「伝える」から「人・組織を動かす」へ インターナルコミュニケーションはどう再定義されるのか

企業の広報責任者や担当者らとインターナルコミュニケーション(以下、IC)のあるべき姿について議論する「インターナルコミュニケーション・デイ 2026 Summer」が2026年6月23日、ヤプリ本社で開催された。
 
本セミナーのテーマは、「一方通行の伝達」から「自発的な行動」へ変わるコミュニケーション戦略。従来のICは、「伝える機能」として捉えられることが多かった。しかし、企業を取り巻く環境が大きく変化する中で、いま求められているのは、単に情報を届けることではない。従業員一人ひとりの共感や納得を生み、主体的な行動を促し、組織の中に新しい動きをつくることが期待されている。
 
オープニングセッションでは、「インターナルコミュニケーション研究会」を立ち上げた2024年からアドバイザーを務める、岡部一志氏が登壇。長年、日本マイクロソフトやNECでコーポレートコミュニケーションを率いてきた経験を踏まえ、ICの現在地と、これから目指すべき姿について語った。

研究会で見えてきたICの現在地

インターナルコミュニケーション研究会は、ヤプリと宣伝会議が2024年に立ち上げた取り組みで、現在では30社を超える企業が参加している。メーカー、金融、インフラ、小売、メディアなど、業種は多岐にわたり、各社の責任者・担当者が集まり、事例共有やグループディスカッションを通じて議論を重ねてきた。

2024年は「ICは経営機能である」という考え方を掲げ、ICを社内広報や情報発信の延長ではなく、経営に資する機能として捉える視点が議論された。2025年には、社内カルチャーの醸成に貢献する視点へとテーマが広がった。そして3年目となる2026年は、「ICの価値再定義」を掲げている。

では、この数年でICの捉え方はどのように変化してきたのか。岡部氏は、その背景に企業を取り巻く環境変化があると指摘する。コロナ禍、世界的な紛争、経済安全保障への関心の高まり、デジタル化、AIの普及、人材流動化、人的資本経営への注目。こうした変化の中で、多くの企業にとって「企業を変革させていくこと」が大きな経営課題になっている。

その中でICに期待される役割も変化している。従来は、社内広報と呼ばれるような情報発信が中心だった。しかし現在は、パーパスやミッションの実現に向けて、コミュニケーションの観点から企業変革に貢献する組織・機能として位置づけられ、期待されるようになっている。「まさに経営という側面から、インターナルコミュニケーションの活動、人材、チームの組織力を機能として見ているというのが、この数年の大きな変化だと思います」と岡部氏は語る。

写真 人物 「インターナルコミュニケーション研究会」のアドバイザーを務める岡部一志氏

「インターナルコミュニケーション研究会」のアドバイザーを務める岡部一志氏

ICが向き合う「ギャップを埋める」難しさ

ICへの期待が高まる一方で、その難しさも増している。情報を発信することと、従業員がその情報を理解し、自分ごととして受け止め、行動を変えることは同じではない。岡部氏は、ICが向き合う課題が「発信」から「変化を生むこと」へと広がっていると見る。

その背景には、組織内に存在する多様なギャップがある。国内と海外、本社と現場、デジタルとフィジカル、本社とグループ会社。働く場所や職種、雇用形態、経験・キャリア、文化的背景が異なる中で、同じメッセージを発信しても、受け止められ方は一様ではない。

「いろいろな異なる環境の中で、どうギャップを埋めていくのかが、非常にチャレンジングなテーマになってきています」と岡部氏は話す。

これは、ICの役割が単に拡張しているというだけではない。役割が増え続ける一方で、人員や予算などのリソースが簡単に増えるわけではない。だからこそ、ICは自らの価値を再定義しなければならない。岡部氏は、「再定義」とは突然すべてを大きく変えることではないと強調する。重要なのは、会社が目指していることや、経営から期待されていることに対して、どのポイントを、どのスピードでアップデートしていくのかを見極めることだ。

従来の活動をどう進化させるのか。何をやめるのか。新たに何へ挑戦するのか。ICの価値再定義は、その問いに向き合うことから始まる。

価値再定義に必要な3つの視点

2026年の研究会では、「主体的なアクションとオーナーシップを育む」「ICは経営機能であるという前提の重要性」「感情を起点に組織にムーブメントを生む」という論点が議論されている。

岡部氏は、ICの価値再定義には大きく3つの視点があると整理した。

1つ目は、これまで続けてきた活動をどうアップデートするかである。長年続く社内報やイベント、トップメッセージ発信など、各社には伝統的に価値があると考えてきた活動がある。それらを否定するのではなく、いまの社会環境や経営課題に照らして、どのように進化させるかが問われている。
2つ目は、効果的でないもののうち、何をやめるかである。ICへの期待や責任が重くなる中で、限られたリソースをどう使うかは重要な論点になる。すべての施策を続けるのではなく、目的に照らして、そのインパクトの観点から優先順位をつけることが必要だ。

3つ目は、新しいことにどうチャレンジするかである。ここで重要になるのが、IC担当者自身のオーナーシップだと岡部氏は話す。

広報やコミュニケーション部門は、ともすれば社内の「サービス提供組織」と見なされがちだ。プレスリリースを出してほしい、社内報で紹介してほしい、イベントを企画してほしい。そうした依頼を受けて動く立場に回ることも多い。しかし、社員の自律性や主体性を促すことが企業変革において重要だとすれば、ICを担う側もまた、受け身ではいられない。自分たちがプロフェッショナルとして、会社の変革にどう貢献するのかを考え、主体的に戦略やプランを立て、実行し、インパクトを醸成する必要がある。

「社員の自律性を重視するメッセージを発信しているのであれば、自分たちもオーナーシップを持って取り組むことが大切です」と岡部氏は語った。

写真 イベントの様子

コミュニケーションで人と組織の成功を支える

ICを経営機能として捉えるとき、広報部門やコミュニケーション部門だけですべてを担うことはできない。経営執行チームはもちろん、人事部門、経営企画部門、D&I推進チーム、各事業部門、現場の管理職など、社内の様々なステークホルダーと連携しながら進める必要がある。

岡部氏は、人事部門で「ピープルサクセス」という考え方が広がっていることに触れながら、コミュニケーションチームもまた、事業推進やイノベーション創出に向けて、社内の人と組織の成功を支援し、カルチャー変革を推進し、引っ張っていく機能になるべきだと述べた。

これからのICは、単に社員に情報を届ける機能ではない。社員が会社の方向性を理解し、自らの仕事との接点を見出し、自律的に行動に移せる状態をどうつくるか。さらに、部門間や階層間に生まれる認識のズレをどう埋め、組織全体の動きを生み出していくかが問われる。

岡部氏は、今後のICを考える上で、感謝や称賛、共感の重要性にも触れた。ワクワク感をもって、より働き甲斐のある職場環境を構築していくことは、多くの企業に共通するテーマである。そのためには、感謝する、称賛する、一緒に感動を味わう、共感をつくるといった、感情を起点にしたコミュニケーションが欠かせない。将来的にはAIの利活用が拡大し、人とAIが共存する職場において、ICが何をつなぐ機能になるのかも問われる。

岡部氏は最後に、インターナルコミュニケーションという言葉そのものも、今後さらに進化していく可能性に言及した。社内広報からICへと概念が広がってきたように、これからの役割を表す新たな言葉が必要になるかもしれないという。

ICは、もはや一方通行の情報伝達ではない。経営と現場をつなぎ、共感を生み、行動を促し、組織の変革を支える機能である。各社が自社にとってのICの価値を問い直すこと。その議論こそが、これからのインターナルコミュニケーションを前に進める第一歩となる。

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