宇宙から発信する唯一の“ウーチューバー”
澤本:今回の宇宙飛行士の募集は、理系じゃなくてもいいんですよね?
野口:今はいろいろな意見を聞いてるところなので、最終的にどうなるかはまだ分からないです。ただ、どういう形でも宇宙飛行士の条件について、私自身は3つあると思っています。1つは挑戦していくモチベーション。挑戦し続けるガッツがあるかどうかですね。2つ目は宇宙飛行に限らないですけども、今のコロナ禍のような状況も含めて時代の閉塞感であったり、困難な状況を突破する力。突破力と言いますか、状況を変えるだけの力があるか。最後は、今の時代に極めて重要になってきているのが、そういった努力や成果を出す発信力っていうんですかね。
澤本:はいはい。
野口:活動も伝えていかないと理解はされないと思っています。世の中の皆さんに、我々がやっていることは意味があると、しっかりと理解していただかないと存在そのものが危ういですから。「挑戦する心」と「突破力」と「発信力」。この3つは、次の時代の宇宙飛行士に持っていてほしいと思います。
中村:発信力は今の時代ならではというか。黙って背中を見せるだけじゃダメで、キチンと言っていかないとダメだと。
野口:おっしゃる通りで、昔は宇宙に行って帰ってくればよかったんですよね。それだけで自然とメディアの皆さんが取り上げてくれて、子供たちも目標にしてくれる。ただ、今のお子さんがやりたいことは、ユーチューバー、ブイチューバ―、プロゲーマーでしょう。
そのなかで、なぜ我々は宇宙に行くのかと。宇宙に行くことで何を得られるのか、あるいはそもそも人間は宇宙に出ることで、何を求めてきたのか。年齢や職業、地域が違うなかで、いろんな宇宙の捉え方があると思いますが、それを真正面から受け止めて、答えを出していける。発信力だけではなく、それに応えるコンテンツがないとダメなんだけど、しっかりコンテンツを持った上で、それを堂々と出していく力がないと、追い詰められた局面でも突破できないと思うので。その辺りは新しい世代の宇宙飛行士に伝えていきたいと思います。
中村:そんななか、野口さんはYouTubeでも発信されてきていますよね。動画編集も自らされていたと聞きました。
野口:そうですね。今回3回目の宇宙滞在だったんですけど、1回目はなんとか電子メールが使える状態だったので、「野口聡一です。宇宙にはじめてきました。ハッピー」といった文章を出すのが広報の中心でした。2009年から2010年の2回目は12年前ですけど、当時は宇宙でもついにインターネットが通じました。すごい低速で、ダイアルアップぐらいのスピード。でも、解像度を落とせば写真も送れるということで、日々の宇宙の姿、あるいは宇宙からの景色をビビッドに伝えるにはどうすればいいかと考え、Twitterで静止画を送っていたんですよね。
今回はだいぶ大容量の通信ができたので。まさに発信力として宇宙の生活をライブで伝えるのには何がいいかということで動画になりました。打ち上げの半年ほど前に気がつき、私自身はそれまで動画などはやっていなかったので、最初は日々の訓練を伝えるのにも自分のスマホで撮って出すだけだったんですけど。ただ、例えばiPhoneに組み込まれているiMovieでちょっと編集をやってみると、結構面白いことができることに気がついて。ある意味、自分の日記のようにやっていこうとはじめ、2回目ぐらいでは、もうネタが尽きたかなと(笑)。
一同:ははは。
野口:従来の広報だと、とりあえず「宇宙食撮ってみた」とか、運動のシーンね。そういうベタなのを素材として撮影して、地上の広報部が編集して出していました。ただ、写真もそうですけども、映像もそこに撮る人の意思が入っていると圧倒的に訴求力が増すと。そこに気づいて、宇宙食ひとつとっても、「なんで俺はこれが好きなのか」「これはこう食べると旨い」としていくことで、訴求力や映像の力が、圧倒的に増していくのは面白かったですね。
澤本:やっぱりYouTube的な発信はものすごいリアルで、地上と同じような生活を向こうでもやっているんだって分かりました。
野口:そうですね。
澤本:感覚としてすごく近く見えたので、あれはよかったですね。
野口:例えば、国際宇宙ステーションのなかを紹介するビデオは必ずやるけど、あんまり面白くないんですよね。だけど、僕と星出(彰彦)さんがラグビーボールをパスしながら、「このコーナーを回り込んで」「実はここから上に行けて」みたいにやっていると、ドラマになるんですよ。そこにいる、オッサンたちのね。
一同:ははは。
野口:オッサンたちがラグビーで遊んでいる姿が、まさに今この瞬間、宇宙で行われているというのはドラマなんですよね。そういうところはやっぱり違うと思いますね。
澤本:そういう工夫をね。野口さんもユーチューバーじゃないですか。
権八:そうですね。宇宙から発信している唯一のユーチューバー。
野口:だから、“ウーチューバー”。
一同:ははは。
澤本:いただきました!
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