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コラム

編集者の「返信」の極意

「ダメ出しと思われない」フィードバックの心がけ―『黒執事』編集者・熊剛さんの返信術

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作家や漫画家などクリエイターたちの想いを最初に受け取るのは、一般的には黒子と言われる編集者です。「自分のアイデアが本当に受け入れられるだろうか?」「もっと良いアイデアはないだろうか?」…常に不安と戦いながら創作活動に勤しむクリエイターにとって、作品が形になるまでの間に編集者との間で行われるコミュニケーションは、時に心の支えになるものです。

そんなプロフェッショナル編集者へのインタビューで「返信」のノウハウを紐解く、書籍『編集者の返信術』。この度のKindle版リリースを記念し、インタビューの一部を公開します。

 

スクウェア・エニックス
熊剛

2001年エニックス(現スクウェア・エニックス)入社。漫画編集者として『黒執事』・『デュラララ!!』シリーズ・『魔法科高校の劣等生』シリーズ等を担当。またTVアニメ『革命機ヴァルヴレイヴ』副シリーズ構成、他社スマートフォンゲームのシナリオ・クリエイティブサポートなど、漫画以外のジャンルでも積極的に活動。X(Twitter):@takekumax

 

クリエイターが自分で発信できる今の時代、「ダメ」なことなんて存在しません。

――これまでのご経歴をお聞かせください。

福岡の大学を卒業後、新卒で旧エニックスに入社しました。『Gファンタジー』編集部に配属され、現在副編集長をしています。編集者になったのは、大学生のときに漫画家デビューしたことがきっかけです。でも連載10回で打ち切りになってしまいショックを受けて、漫画を描き続けることができなくて。それでもやっぱり、就活で自己PRをするなら、自分にできることといえば「漫画だな」と思って編集職を受けました。特別に強い熱意を持って編集者を目指していたわけではなく、お恥ずかしい話きっかけは流されて、その後仕事が楽しくなって今に至るという感じです。

 
――コミュニケーションで意識していることはありますか。

いま一番意識しているのは、SNSが普及してから議論されている「編集者不要論」を前提として行動することです。

ひと昔前までは、プロの漫画家になりお金を稼ぐための道は、マンガ誌というオーディションを通過することだと思われていました。だけど、今は誰もが自分で発信できる時代です。これにより、漫画家さんにとって、「自分では選べない担当編集」による「ダメ出し」は、必ずしも聞くべきことではなくなり、ただストレスのかかることとなりました。

そして編集者にとっては、これまで出していたマンガ誌としてのフィードバックは、漫画家さんに「いやいや対処してもらっていた」のだということに気づかされることとなりました。編集者が雑誌としての考えや、自分の意見をフィードバックとして渡すものは受け手側には「ダメ出し」と言われますが、クリエイターが自分で発信できる今の時代、「ダメ」なことなんて存在しません。「その漫画家の作品を、この媒体で出す意味は何なのか」をすり合わせていくことが大切だと思っています。

そこで、僕は自分がやり取りする漫画家さんとは共有すべき3つの大前提を、初めに話すようにしています。ひとつ目は、『Gファンタジー』という媒体の読者に楽しんでもらえる漫画を依頼していること。2つ目は、漫画家さんの作家としての目標を叶えてほしいこと。3つ目は、僕の方は社員として会社に利益を出すために存在していること。これを共有しておくことで、同じ方向を向いて進んでいけると思っています。

これ以外にも、個人の考えや都合についてもどんどん共有していっていいと思っています。例えば、どのくらい稼ぎたいとか、どのくらいのペースで仕事をしたいとか、そのときの家庭の都合とか…。お互いに目標や事情を話すことで、疑心暗鬼が少なくコミュニケーションを続けられることが大切だなと思っています。

 
――フィードバックを「ダメ出し」としてマイナスにとらえられないために、具体的に「返信」で心がけていることはありますか?

4、5年前から、ネームのフィードバックは電話ではなく、PDFに書いて送るようにしています。それから、文字の色を4色に分けることで、それぞれのフィードバックの役割や重要性をはっきりさせるようにしています。

文字で、そして4色に分けてフィードバックをするメリットは、お互いのストレスが減ることです。また、データでお渡しすることによって、いつ・誰でも内容を確認できます。それから、色分けによって、漫画家さんはどのフィードバックを優先・集中すればよいか、一目でわかります。以前は、たとえば第2稿が届いた時に、僕が指摘したところが修正されていないことに「打ち合わせの内容を忘れている」と勘違いすることもありました。今は、どの指摘が重要で、どの指摘にどんな役割があるかがしっかり「共有できているとわかっている」ので、どんな第2稿が来ても、「漫画家さんがフィードバックを独自に取捨選択したんだな」と誤解なく受け取ることができるようになりました。

デメリットは、フィードバックが遅くなることです。それを読むのが何日後だとしても、理解できることや、他人が読んでも誤解がなく伝わることに気を付けているので、どうしても書くのに時間がかかります。それから、電話などのメリットである、声の調子で感情面を表現できない分、冷たく感じられてしまうこともありますね。

 
――具体的に、どのように色分けしているのでしょうか。

まず、赤色が掲載不可レベルのNGです。これは、差別表現や『Gファンタジー』で許容されないレベルの性描写などです。次に、青色はテクニック論的には正しいけれど、該当作品に必要かどうかは曖昧な小さな点。これは「スルーOK」としています。例えば、同じ語尾が3回続いているので、変えませんかというような提案です。

それから、黄色は僕の意見。コマの入れ替えや、展開についてなどの僕個人の意見です。これも「スルーOK」と伝えています。紫色は質問です。僕が担当しているのはファンタジー漫画なので、現実と違う描写に対して現代人目線での質問をすることで、漫画の独自設定や背景が他者目線でよりわかりやすくなることを狙っています。質問だけで終わる場合もあれば、漫画家さんの答えを原稿に反映しませんかと、そこからさらに黄色で提案することもあります。

 
――コロナ禍で非対面コミュニケーションが増加しましたが、伝え方で変化したことはありましたか。

漫画家さんからの持ち込みが、訪問からメールになったことです。それに対する返事ももちろん基本的にはメールで行いますが、文章では表情やニュアンスがわからないから、上から言っているように読めちゃうんです。それをできるだけ避けるために、編集部で決めていることが2つあります。

まずは「『Gファンタジー』読者に限定すれば、こっちの方がいい、こっちの方がウケる」という蓄積データに基づいて言っている、ということを最初に伝えること。それから、数ある指摘の中から有用と思ったものだけを取捨選択してほしいと伝えること。

メールに原稿を添付して送ればいいので、作家さんにとっては、心理的、物理的、金銭的な投稿ストレスが減ったと思います。なので、以前と比べれば、持ち込みの数はとても増えました。ただ、その分ジャンルが全く合っていない作品も多くなりました。だからこそです。

 
……
―相手のクリエイティブを、どのような視点で見ていますか?
―仕事を始めた最初の頃は?
―「返信すること」にまつわる、印象的なエピソードがあれば教えてください。

本インタビューの続きは、書籍『編集者の返信術』に掲載しています。

 

定価:1,980円(本体1,800円+税) 四六判 160ページ
詳細・購入はこちらから(Amazon

 

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