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特殊を経由しないと普遍にはたどりつけない。―『世界の広告クリエイティブを読み解く』によせて(古川裕也)

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『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、古川裕也さんが『世界の広告クリエイティブを読み解く』を紹介します。

「音楽に国境はある」と言ったのは、坂本龍一か矢野顕子だったと記憶している。知的かつ実践的な指摘で、カンヌの審査などでよく言われる“Cultural Gap”なるものが、日本人が克服すべき壁であると同時に、個々のカルチャーの深い本質から生まれた、むしろ尊重すべきものであることを示唆している。実作者の実感値として貴重な指摘だと思う。

カルチャーとはすべて特殊なのだ。理解も納得もむつかしい。けれど、自分たちと異なるカルチャーと出会うことほど刺激的なことはない。わからないこと、知らないこととの遭遇こそが最高の快楽であり栄養である。自分たちと異なる文化との接触には、こういう二面性がある。

世界の広告クリエイティブを読み解く』山本 真郷・渡邉 寧 著
6月27日発売 定価:2,420円(本体2,200円+税)

本書は、6次元モデルとメンタルイメージというふたつのメソッドを通して、国によって、文化圏によってさまざまな「異なり方」があることを構造的に明らかにしようとしている。アングロサクソンとそれ以外というような大雑把なくくりではなく、それぞれの国のカルチャーを形成している対立軸を丁寧に分類分析して、他者との関係値を発見していく。これは広告だけでなく多くのクリエーティブ・カテゴリーにも応用可能だろう。

グローバルで普遍的な正しさのようなものが、最初からどこかにあって、そこを目指すためだけにクリエーティブの仕事があるわけではない。

マーチン・スコセッシの「パーソナルなことこそがクリエーティブなのだ」という言葉は、オスカーのスピーチでポン・ジュノが引用して有名になった。これは、自分的、即ち特殊でリアルな身体感覚から立ち上げたアイデアだけが、世界の人々に伝わり、説得力を持ち、深く動かすことができるということを意味すると思われる。世界を俯瞰して課題を見つけてソリューションというような方程式では、説得力のあるクリエーティブはできない。まして、国境を越えることなどできるわけがない。

自分たち固有の特殊性を認識して、自分たちがよそゆきでなく実感できること。これってよくないと思う。これはもっとよくなるはずだ。なんかちがうと思う。などなど。その個的・特殊的なところから出発する以外に、ほんとうの普遍のようなものにたどりつくことはできないのだ。

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古川裕也(ふるかわ・ゆうや)
古川裕也事務所
代表取締役/クリエイティブ・ディレクター

クリエイター・オブ・ザ・イヤー、カンヌライオンズ47回、D&AD、OneShow、アドフェスト・グランプリ、広告電通賞(テレビ、ベストキャンペーン賞)、ACCグランプリ、ギャラクシー賞グランプリ、メディア芸術祭など内外の広告賞を400以上受賞。2020年D&AD -President’s Awardをアジア人で初めて受賞。2013年カンヌライオンズチタニウム・アンド・インテグレーテッド部門、2005年2014年フィルム部門、クリオ審査委員長、ACC審査委員長など、国内外の審査員多数。D&AD President Lectureなど、国内外の講演多数。日本人で初めてD&ADアドヴァイザリー・ボードに就任。主な仕事に、九州新幹線全線開業「祝!九州」。ポカリスエット「ガチダンス」シリーズ、「Neo合唱」「でも君が見えた」。GINZASIX・ローンチキャンペーン。森ビルブランド・ムービー「Designing the Future」。リクルート「すべての人生がすばらしい」。グリコ「Smile!Glico」キャンペーン。民放連「人類はオリンピックを発明した」。KIRINサッカー日本代表応援キャンペーン「香川真司・応援する者」。宝島社「死ぬときぐらい好きにさせてよ」「嘘つきは、戦争の始まり。」「最後は勝つ。上がダメでも市民で勝つ。」「暴力は、失敗する。」「団塊は最後までヒールが似合う。」。Asics「ぜんぶ、カラダなんだ」。日本経済新聞社「NIKKEIUNSTEREOTYPE ACTION」Sayonara国立イベントなど。ブランド・コンサルティング、クリエーティブ・コンサルティング、商業施設のクリエーティブ・ディレクション、アーチスト・プロモーション、企業内セミナー、ワークショップ講師などを手掛ける。著書に『すべての仕事はクリエイティブディレクションである』(宣伝会議)。

『世界の広告クリエイティブを読み解く』
山本 真郷・渡邉 寧 著/6月27日発売/定価:2,420円(本体2,200円+税)

ある国では「いい!」と思われた広告が、なぜ、別の国では嫌われるのか?そこにはどんな価値観のメカニズムがあるのか?オランダの社会心理学者 ヘールト・ホフステード博士の異文化理解メソッド「6次元モデル」で世界20を超える国と地域から、60事例を分析。グローバルな活躍を目指すマーケターやクリエイターはもちろん、あらゆる人に広告を通じて「異文化理解」を楽しく学んでいただける一冊。