企業の「なりわい」とは何か
「なりわい」(生業)というキーワードは日本語としては古くからある言葉であるが、経営やマーケティングの世界で使われるキーワードとしては新参の存在である。
発案者である私たち(望月真理子、中町直太、朝岡崇史)の定義では、「なりわい」とは企業が近未来の「ありたい姿」=「ビジョン」を実現した時に提供したいと考えている体験的な価値(CX)をお客さまにも分かりやすい言葉で表現したものである。企業が「なりわい」を変革することは、お客さまから見れば企業が提供する価値が刷新されることに等しい。
また「なりわい」は企業にとって経営の行き先を示す、いわば「旗印」でもある。旗が立つことでお客さまに対して企業が提供する価値の本質がわかりやすくなるだけでなく、インターナル(従業員)をはじめとするステークホルダーに対しても企業が近未来に向かおうとしているゴールがクリアになり、組織や階層の枠組みを超えた事業変革や組織文化変革の活動が進みやすくなるというメリットが期待できる。
また、「なりわい」は企業が創業時から培ってきた企業風土、価値観といった「熱量を持った精神性」をも包含する概念であり、同時に企業でリアルタイムに働いている従業員の組織文化に対する共感や愛着も涵養する営みという意味合いも含んでいる。このあたりが従来からある「事業ドメイン」との大きな違いである。
実を言うと、「なりわい」という概念について着想を得たのは、朝岡がここ数年来、通い続け、定点観測を続けているCES(シー・イー・エス。毎年1月初旬に米ラスベガスで開催)での体験を通じてである。
CESは近年、ヘルステック、フードテック、フィンテック、スポーツテックなどX-Techの領域にまで裾野を拡大し、「軍事以外の最先端テクノロジーなら何でもあり」という様相を呈しているが、一方で企業の経営トップが基調講演や記者会見を通じて、新ビジョンや野心的な成長戦略を世界に強くアピールする場にもなっている。

