サッカー部の先生が4P分析を使いこなす
6月16日、17日の2日間にわたり、私が勤める下妻一高では4年ぶりに文化祭が完全リアルで行われました。文化祭といえば、私も学生時代はとても楽しみにしていた学校行事です。文化祭を運営する側に立つというのも、不思議な感覚です。
マーケター出身の副校長である私としては、文化祭は「私の出番が来た!」と、大いに盛り上がります。本校の文化祭では様々な取り組みが行われていますが、運営は基本的には生徒主体で行われており、企画や運営の意思決定は生徒会や運営委員会が担います。先生はあくまで支援をする側。各クラスの催し物についても、クラスに準備金を渡して、何をやるかは各クラスの判断に任せます。
下妻一高には附属中学があるのですが、文化祭は高校だけでなく中学でも同時に開催されます。そして今回、紹介するのはこの附属中学の文化祭の取り組みです。この附属中学で担任を務めているひとりに、以前にこのコラムで紹介した応援団の顧問の先生がいて、最近マーケティングにとても興味を持ってくれているのですが、この先生の同僚が彼に刺激を受けて、文化祭でマーケティングを活かしてみたいと相談をしてくれました。
以前からこの先生は文化祭で商品を販売したりするのが好きで、もっとマーケティングを勉強して文化祭や部活動に活かしたいと闘志に火がついたようです。本コラムで紹介した図書室の先生が作ってくれた「マーケティング本紹介コーナー」にある、おすすめ本も読んで、マーケティングについて勉強しています。彼はサッカー部の顧問をしていて、部活動のPRにも力を入れているのですが、マーケティングのフレームワーク学んで、サッカー部の4P活動をノートに記載して、私に見せてくれました。このようにマーケティングフレームワークを、部活動のPRに活かしてくれるなんて、嬉しいかぎりです。こういう先生同士の仲間を増やしていきたいですね。
中学生が考えた「桜咲くラスク」
さて、そんな先生が担任を務めるクラスでは、文化祭で「ラスク」を販売するという企画を立てました。そこで先生は、生徒を支援しようと、ラスクをたくさん販売するためのマーケティング活動を考えたいという話になったのです。
まずはコンセプト作成から始めます。下妻一高は別名、為桜学園と呼ばれています。つまり桜がひとつのシンボルになっているのです。また中学校のスクールカラーがピンクなので、この2つの要素を掛け合わせてコンセプトを考えようと、生徒に投げかけたのです。
先生は大きな方向性だけ決めて、あとは生徒主体で企画を決める。生徒の自律を促す素晴らしい教育です。生徒たちもいろんな意見を出してお店のコンセプトを考えました。そこで出てきたのが、「桜咲くラスク」です。学校のシンボルの桜と、ラスクの絶妙なロゴの組み合わせが素晴らしいコンセプトです。
このコンセプトをもとに、製品戦略、プロモーション戦略、価格戦略を考えました。製品戦略は、下妻市の地元企業とコラボレーションして作りました。商品パッケージに「桜咲くラスク」と書かれたシールを貼り、ピンクのリボンでパッケージングしました。下妻一高附属中学限定商品の完成です。
プロモーション戦略では、教室を桜のイメージに装飾し、黒板には桜の木に花びらを取り付け、花びら一枚一枚に生徒それぞれのメッセージを書きました。書かれたメッセージは、「この世界の笑顔の数を、私たちで1つでも増やす事ができたら、私はこの上なく幸せです」「これを買ってくれたあなたの心に笑顔が咲きますように!」「1年1組40人分の気持ちのこもったラスクです。どうぞ召し上がってください」など生徒の想いを伝わるような工夫がされています。
また商品を販売するレジ係の生徒へ客導線が引かれるように、教室の床の上に足跡のマークをつけて誘導を図りました。私も花王でドラッグストア担当の営業をしていた時代に、敏感肌コーナーにある「キュレル」ブランドへの誘導を図るため、マツモトキヨシさんの店舗の床にたくさん足跡POPを貼らせていただいた経験があります。懐かしい記憶がよみがえりました。これを生徒たちが考えてやったなんて、みんな、いい営業になりそうです。これもストアマーチャンダイジングだと思います。
教育とビジネスを結び付けた新たな活動
このようにクラスの催物にマーケティング活動を取り入れて、担任の先生から生徒たちに、ラスクの販売を通したマーケティング活動を教えて実際に体験することができました。まさに教育とビジネスを結びつけた活動だと思います。保護者やお客さまからも大変好評で、ラスクも見事に完売しました。生徒たちも自信になったと思います。
保護者の方と、たまたまお会いした時に嬉しいお話をお聞きしました。子供が文化祭でマーケティングに興味を持ち、「13歳から始めるマーケティング」という本を読んだそうです。「次にやる時には、もっと売る自信がある!」と活き活きと親に話したそうです。
このように私の経験が、学校現場で少しでも活かせることが嬉しいですし、社会的にも貢献できる仕事だと実感しています。頑張れ中学生!!
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