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コラム

インスピレーションが湧き上がる場所ークリエイターにおすすめの書店

130人の偏愛を集めたシェア型書店/渋谷〇〇書店

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渋谷の駅上にある渋谷ヒカリエ。その8階、ギャラリーなどが並ぶ中にあるシェア型書店「渋谷○○書店」。発起人であり管理人でもある&Co.代表取締役の横石崇さんに話を聞いた。アイデアの宝庫である書店で働く人々の視点から、その店ならではの特徴やこだわりを紹介する本連載。新たな書店の楽しみ方を提案する。

写真 人物 個人 「渋谷〇〇書店」の管理人 横石崇さん
「渋谷〇〇書店」の管理人、横石崇さん。

「3カ月に1度の店番」がルールのシェア型書店

――渋谷○○書店をはじめたきっかけを教えてください。

コロナ禍にあった2021年10月にオープンしました。10年間ほど渋谷ヒカリエで「TOKYO WORK DESIGN WEEK」という働き方の祭典を主催していたんですが、そこでのつながりから、8階の空いている店舗スペースで何かできませんか?と声をかけていただきました。

当時、渋谷ではどんどん書店がなくなっていて、渋谷ヒカリエにもずっと書店がありませんでした。書店巡りが大好きなので、「本屋のない街・渋谷」ってどうなんだろう?と思い、書店開業を模索しました。

ただ、渋谷の駅上で独りで書店をやるというのは現実的ではないと思ったときに、シェア型書店という存在を知りました。

――シェア型書店とはどのようなものなのでしょうか。

シェア型書店という形態は、棚の数は店舗によってそれぞれですが、ひと棚ひと棚に棚主さんがいます。棚の中だったら好きな本を置いて売っていただくことが可能です。棚をパンパンに詰める人もいれば、1冊だけで勝負しますみたいな棚主さんもいます。

新刊書店との大きな違いは、全て個人間取引ということ。基本的には棚主の皆さんが自分で買ったり作ったりした本が置かれています。

なので、渋谷○○書店という店名にはこだわりがあります。「○○」という部分が棚主の好きな書店名に変わり、自分のこだわりや偏愛を表現できるようになっています。

写真 グラフィック 掲出風景 渋谷○○書店
月4950円で誰でも本屋さんになれる「渋谷○○書店」。

――渋谷○○書店の棚主のルールは。

ルールは、並べるのは本だけということと、3カ月に1回店番するということ。本であれば基本的に何を並べても良いですし、自分の棚の中であれば飾り付けることもできます。

棚主の皆さんがシフト制で店番をしていますが、誰も店番に入れない日はお休みになります。店番している間は、企画棚に好きな本を置けたりもして、自分ならではの書店空間をつくってもらうことができます。

2020年当時は、全国に10カ所くらいのシェア型書店がありましたが、今は50カ所くらいに広がっています。地方のシャッター商店街で、お金を出しあって本屋を残す仕組みとして活用されて、どんどんと広がったんですね。その仕組みを、渋谷の駅上でも活用してみたらどうかと思い、渋谷○○書店というシェア型書店が誕生しました。

おかげさまで開店して2年ほど経ちますが、辞めた方は1割ちょっとぐらいですかね。多くの方に残っていただいていて、棚はずっと完売状態になっています。

――店づくりのこだわりは。

実店舗以外でも、展開できる店づくりを目指しています。例えば、屋外イベントに出張するなど、今店舗を設けているこの場所でなくても成立するということです。

写真 店舗・商業施設 複数 渋谷○○書店
店内には、車輪のついた移動自転車も。移動する〇〇書店ができるようになっている。

店内には “お籠り部屋”のようなものも作っており、そこで長居する方もいます。本が売れるということより、本で繋がることを重要視しているので、長く居てもらったり、お話してもらったりするのが理想です。それが、シェア型書店の面白いところ。本を買ったり、売ったりするだけじゃない場所になっているのは、特徴的なところかなと思います。

写真 店舗・商業施設 複数 渋谷○○書店 お籠り部屋

本棚の裏につくった“お籠り部屋”。

棚主130人の「偏愛」が詰まった本棚

――渋谷○○書店のテーマ「偏愛」ですが、このテーマはすぐ思い浮かんだのでしょうか。

渋谷ヒカリエでやっていた「TOKYO WORK DESIGN WEEK」というイベントは、「働き方はこれからどう変化するのか」をコンセプトにしていたこともあって、世の中が“組織”から“個”へ働き方がシフトしていっているのを普段から感じていました。“個”というのは、起業やフリーランスとかそういう話ではなく、「個性」や「こだわり」、しいては「偏愛」のこと。今後は、より個のチカラが組織や社会を大きく動かしていく時代になっていくんじゃないでしょうか。

自分の偏愛に対して、誰かが「それ、いいね」と言ってくれる機会が増えれば増えるほど、もっと世の中が前向きになると思っています。

――横石さんの偏愛するものがあれば教えてください。

僕自身に、強い偏愛の対象があったらこの書店をやっていないかもしれませんね。たぶん、全部自分の偏愛で独占して埋めたくなってしまう。自身の偏愛よりも、誰かの偏愛に興味があるから、この企画が成立したのではないかと今となっては感じています。

なので僕の肩書は、店長ではなく管理人。130人いる棚主さんがどちらかというと店長なので。僕自身は、お店にはほぼ行かないようにしています。行っても営業時間外が多いです。

個性豊かな棚主さんの想いを受け取れる場所

――棚主さんには、どんな人がいるのでしょうか。

例えば、「渋谷シルクロード書店」をしているのは80代の男性です。シルクロードが大好きとのことで、ご自宅にあるコレクションの一部を置いていただいてます。

写真 店舗・商業施設 渋谷○○書店 渋谷シルクロード書店
「渋谷シルクロード書店」。

7歳の娘も棚主になってもらいました。「渋谷あおちゃん書店」というもので、娘の読んだ絵本やマンガが置かれていて、店番のときは娘が手売りします。自分で読んだものが売れていく体験は、キッザニアみたいで面白がってやっています。

写真 店舗・商業施設 渋谷○○書店 渋谷あおちゃん書店
「渋谷あおちゃん書店」。

――今後の展望を教えてください。

自分の子どものことを考えてもそうなのですが、とにかく本屋さんがなくなっているので、本屋のある風景を残したいと思います。インターネットで買えるのは便利ですが、本や書店が好きな人たちが気軽に情報交換できる溜まり場であったり、次世代の本文化をみんなで企めるような場をつくることは続けていきたい。そうすることで、また新しい本屋の風景が広がっていくと信じています。

棚主さんにも話を聞きました―「渋谷エリーツ書店」
phaさん

写真 店舗・商業施設 渋谷○○書店 「渋谷エリ―ツ書店」
「渋谷エリ―ツ書店」。取材時も、一緒に雑誌を作っているメンバーが遊びにきていた。

――「渋谷エリーツ書店」について教えてください。

「エリ―ツ」という文学系ロックバンドのメンバーで雑誌を作っていて、それを棚に置いています。メンバーは私を含め、全員が小説家。各々の小説執筆とは別に、皆で雑誌を作っています。元々文学フリマなどに出ていて、他の書店でも委託販売をしているのですが、渋谷でも販売したいと思い棚主になりました。

――実際にやってみていかがですか。

面白いですね。こういう空間で、たまに店番するのもいいです。店番の時はいつも、一緒に雑誌を作っている仲間が遊びに来てくれます。

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  • DATA
  • 渋谷〇〇書店
  • 東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ8階
  • 営業時間:12:00-18:00 ※不定休。必ずTwitterにて最新情報を確認ください。

横石さんおすすめの1冊

写真 表紙 『はずれ者が進化をつくる』

  • 『はずれ者が進化をつくる』
  • 稲垣栄洋(著)

「ふつう」なんてクソ食らえ。シェア型書店を運営していて最も楽しみなことが、個性あふれる棚主さんたちとの出会いです。この本は「平均的」な生き方や考え方がいかに蛇足で、棚主さんのように「自分のまま」でいることがどれだけ大切なのかを教えてくれます。ついつい、仕事の中で「平均」や「他人のものさし」に振り回されがちな方にこそ読んでほしい。