著者の中村愼一さんは、損害保険ジャパン(損保ジャパン)に入社後2年で6つの新規事業を立ち上げ、今年度は100億円の売り上げを見込むなどすべての事業を軌道に乗せています。また、それには前職パナソニックでの事業開発の経験が生かされています。
大企業には人・モノ・カネの経営資源が豊富にありますが、それだけで新規事業がうまくいくわけではありません。では、成否を分けるポイントは何か。大手企業のマーケティング支援を数多く手がけてきたトライバルメディアハウス代表取締役社長の池田紀行さんが中村さんに聞きました。
ありそうでなかった、大企業の新規事業にまつわるノウハウ本
池田
:『ユーザーファーストの新規事業』は、中村さんが所属している損保ジャパンと前職のパナソニックでの経験をもとに、新規事業の意義や難しさ、そして面白さについて書かれています。大企業の事業開発に特化した書籍は少なく、同じような立場にいる方にとっては実体験からノウハウを学べる貴重な機会です。
定価:1,980円(本体1,800円+税)
四六判 224ページ
ISBN978-4-88335-553-2
ただ、新規事業を手がける大企業は多いですが、正直なところあまり上手くいっている印象がありません。社内ベンチャーや社内新規事業コンテストなどを行うケースはよく聞きますが、果たして成長事業が生まれるのでしょうか。中村さんはどうお考えですか。

池田紀行氏
トライバルメディアハウス 代表取締役社長
1973年、横浜出身。ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手クライアントのソーシャルメディアマーケティングや熱狂ブランド戦略を支援する。日本マーケティング協会マーケティングマスターコース、宣伝会議講師。『キズナのマーケティング』(アスキー・メディアワークス)、『次世代共創マーケティング』など著書・共著書多数。
中村
:確かに池田さんの指摘はもっともだと思います。私は、新規事業の成否を分ける重要な要素に「トップの強い意志」があると考えています。
2017年に損保ジャパンに入社する際、当時の西澤敬二社長(現会長)から感じたのは、将来への強い危機感でした。
当社の主力は自動車保険です。今は収益性の高いビジネスができていますが、自動車販売の減少傾向や自動運転車両へのシフトが進むことで、中長期で市場が縮小していくことは避けられない状況です。
西澤社長(当時)は「自分が社長を務めた会社が斜陽になるのは耐えらない。俺がいるうちに新しい事業をつくるんだ」と話していました。SOMPOホールディングスの櫻田謙悟会長も同様に「『昔は保険をやっていたんだね』といわれるくらいの存在にならないといけない」と話しています。このように、トップがコミットすることが最重要だと思います。
