、現代表取締役会長の父・太から代々続く「スノーピーク」の3代目。2014年の秋冬にアパレル事業を立ち上げる。2018年からはプロダクト全般の統括のほか、「LOCAL WEAR」プロジェクトなど、新たな試みも率先して牽引。2020年3月より現職。

中台

:僕は群馬県前橋市で廃棄物の中間処理業を営んでいます。当初は家業を継ぐつもりはなかったのですが、業界外も巻き込んだ循環ビジネスをつくりたいと思って、3年ほど前に社長を継ぎました。

永井

:中台さんには以前、TCLに講師として来ていただきましたね。

中台

:僕はデザインはまるでわからないんです。ただ、入社後は廃棄物処理業界をいかにわかりやすく、クリエイティブに伝えるかということに取り組んできて。外部のデザイナーさんの力をお借りする場面が増えていきました。社長になってからも取り組むことは変わらないなと思って、違和感なく経営に携わっています。

中台澄之(なかだい・すみゆき)
ナカダイ/モノファクトリー 代表取締役

総合リサイクル業としてリユース・リサイクル率99%を実現し、リマーケティングビジネスを確立。循環ビジネスの構築やCO2削減や廃棄物のリサイクル化など、環境分野全般のコンサルティングなどを行う。著書に『捨て方をデザインする循環ビジネス』(誠文堂新光社)など。

山井

:私も実際に社長に就任してみたら、経営とデザインの仕事って一緒だなと思いました。2019年に、デザイン経営に取り組んでいる企業として経済産業省・特許庁から表彰されたのですが、そのときに初めてこれがデザイン経営だったんだと実感して。

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