【前回】「最近よく聞く「パーパス」って何ですか? VOL.1「梨泰院クラス」にみるパーパス・ブランディング」はこちらエスエムオー株式会社代表取締役/ブランディングコンサルタント
齊藤三希子
近年、広告界を中心に注目され、ムーブメントになりつつある「パーパス」。「何のために存在するのか」という、企業経営における本質であるにもかかわらず、その本来の意味を理解しきれず、どのように活用していけばよいのか、答えを出しかねている企業が少なくありません。
日本において早くからパーパスについて取り組んできたエスエムオー代表取締役 齊藤三希子氏は、パーパス・ブランディングについて次のように説明します。「個別の事象で課題を解決していくのではなく、企業や組織の根幹となる拠り所=「パーパス(存在理由)」を見つけ、究極的にはそれひとつで判断・行動をし、課題を解決していくこと」。本コラムでは、7月9日に発売となる齊藤氏の著書『パーパスブランディング〜「何をやるか?」ではなく、「なぜやるか?」から考える』(宣伝会議)をベースに、身近な事例から「パーパス」について紐解いていきます。
日本チームのメダルラッシュに沸く東京オリンピック2020ですが、中でも開会直後から行われた柔道の強さには目を見張るばかりです。日本の柔道は、お家芸のように言われますが、決してずっと強かったわけではありません。2012年ロンドンオリンピックでは、男子はメダルゼロに終わり、また、その年、柔道界の暴力事件やパワハラが露呈しました。そして、問題の体制を一新すべく監督に就任したのが井上康生氏です。
井上監督が、まず大切にしたのは、「自他共栄」。「自分だけでなく他人も、そして社会全体が栄えていくこと」を意味するこの言葉は、講道館柔道の創始者、嘉納治五郎氏が「精力善用」(心身の力を最も有効に働かせること)と共に掲げた教えです。嘉納氏は、技術を身につける柔術を、技術のみならず人間形成を目指す柔道に進化させたのです。そして、嘉納氏には、「柔道の練習を通して、心身の力をもっとも有効に働かせることを身につけて自分を完成させ、その自分を使って社会を発展させて欲しい」という思いがありました。まさに、そこに柔道のパーパスがあり、井上監督が大切にした「自他共栄」は、私たちSMOが言うところの「パーパス」「ミッション」「ビジョン」の要素を含んだ言葉と言えます。
