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コラム

海外アワード2023 時代を映す注目トピックとAI時代のクリエイティブ

デジタルと人間の関係性をどうデザインするか―石川俊祐氏に聞く海外アワード2023

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2023年の国際広告関連アワードの結果が発表された。それを受けて、クリエイターは今とこれからのクリエイティブをどう見据えているのだろうか。アワードの審査員や現地視察に赴いた人々、海外事例を定点観測しているクリエイターに、今年のアワードを受けて気になる事例、AI関連トピック、注目のキーワードなどを聞いた。

月刊『ブレーン』2023年9月号では、総勢31人のクリエイターたちの回答から、注目の事例やキーワードを抽出して掲載。詳細はこちらからご覧ください。

  • 〈回答者〉
  • KESIKI 代表取締役/CDO 石川俊祐氏。
写真 人物 KESIKI 代表取締役/CDO 石川俊祐氏

――2023年に結果が発表された国際広告関連アワードの入賞作またはエントリー作品の中で、特に注目した事例は。

  • Unesco「BACK UP UKRAINE」
  • (Virtue Worldwide)
  • D&AD:ダイレクト部門・デジタルデザイン部門イエローペンシルほか
  • カンヌライオンズ(2022):デジタルクラフト部門グランプリ

「Backup Ukraine」は、最先端のモバイルテクノロジーを使って、ウクライナのすべての市民が、文化遺産をバックアップする高解像度の3Dモデルを作成することを可能にします。

3Dモデルの制作は、かつては大予算の映画スタジオやゲーム開発者だけのものでしたが、この取り組みで必要なのは携帯電話とウクライナの一般市民が自由に利用できるアプリだけ。アプリは、社会的・文化的遺産を守ろうとする人々のボランティア活動によって運営されています。戦時中において、自国の文化遺産を未来のために守ろうという創造的な行為として、デジタルを活用し、市民がそれを実践できるEnabler(後援者)的な取り組みとして高い評価をしました。

 

  • Digital Youth ICT Academy「DYICTA Logo Design」
  • (FCB Africa)
  • D&AD:グラフィックデザイン部門イエローペンシル

FCBアフリカは、バイナリコード(2進数で示したコード)を用いて「デジタルユースICTアカデミー」のロゴを制作しました。0と1を単純化した幾何学的なパターンが元になっていて、これを積み重ねて、アカデミーの頭文字である「DYICTA」を示しています。

この幾何学的な視覚言語は、南部アフリカの部族に見られる伝統的なパターンから着想を得て制作されました。その結果、機能的なデジタル言語となり、「DYICTA」を従来のアカデミック・ブランディングとは一線を画すユニークなブランド資産とした。

デザインシステム(一貫性のある機能としてのブランド構築)が日本国内ではまだ実践されている事例がない中で、「DYICTA」をはじめとする各国のデザインシステムの活用は、イギリス政府から、アフリカの教育機関まで広がってきています。機能するブランディングが日本でも広がると良いなという思いからこちらを選出しました。

実データ グラフィック Digital Youth ICT Academy「DYICTA Logo Design」
実データ グラフィック Digital Youth ICT Academy「DYICTA Logo Design」
  • The Korean National Police Agency「Knock Knock」
  • (Cheil Worldwide)
  • D&AD:クリエイティブトランスフォーメーション部門・デジタルデザイン部門グラファイトペンシル
  • カンヌライオンズ:グラス部門グランプリ

Cheilが開発した、危険な状況にある被害者が、何も言わなくても任意の番号をタップして警察に通報できるソリューション。アイデアはモールス信号から着想を得たという。

クリエイティブの会社への依頼は、DVに対してどういった打ち手を実施したら良いのか?というものであり、キャンペーン的なものに落とし込まれる可能性はありました。この事例のすごさは、1つに広告ではなくプロダクトを開発して、実際にDVを解決するツールをユーザーの手に渡したという点。2つ目には、頼まれた内容以上のデリバリー、課題解決ができたため、それを韓国警察がオフィシャルなDVのツールとして政策に取り入れて採用していったという創造的なアクションの連鎖や意思決定の流れだと考えています。

 

――D&ADのクリエイティブトランスフォーメーション部門で、審査委員長を担当されました。作品の傾向や、審査時に感じたことは。

クリエイティブトランスフォーメーションは新しいカテゴリーであるため、傾向を語ることがとても難しいですが、強いて言えば、「テクノロジー×小さな存在」と言えるかもしれません。

例としては、韓国における家庭内暴力で苦しむ人々を助ける「Knock Knock」、生産国(南アジア)と創造国(欧米)というテーマをひっくり返し創造的リーダーシップをアジアに持ち込んだスニーカーブランド「ekin」、自閉症スペクトラムの人を救う「Samsung Unfear」という人工知能アプリ搭載のノイズキャンセリングヘッドフォンなどがわかりやすい事例でした。

特に際立ったのは「ekin」。これは逆から読むとNikeであって、資本主義経済における開発国と位置付けられてきたアジアからの痛烈な創造性のより戻しであり、大量生産現場からの批判を含んだブランドと事業創出をしているのがポイントです。

またデザインやアートが一部の教育を受けた人間だけのものではなく、広く課題解決の手段として、または価値創造や文化の醸成、社会のための政策デザインを実践する人々にとっての重要なツールとして広まってきていると感じました。

同時に日本のデザインやクリエイティブの活用はその中でもとてもユニークにケアの文脈で広がってきていることを再認識できたことはとても大きな学びでした(日本国内では、弱者のケア、光の当たっていない人々からのデザインアプローチ活用が増えています)。誰かに寄り添い、想像力と創造力が発揮される環境が広がってきています。

一方で、デジタルアドバンスメントをそのまま享受して、実現しうる新しいことを活用したキャンペーンなども特に大企業のアプローチとして目にしました。デジタルと人間の関係性をどうデザインしていくのか? それはまさにデザインやクリエイティブの人間が責任を持てるテーマかもしれないとも感じています。新しい創造的なリーダーシップを育てていくことの必要性も強く感じられました。

 

――審査の際に議論になったことは。

クリエイティブトランスフォーメンションというカテゴリー自体の定義をどう位置づけるのか?において、下記のテンションを設定しました。

  • 「ENABLE FOR BETTER VS SELL BETTER?」
  • それは誰かを〜できるようにするものか?
  • 「SHORT TERM CAMPAIGN VS LONG TERM OUTCOME」
  • それは長期的に良い結果を生むか?
  • 「HUMAN CENTERED VS TECH DRIVEN」c
  • それは人間性・らしさを中心においているのか?

短期的なキャンペーンや、テック称賛のためのクリエイティブ、目的のないこと、人間性やらしさを議論していない資本主義的なものは排除していこうという議論がされました。6カ国からのメンバーが合意。これはとてもグローバルで通用する考え方と感じられて安心感を覚えました。

――広告クリエイティブに関連して、今注目するキーワードは。

  • 「Humanity Centered Design」
  • 人間性が損なわれつつある時代において、我々が創造するものがどう我々自身のらしさや創造性を残していくことを意図しながらデザインに取り組むか?という人間性を中心に据えたメソッド。
  • 「Play」
  • 働く、生きることにおいて余白、すなわち遊びを持って探索する機会の喪失が起きているのではないか? 働き方や生き方の再定義に対する議論の中心にPlayという話が多く出てきている。
  • 「Policy Design, Semi-Public」
  • 今まで光が当てられてこなかった人々や生き物や自然へ着目して、これらをケアしていくための創造的な活動や事業創出。
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月刊『ブレーン』2023年9月号

写真 表紙 月刊『ブレーン』9月号

【特集】AIの民主化で際立つ
人間・文化の視点
世界のクリエイティブ

  • ▼31人のクリエイターに聞く海外アワード2023
  • ・時代を映す注目事例と
  •  キーワード
  • ・海外アワードに見る
  •  AIとの共創の可能性
  • 〈回答者〉(五十音順)浅井雅也、阿部光史、荒井信洋、石井義樹、石川俊祐、石原 和、泉家亮太、井口 理、岩崎亜矢、岡村雅子、小川信樹、小田健児、金箱洋世、木村健太郎、窪田新、小山真実、佐々木康晴、嶋浩一郎、杉山元規、鈴木佳之、関谷アネーロ拓巳、多賀谷昌徳、田中直基、谷脇太郎、張ズンズン、出村光世、中島琢郎、萩原幸也、平井孝昌、細田高広、松宮聖也
  • ▼AI 活用の前に理解しておきたい
  • 国・地域で異なる「文化的価値観」
  • (文:渡邉 寧)
  • ▼審査員と応募者
  • 双方の視点からひも解く
  • 企画の見方
  • (八木義博)
  • ▼海外アワード2023
  • 日本の受賞作品
  • ▼ヤングカンヌレビュー
  • 受賞へのあと「一歩」は?