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コラム

インスピレーションが湧き上がる場所ークリエイターにおすすめの書店

本の森で、書籍を通じてお客さまに寄り添うコンシェルジュの存在/二子玉川 蔦屋家電

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【前回コラム】全店員が全ジャンルを把握 本とお客さまをつなぐ案内人に/リブロ汐留シオサイト店

アイデアの宝庫である書店で働く書店員の視点から、他店との差別化の工夫や棚づくりのこだわりを紹介する本連載。さまざまな思いを書店員が語る。今回は、年間700万人もの人々が訪れる二子玉川 蔦屋家電(東京・世田谷)の鈴木雄大氏にインタビュー。同店は、人々が生活する中での興味関心を軸に滞在してほしいという思いのもと2015年に開店した。コロナ禍には、変化する日常に対応しようと店舗内にシェアラウンジをオープンするなど、アップデートを続ける同店を取材した。

二子玉川 蔦屋家電の鈴木雄大氏。店舗に9人在籍する書籍担当コンシェルジュの一人。主にワークスタイル(ビジネス、自己啓発、資格)のジャンルを担当する。

限られた売り場でジャンルの垣根を超えた棚づくりを目指す

——主な客層と売れるジャンルを教えてください。
当店は家電と書籍を中心に、生活提案を行う店舗として2015年に誕生しました。周囲には住宅地が広がっており、子育て世代や若年層の来店が多くみられます。近くに複数のオフィスがあることから、ビジネスマンの方も多く来店されています。そのため、児童書とビジネス書がよく売れるジャンルとなっており、暮らしとビジネスの両要素を持つ街の特徴が出ていると思います。

店舗全体にデザイン性の高い家具や雑貨を配置していることもあり、クリエイティブな発想につながるインスピレーションを求めて来店している方が多いように見受けられます。ワークスタイルのカテゴリーでいうと、発想術や時間術に関する書籍は人気が集まっていますね。昨今の働き方の変化に合わせて、課題を感じている方々が手に取っているという印象です。

——店舗が賑わう時間帯はありますか。
カフェが併設されていることもあり、12時ごろから15時に来店者数が多くなる傾向にあります。平日は近隣のオフィスからの来店が多く、ビジネス書エリアは1日中賑わっていることが多いですね。

取材時には“秋まつり”をテーマに各ジャンルがフェアを開催。1カ月から1カ月半に一度、店舗全体がひとつのテーマに沿った商品の提案を行っているという。「フェアはより一人ひとりのお客さまに寄り添うことができる場だと思っています」と鈴木さん。

——二子玉川 蔦屋家電ならではの特徴や、他店との差別化を図っている点は。
当店には各ジャンルの専門知識に精通したコンシェルジュがいます。コンシェルジュは売り場を編集するキュレーターであり、暮らしのアドバイザーとしての役割を持っていることが特徴です。

また店舗の特徴として、家電や雑貨の販売スペースも多く、全てのスペースを書籍に使用できるわけではありません。その分、コンシェルジュとして売り場から一人ひとりのお客さまに寄り添った一冊の提案を行いたいと思っています。棚をつくる際には、常にお客さまの悩みや課題を解決できるように心がけています。

雑貨の販売も行っている同店。秋をテーマにセレクトされた美術作品のグッズが並ぶ。

——店舗で力を入れている部分を教えてください。
お客さまが居心地良く過ごせる書店となれるよう努めています。実は店舗のデザインを手がけている池貝知子氏は個人の邸宅なども設計しているため、自宅にいるかのような居心地の良さを提供できるよう意識して設計されています。他にも空間設計の点から、照明は日中や日没などのシーンをつくり出し、夕方から夜にかけては店内が暗くなるように設定しています。また、棚に植物を多く配置することでリラックスできる感覚をもたらし、クリエイティブな発想につなげてほしいという思いを込めています。

書店員と教員のダブルワーク、書籍の提案を通じてお客さまに寄り添う日々

——選書の際のこだわりはありますか。
書籍を手に取るお客さまの人生が豊かになるような一冊を提案できるよう心がけています。

私は、一人ひとりが抱えている悩みを想像し、寄り添うことを職にしたいという思いがあり、教員とのダブルワークをしていた時期がありました。2つの職業には、抱える悩みに対する解決策が言葉なのか、本なのかという違いしかないように思います。しかし、ただ悩みを解決できる書籍だけを並べていてもネガティブな売場になってしまうため、ところどころにこの先の豊かな人生を想像出来るような書籍を散りばめることを心がけています。

——ビジネス書の棚づくりについて工夫している点はありますか。
入り口付近の棚には新刊を置くことが多いと思いますが、個人的にはお客さま一人ひとりが新しい書籍と出合った瞬間、それがその人にとっての「新刊」になるのだと思っています。そのため、発売日が直近の書籍ばかりを並べるといったことは行っていません。

また、多くの方がビジネス書に持たれる「内容が難しいのではないか」といったイメージを壊したいという思いもあります。ジャンルは問わず、どんな書籍の中にも必ずひとつは響く言葉があると思っています。お客さまに「生活に新たな発見がありそうだな」「今とは違った生活を送れるかもしれない」と想像してもらえるような、新鮮な棚づくりを目指しています。

1階中央に位置するワークスタイル関連書籍の新刊コーナー。「お客さま一人ひとりが本と出合った瞬間、それがその人にとっての新刊になる」と語る鈴木さん。実際に発売が2010年代の書籍も並ぶ。

——二子玉川 蔦屋家電のおすすめの過ごし方を教えてください。
書籍、家電、雑貨がシームレスに配置されているため、はじめて当店を訪れる方、また買いたい書籍が決まっている方にとっては、検索性が高いお店とは言えないかもしれません。ただ、すぐに欲しい書籍が見つからなくても本の森に迷い込んだような感覚になっていただき、働き方から生き方まで、店内を回遊しながら自分を見つめなおす時間を過ごしていただけたら嬉しいです。

DATA
二子玉川 蔦屋家電
住所:東京都世田谷区玉川1-14-1 二子玉川ライズ S.C. テラスマーケット
開店年:2015年
営業時間:10:00~20:00
定休日:元日

担当者おすすめの1冊

『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』
古賀史健(著)

 
大ベストセラー『嫌われる勇気』をはじめとする数々の名著を生み出した古賀史健さんの著書です。恐らくこれからライターになりたい方や、編集者の方に向けて書かれた本書ですが、SNSやメールが身近になった今、「書く」という行為を日常的に行っている方は非常に増えていると思います。とても読みやすい文章で書かれている本書は、まさに「書く」行為を体現しています。自分の考えを言葉で表現するすべての方に向けた教科書的な存在になってくれる一冊です。