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ナッジでタクシー違法駐車9割減 NTTデータ経営研が実験

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NTTデータ経営研究所は5月30日、京都市と共同で実施した実証実験で、「ナッジ」を活用してタクシーの違法停車時間を約9割減らしたと発表した。歩行者など周囲の視線を感じさせるデザインの看板を活用した。NTTデータ経営研究所は結果を踏まえ、全国の自治体や中央省庁、企業によるナッジの活用支援につなげる。

四条河原町交差点に設置した看板。違法停車の比較は、実施前の2月8~10日の3日間と、実施後の同15〜17日の3日間の比較

京都市下京区の四条河原町交差点に、四角く窓を空けた看板を設置した。歩道側には「この窓から見えるタクシーは、違法駐車中です」、車道側には「ドライバーさん 違法駐車 みんな見てますよ」と記載。看板設置前後で、1日あたりの違法停車時間が45.8分から5.1分まで減少した。約88%減となる。

「ナッジ」は、法学者のキャス・サンスティーン氏と経済学者のリチャード・セイラー氏らが『実践行動経済学』(2008年)で紹介した考え方。「選択を禁じることも、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形に変える、選択アーキテクチャー(選択肢の提示の仕方や環境)※のあらゆる要素」とされる。

NTTデータ経営研究所は、「ナッジ」の中でも、「他人から見られている」と感じることで、より規範的な行動をとりやすくなる人の傾向に着目した。防犯目的などで、目を描いたデザインは従来からあるが、窓を通して実際に他人から見られるように感じさせた。

利用客側にも、「違法駐車」という看板を他人も同様に見ている中で乗るのをためらわせるような、いわゆる「仲間からの圧力」(=ピア・プレッシャー)を感じる効果が見込まれる。NTTデータ経営研究所は、「1日当たりの違法停車タクシーの乗車回数も77%減少した」という。

交差点や横断歩道付近で駐停車するタクシーを減らすための取り組み。バスの発着の邪魔になったり、渋滞の原因になったりしていた。道路交通法では、交差点の側端や道路の曲がり角から5メートル以内の部分の駐停車を禁じている。

タクシー乗り場でも規定の台数以上の停車を防ぐための実験を行った。比較期間は交差点と同じ

NTTデータ経営研究所はほかに、同じ四条通のタクシー乗り場2カ所で、規定の台数を超えて停車するタクシーを減らすため、「1台目先頭」「2台目先頭」と記した看板を両車線に設置。西行は1日あたりの違法停車台数が5.7台から1.7台に、東行は11.3台から8台に減少したという。

四条通は京都バス、京阪バス、京都市営バスなどのほか、空港や大学をつなぐバスが乗り入れており、「交通結節点(ターミナル)」となっている。2015年には混雑や自動車交通量の調整のため、バスやタクシーの乗り場整備や道路幅の改良を施した。09年から15年にかけて、屋外広告2万5000件を撤去・是正してもいる。

「ナッジ」については、それによる介入や干渉を正当化する課題や事情はどのようなものか、という論点がある。セイラー氏は2018年、個人の意思決定を不当に操作することは、「(ナッジではなく)スラッジ(=ヘドロ)である」と指摘した。

米連邦取引委員会も昨年10月、巧妙な手口で契約につなげたり、あるいは解約されづらくしたりする行為は法律違反であるとする執行方針を発表。選択アーキテクチャーのあり方にも視線を向けている。

※()内はAdverTimes.編集部による付記