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【はじめに公開】新刊『世界の広告クリエイティブを読み解く』

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「宣伝会議のこの本、どんな本?」では、当社が刊行した書籍の内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」を掲載していきます。
今回は、6月27日に発売した新刊『世界の広告クリエイティブを読み解く』の「はじめに」をダイジェストでご紹介します。

『世界の広告クリエイティブを読み解く』山本 真郷・渡邉 寧 著 定価:2,420円(本体2,200円+税) 詳細・ご購入はこちらから

「価値観の違い」は、説明できない?

海外の広告や映画・ドラマ作品を見て、心を揺さぶられることもあれば、違和感を覚えたり、意味が理解できない(笑いや感動のツボがわからない)と感じたことはないでしょうか?こうした感覚の違いを生む背景のひとつに「文化」の違いがあります。本書は異文化と関わるマーケターやクリエイターの方々に対して、世界の文化的価値観を分析する手がかりをご提供しようという試みです。

多くの日本の方が日本文化と海外の文化は異なるという感覚を持ってらっしゃるのではないかと思います。しかし、日本文化の何が海外とは異なるのか、どのくらい異なるのか、その違いはどこの国との比較の中で存在するのか。そうしたことを体系立てて説明できる人はほとんどいないのではないでしょうか。

「文化的価値観」と言いますが、日本文化と海外の文化の価値観の違いを体系立てて学ぶことにより、海外のクリエイティブがどのような文化的価値観のもとに評価されているのかがわかるようになります。また、皆さまが海外・異文化に向けてクリエイティブを立案する立場にいらっしゃるのであれば、海外市場のどのような価値観を見据えて、広告表現を作ろうとしているのか、明確に説明できるようになります。

なぜ異文化理解が重要なのか


実データ グラフィック バドワイザー(Budweiser)というビールブランド
(出典 Budweiser公式サイト)

バドワイザー(Budweiser)というビールブランドがあります。アメリカミズーリ州セントルイスに本社があるアンハイザー・ブッシュ社が1876年から製造・販売しているビールです。2008年にベルギーのインベブが買収し、現在は世界シェアトップのアンハイザー・ブッシュ・インベブ社のブランドとして世界各地で販売されています。

バドワイザーのキャッチコピーといえば、「THE KING OF BEERS(ビールの王様)」で、今でもバドワイザーのブランドロゴは必ずこのキャッチコピーと併記され、非常に強固なブランドアイデンティティとして消費者にアピールされているのがわかります。

もう一つ、カールスバーグ(Carlsberg)というビールブランドがあります。カールスバークはデンマークのコペンハーゲンで1847年に創業されたビールブランドです。バドワイザーと同じく19世紀から続く歴史あるブランドで、40カ国以上に醸造所を持つ世界第4位の世界ブランドです。

カールスバーグのキャッチコピーはちょっと変わっていて、「PROBABLY THE BEST BEER IN THE WORLD」です(下線強調は筆者)。バドワイザーのように「THE BEST BEER」とは言わずに、PROBABLY(たぶん)と謙虚さを加えているところがポイントで、このキャッチコピーは1973年から使われていたそうです。


実データ グラフィック カールスバーグのキャッチコピー、「PROBABLY THE BEST BEER IN THE WORLD」
(出典 Carlsberg公式サイト)

この2つのビールブランドの異なるキャッチコピーを見て、皆さまはどう感じますでしょうか?「面白いな」と思う方もいらっしゃるかもしれません。特に、カールスバーグは自社商品の宣伝なのに「Probably(たぶん)」というような曖昧な表現をキャッチコピーに入れています。この表現はとてもユニークに感じます。

また、2つのブランドのイメージの違いを感じる方もいるかもしれません。バドワイザーのキャッチコピーからは、「ビールの王様は我々だ」というプライドと共に、マッチョなイメージを感じ、カールスバーグのキャッチコピーからは、マッチョさよりも謙虚さや柔らかさを感じるかもしれません。

何を感じるかは人それぞれだと思いますが、私たち(著者の山本・渡邉)は、このような広告の違いを見ると、「なぜ」このようなメッセージ構造の差が現れるのか、に注目します。広告表現は消費者に受け入れられ、(多くの場合は好意的な)態度形成と反応を引き出すために作られます。そのため、消費者の価値観と照らし合わせて効果的な表現が選択されていきます。この過程で、ある市場、あるグループ、ある世代における支配的な価値観にクリエイティブの表現内容が影響を受けていきます。

それはまさに氷山のようなものです。私たちが目にするクリエイティブの表現は水面上に出た目に見えるものですが、水面下には、目に見えない価値観が存在しています。この価値観に基づいて、我々が目にする広告やプロモーションは制作されており、ある市場、あるグループ、ある世代の価値観と、表現された広告やプロモーションが一致する場合、広告やプロモーションの効果は高くなります。


イラスト イメージ図 クリエイティブ表現の氷山の一角

バドワイザーとカールスバーグは、それぞれアメリカとデンマークという異なる国の出自で、基礎としている文化的価値観が異なります。本書を最後まで読んでいただくと理解いただけるようになると思いますが、アメリカは「男性性」の文化的価値観を持っているのに対し、デンマークは「女性性」の文化的価値観を持っています。そして、バドワイザーとカールスバーグのそれぞれのメッセージは明らかに「男性性」と「女性性」の価値観を反映しているように見えます。

文化的価値観の影響は無意識的に現れるので、もしかしたらそれぞれのキャッチコピーを作ったクリエイターも自分が無意識的に文化的価値観の影響を受けているということに気づいていないかもしれません。ある特定の市場に対して、長く・深くコミットしてクリエイティブの仕事をすればするほど、その市場が前提としている価値観が標準的なものだと思うようになっていきます。そして、その市場を理解し、受け入れられるクリエイティブを作ることには長けているが、それ以外の市場の価値観がうまく理解できず対応できなくなる可能性が発生します。

こうした文化的な視野狭窄(しやきょうさく)を避ける為には、理論の力を借りて、「なぜ」あるクリエイティブ表現がその市場で効果を持つのかを一度分析的に考えることが有効です。そして、オランダの社会心理学社ヘールト・ホフステード博士が研究した6次元モデル(6D)というフレームワークは、多様な価値観を理解し、市場に適したクリエイティブを制作するための一つの考え方を提示してくれます。グローバルな活躍を目指すマーケターやクリエイターにとって大きな価値を提供してくれるでしょう。

世界を分析する「道具」を手に入れる

私たちがこの本を書いている理由は、マーケターやクリエイターとして活躍される方々に対して、世界を分析する「道具」をお渡ししたいと思うからです。

人は自分の価値観に照らし合わせてメッセージやクリエイティブを理解していきます。そのため、自分の価値観と照らし合わせて「面白くない/重要だと思わない」と感じるメッセージやクリエイティブは、目に入ってこないか、目に入ってきたとしても、無意識的に無視をしたり反発したりしてしまい、意図した効果とはならないことが大半です。

昨今では、世界のネット化によるフィルターバブル(見たくない情報はアルゴリズムが遮断してしまい、自分の見たい情報しか見えなくなること)の問題が言及されています。人は自分の価値観に近いものに対して好意や親しみを感じ、自分の価値観と異なるものに対して嫌悪や親しみにくさを感じます。

テック企業のアルゴリズムの影響が世界的に大きくなっていること自体は大きな社会課題ですが、自分とは異なる価値観を持つ人達に対して、それでもなんとかしてメッセージを届けたいと思うのであれば、自分(たち)はどのような価値観を持っていて、他の人々はどのような価値観を持っているのかを俯瞰して理解した上で、コミュニケーションプランを考えていく必要があります。

この分析を行うための「道具」がホフステードの6次元モデルです。通称6Dと言われますが、これはオランダの社会心理学社ヘールト・ホフステード博士が1960年代末から研究を行い構築されたもので、国レベルで変わる文化を数値で表すモデルです。元々は国の価値観の違いを理解するフレームワークですが、消費者行動分析やマーケティングの領域でも活用されています。6Dを学ぶことで、マーケターやクリエイターの皆さまは次のような学びが得られるはずです。

1. 世界各地の価値観の違いを理解することができるようになります。
2. 世代によって変化する価値観の大局的な流れを理解することができるようになります。
3. 価値観を理解することで、ある広告表現やメッセージが「なぜ」ある市場/セグメントでは好意的に受け入れられるのに、他の市場/セグメントでは効果がないのかが理解できるようになります。
4. どのような方向性で広告表現を作ることが効果的かを分析的に考えることができるようになります。

ホフステードの6Dは、大規模データの分析に基づき科学的根拠が十分に検討された信頼性・妥当性が高いモデルです。世界中の多くの研究者が今でもホフステードの6Dを使った研究を続けており、マーケティング領域でも、ホフステードモデルを元にした研究がなされており消費者理解に活用されています。

日本のマーケター・クリエイターの皆さんにも、ぜひ、ホフステードの6Dを出発点として、世界中の研究者の知見を活用していってほしいと思います。

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山本 真郷(やまもと・まさと)

富士フイルム・インドネシア 社長。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、20年にわたり海外マーケティングを軸に、インスタントカメラ「チェキ」の商品企画/グローバルブランディング、新規ビジネスの立ち上げから海外現地法人の経営まで、幅広い仕事に携わる。その間、海外(シンガポール、フランス、インドネシア)に10年以上駐在し、幼少期の欧米生活と合わせて6カ国で約25年を過ごす。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡邉との共著、西田書店)。

渡邉 寧(わたなべ・やすし)

ホフステード・インサイツ・ジャパン代表取締役。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年にわたり国内/海外マーケティング(イギリス駐在含む)に従事後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。その後独立し、組織開発での企業支援を行う傍ら、ホフステード・インサイツ・ジャパンの経営に携わり、現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程で、文化とこころの問題について研究している。

6月30日には、宣伝会議主催のオンラインイベントSIMCで、本書をテーマにした講演「マーケターのための『異文化理解メソッド』活用法」が開催されます。詳細・お申し込みはこちらから。

『世界の広告クリエイティブを読み解く』山本 真郷・渡邉 寧 著/6月27日発売/定価:2,420円(本体2,200円+税)

ある国では「いい!」と思われた広告が、なぜ、別の国では嫌われるのか?そこにはどんな価値観のメカニズムがあるのか?オランダの社会心理学者 ヘールト・ホフステード博士の異文化理解メソッド「6次元モデル」で世界20を超える国と地域から、60事例を分析。グローバルな活躍を目指すマーケターやクリエイターはもちろん、あらゆる人に広告を通じて「異文化理解」を楽しく学んでいただける一冊。


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