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コラム

インスピレーションが湧き上がる場所ークリエイターにおすすめの書店

吉祥寺で信頼される古書店「蔵書を見れば、紡いできた時間が見える」/百年

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平日も多くの人で賑わう吉祥寺の中心エリアに、ひっそりと佇む古本屋「百年」。店主の樽本樹廣さんが2006年に開業してから、今年で18年目を迎える。
アイデアの宝庫である書店で働く人々の視点から、その店ならではの特徴やこだわりを紹介する本連載。新たな書店の楽しみ方を提案する。

 

読者と作者と書店がつながる、親密な場所をつくりたかった

―店名(百年)の由来を教えてください。

由来は2つあります。
ひとつは、内田栄一監督の映画『きらい・じゃないよ2』(1992年)に登場する、生と死の狭間にある「百年まち」から。一度死んだような状態になった蔵書を、改めて発見し生き返らせるといった古書店の仕事に重ねています。

もうひとつは、一世紀=“百年”から。百年の次はまた新しい時代が始まりますよね。リセットされる感覚が、本のサイクルとも似ているなと思い、由来になっています。

―元々は新刊書店で働かれていたとのことですが、古書店を開こうと思ったきっかけはなんでしょうか。
新刊書店には4年ほど勤めていましたが、当時は本に関するイベントというと握手会やサイン会といった一方向的なコミュニケーションが多い印象でした。

そんな時、読者と著者と書店がつながれるような場所をつくりたいなと思ったことがきっかけです。あともう少し、親密になれるそんな空間や場所を提供したかったんです。

最初は新刊書店を開きたいと思っていましたが、個人で始めるには少し難しく、古書店という形をとりました。

―店内の書籍の割合は。

古書が9割、残り1割が新刊といったところでしょうか。
今も新刊を置くのは、好きだからという部分と、本に古いも新しいも関係ないと思っているからです。

こじんまりとした店舗だからこそできることがある

―棚づくりの工夫を教えてください。

ジャンルごとの陳列など、決まっているものもありますが、お客さん自身で足で探してもらって、新しい本と出会ってほしいなという思いがあります。

インターネットの販売サイトでは簡単に見つけられるものの、不意な出会いは少ないと思うので。これくらいの店舗の規模感であれば許されるかなと考えています。

天井から書籍のPOPがぶら下がるなど、ユニークな展開も見られる。

―百年だからこそできること、さらには小さな店舗だからできることはなんでしょうか。

“コミュニケーション”ですかね。

リトルプレスの展開も多いので、つくり手と書店が近く、さらには読者までの距離が近いことが特徴だと思います。

開店当初は27歳だった私が、同世代に向けた場所にしたいと思って立ち上げたお店なので、今でも長く通ってくれる同世代のお客さんもいれば、20代のお客さんもいらっしゃいます。
若い方が来てくれるということは、“今”を捉えられているのかなと思いつつ、長く続けるためには、自分自身も世の中に敏感でいないといけないですね。

若いお客さんにも、ここに来たら何かあるな、と思ってもらえるような空間をつくりたいと思っています。

―敏感であるために心がけていることは。

流れで仕事をしないことです。

その本の何が面白いか、どこがいいのか、立ち止まって考えることが必要だと思います。
考えながら仕事できれば、自ずとできることも広がっていくのではないでしょうか。

対面で生まれる信頼が、蔵書の良さ・店の良さに繋がっていく

―百年ならではの強みはありますか。

“お客さん”です。
古書店なので、お客さんの蔵書の良さが品揃い、さらには店舗全体の良さにつながっていると思います。

自身の蔵書を百年に預けてくれるということは、信頼してくれていること。お客さまとの信頼関係が強いお店ではないかなと思いますね。(蔵書を)百年に預けてよかった、と思ってもらえることも多いと感じています。

―コミュニケーションについてこだわりはありますか。

顔が見えることについては、非常に心がけています。
野菜の生産者が見えることで、安心して購入できることと同じです。

どんな人がやっている本屋さんなんだろうという疑問に対して、顔が見えることで生まれる安心感はあると思っています。
古書店なので、蔵書を売る際の信頼感や、発信している本の紹介への関心につながるかもしれないという気持ちでやっています。

2017年、百年から徒歩1分の場所に本屋「一日」をオープンした。展示やイベントを開催し、コミュニケーションが生まれる場となっている。

SNSなど、オンライン上での発信や情報の見せ方については、どんなことに興味があって、発信している情報なのか、ということが伝わるように意識しています。

―吉祥寺という街で店を開ける意味について。

小さな店がたくさん集まってできていることが、吉祥寺のいいところだと思っています。そのため、ここでやり続けることこそが、吉祥寺が良くなることにつながるかなと思います。
小さい店舗だからこそお互い顔が見えて、人が集まっていくことで良い街になっていっていると実感することも多いです。

―本に長く携わる仕事を続ける樽本さんにとって、本とはどのような存在ですか。

世界を知るための手段であり、より良くするためのヒントや手がかりでしょうか。

新刊書店から古書店へと働く場所が移り変わったことで、知識も手に取る量も増えました。
また、古書の買い取りを通じて、さまざまな方の蔵書を見ることがありますが、蔵書を見ることでその人の人生が垣間見える瞬間があるんです。

そういう時に、その人ならではの世界があるんだなと実感しますし、蔵書を見ることでそれまでの時間を見る感覚があるんですよ。
本を信用している人はすごく多くいると思っていて、そういう人たちが紡いできた時間が本の歴史なのではないでしょうか。
その歴史を引き継ぐことが僕らの仕事だと思っています。

 

DATA
OLD/NEW SELECT BOOKSHOP 百年
東京都武蔵野市吉祥寺本町2-2-10 村田ビル2F
営業時間:12:00~20:00
定休日:火曜

樽本さんおすすめの1冊

『喫茶店のディスクール』
オオヤミノル(著)

 
“思い”やコンセプトもバッチリ、これならクラウドファンディングで資金調達もできる、SNSだってフォロワー数を増やしている、ではその“先”どうする?商いを侮るなという話です。
小商いをしている方も、これからはじめようと思っている方にも読んでほしい一冊です。喫茶店の話ではありません。