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JR九州「顧客とともに創る」まちづくり 自分ごと化促すCX戦略

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2023年7月28日に開催された「SIMCリージョナル2023 in 福岡」。コロナ禍が収束に向かい、世界的に旅行需要が増加傾向にある今、従来の観光都市だけでなく“ローカル”に目を向け地域の魅力を伝える重要性が増している。「インバウンド・街づくり」の観点から、地域の魅力の最大化と発信を実践する事例として、JR九州 事業開発本部 まち創造担当部長・小池洋輝氏が『ABURAYAMA FUKUOKA』プロジェクトの取組を紹介した。

 

駅立地から離れてまちづくりに挑んだJR九州

「地域の魅力を最大化させるために必要な『育む』視点~街づくりへの『自分ごと化』を促し、付加価値を高めるCX戦略とは~」と題した講演は、インバウンド需要が高まるなか地域の魅力を創出するとともに、地域の生活者の快適さを生むための指針を示している。

講演は『ABURAYAMA FUKUOKA(アブラヤマ フクオカ)』の事例を中心に展開した。『ABURAYAMA FUKUOKA』は福岡市南部に位置する油山に2023年4月に開業した施設で、キャンプフィールド、バーベキュー場、農園など油山の豊かな自然環境を活かしたサービスコンテンツで構成され、2024年春までにフォレストアドベンチャーや宿泊施設が開業する。多種多様な特徴をひとつにした施設を運営するにあたり、同事業はJR九州を代表企業に各ジャンルに精通する企業が力を持ち寄った。

小池洋輝氏

JR九州 事業開発本部 まち創造担当部長・小池洋輝氏

JR九州は九州地方の交通インフラの発展に貢献してきた旅客鉄道事業で知られるが、まちづくりを通じた地域活性化に取り組んできた歴史がある。『博多コネクティッド』や『天神ビッグバン』などに代表される駅周辺の再開発を推進するなか、鉄道駅がなく、福岡の中心市街地から車で30分ほど要する油山の施設事業を手掛ける背景には、鉄道会社としての危機感と長年にわたりまちづくりに携わってきた地域企業としての使命感があると小池氏は語る。「コロナ禍で鉄道をはじめとした“人を運ぶ”インフラ事業は大きな打撃を受けた。次の事業の柱として不動産事業が成長していたなか、新しい福岡の街の魅力づくりを行うということで『ABURAYAMA FUKUOKA』につながる公募事業に挑戦した」(小池氏)

 

世界に誇る自然共生都市を象徴する新施設

2021年度に福岡市が公募した『油山市民の森&油山牧場リニューアル事業』は、老朽化に伴う時代ニーズとの乖離などの同施設が抱える課題の解決を目的としている。JR九州は『BACK TO NATURE~人と都市と自然の共生~』をビジョンとして掲げ、多様な事業者と地域の魅力を共創する地域プロデューサーの立場で参画した。小池氏曰く「地域の人であれば油山の存在は知っているが、実際に訪れたことがある割合は低く、身近な存在とは言い難かった」という現状がある一方で、140ヘクタールにも及ぶ広大な自然環境と中心市街地や九州の玄関口・福岡空港から車を用いて30分でアクセスできる利便性に着目した。「この近さでこの自然の豊かさがあれば、なにか面白いことができるんじゃないか」と小池氏は振り返り、講演は『ABURAYAMA FUKUOKA』の詳細部分に展開した。

写真 会場の様子。
会場の様子。「『ABURAYAMA FUKUOKA』が目指すところは、ファンづくりというよりも自分ごと化」(小池氏)

従来の油山のイメージを一新する『ABURAYAMA FUKUOKA』の取り組みには、クリエイティブディレクター・佐藤可士和氏と建築士・谷尻誠氏が大きな役割を果たしている。佐藤氏は同講演にコメントを寄稿し、「豊かな自然が都市の近くにあることに驚いた。これはとてもぜいたくなこと。福岡は『世界的な自然共生都市』だということをグローバルに訴えることを目的に『ABURAYAMA FUKUOKA』とアルファベット表記の名称を考案した」とプロジェクトの骨子誕生の背景を紹介した。

JR九州は『人と都市と自然の共生』を施設・サービスとして具現化するにあたり、コンセプトを『暮らす 遊ぶ 働く 学ぶ 整う 感じる “循環の森” 油山』と設定した。キャンプフィールドや森林アスレチックなどレジャーと学習を兼ねたコンテンツだけでなく、シェアオフィスを2023年秋以降に開設する予定だ。“働く”の要素を取り入れた背景を小池氏は「新しい試みに際して『油山に働きに行く人はいるのか』という議論はあった。福岡エリアは外資を含む企業参入が増えており、天神をはじめとした中心市街地に加えてアクセスに優れた油山にワーキングスペースを設けることは“福岡で働く豊かさ”につながると考えた」と解説した。

 

施設・サービスを顧客と共創し、豊かな日常をつくる

多彩な施設・サービスは「CX(体験価値)」にもとづいて立案された。事業者視点でコンテンツをつくるのではなく、来場者や地域住民のニーズや嗜好に思いを巡らせたと小池氏は振り返る。「これからはライフスタンスやライフバリューが問われる時代になっていく。そうした潮流のなかで油山にできるのは『豊かな日常』を提供すること。油山を福岡の日常にするためには、来場者や地域住民を巻き込んでいくのがベストだと考えた。顧客が『ABURAYAMA FUKUOKA』を自分ごと化してその魅力を一緒につくる『共創体験』が軸になっていく」(小池氏)

『ABURAYAMA FUKUOKA』は環境・健康・アートをキーワードにするコンテンツ造成にも取り組んでいる。今後は展望台をアートギャラリーとしてリニューアルし、地域住民と事業者が一緒に建築物の塗装などを行う予定だ。自分たちが手掛けたものが自分たちの場所になっていく、という共創体験を提供することを狙いとしている。

消費行動が『モノ消費からコト消費』へと変化すると叫ばれて久しいが、小池氏はJR九州が10年以上前から『モノからコト、コトから心』をキーワードにまちづくりに取り組んできたと語る。「『ABURAYAMA FUKUOKA』が目指すところは、ファンづくりというよりも自分ごと化。自分の日常という場所にどんどん変えていける可能性があると思う。それを実現するには着眼点やプロデュース力が問われてくるが、来場者や地域住民との接点から新しい発見を得られれば」(小池氏)

『人と都市と自然の共生』を共通認識に、顧客接点から様々な価値を創出していく『ABURAYAMA FUKUOKA』。福岡のブランディング、ひいては九州全体の成長へとつながる事例の紹介は、小池氏の希望と熱意に満ちた言葉で幕を閉じた。

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