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Siemens、HD HYUNDAI、Panasonic…CESで存在感を増すB2B企業のプレゼンテーション―「CES2024」現地レポート③

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2024年のテックトレンドを占う世界最大規模のテクノロジーカンファレンス、CESが今年も米国ラスベガスでスタートしました。今年のテーマはALL ON(オール・オン)です。CESは、「Fortune 500」企業のうち311社が登録し、4,000以上の企業が世界中から出展。会期中には270を超えるセッションが行われます。毎年、約173カ国から参加がある巨大イベントです。
CESは、家電ショーとしてスタートしましたが、今日ではテクノロジーとイノベーションのイベントに変化を遂げています。CESでは、スマート家電に始まり、AI、ヘルスケア、ロボティクス、XR、サスティナビリティ、そしてダイバーシティに至るまで、先端的な取り組みに触れることができます。ここで触れることができるテクノロジーは、産業からビジネスモデル、ライフスタイルを大きく変化させることは間違いなく、マーケターにとっても注目すべきイベントだと言えるでしょう。そんなCESを現地からレポートしていきます。

「CES2024」 現地レポート第3弾は、CESでの発信で存在感を増すB2B企業にフォーカスしてレポートしたい。今回のCESでは、Siemens(ドイツ)と、韓国の重工メーカーHD HYUNDAI(韓国)が基調講演を行った。この2社の基調講演に加えて、BOSCH(ドイツ)、そして日本からの参加でプレス発表を行ったPanasonicを取り上げたい。

「Industrial Metaverse」での変革を宣言、SiemensのCEOのプレゼンテーション

現地時間の1月8日、キックオフ基調講演を行ったSiemens。同社の講演にはPresident and CEOのRoland Busch氏が登壇した。Siemensは、これまでの175年の歴史を通じて産業革新を担い、ビル管理や輸送の自動化、エネルギー・グリッドの強化、さらにはヘルスケア領域のリーディングカンパニーとしてのポジションを築いてきたという。現在もイノベーションとサスティナビリティを標ぼうし、新技術の活用を飛躍的に加速させている。

特に、AIによって促進される現実世界とデジタル世界の融合である「Industrial Metaverse(産業メタバース)」で革命を起こしたいと宣言。この「産業メタバース」を通じて、現実とほとんど見分けがつかないこの仮想世界を構築し、AIと人間が連携して効率的に創造と革新を行うサポートをしていくと話した。

基調講演の中で同社は、テクノロジーによって世界が直面する様々な課題を解決すると強調。サスティナブルなエネルギー環境の構築から人々のヘルスケアに至るまで、多様な分野でイノベーションを推進してきたと説明した。また、その推進にはスタートアップや他の企業との連携など、オープンイノベーションが重要だと訴えた。

こうした土壌があるなかで現在、取り組む「Industrial Metaverse」は同社にとっての大きな飛躍を意味し、産業全体のイノベーションを加速させ、テクノロジーをより幅広い人々が利用できるようにすることで、最終的にはより持続可能で効率的かつ公平な世界を実現させると主張した。

基調講演に登壇した、President and CEOのRoland Busch氏。

ゲストとして登壇した、SONYのExecutive Deputy President, Technology and Incubationの松本義典氏(右)。SONYのXR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)とSiemensのNX Immersive Designerにより、XRを活用してデザインする様子が紹介された。

HD HYUNDAIは、建設業界の変革を標榜

昨年のプレス発表会に登壇し、「オーシャン・トランスフォーメーション」のコンセプトを発表したHD HYUNDAIは、今年は基調講演に参加した。HD HYUNDAI副会長兼最高経営責任者(CEO)のKisun Chung氏が登壇し、未来の建築ビジョンである「フューチャー・ビルダー・ビジョン」を発表した。

同氏は昨年、発表した海洋に関するイノベーションに続き、建設における「現場変革」のコンセプトを紹介。AIやテクノロジーを活用することで、建設産業に革命を起こし、事故ゼロ、生産性の向上、二酸化炭素排出量の削減を目指すという。

また、2030年までに完全自律型AIソリューションを実現するという、野心的なビジョンも披露。インテリジェントを備えた設備と現場管理の統合により実現できると考えていると話した。そして、これらの目標達成におけるパートナーシップの役割を強調。さらに、サスティナビリティへの同社の取り組みについても強調し、WV化と水素発電イノベーションへの取り組みについて言及した。同時に、同社は基調講演の中で、2050年までにネット・ゼロ・エミッションを達成するという目標を宣言した。

最後に、サウジアラビアの国際関係アドバイザーである、Ghadah Amer Alhamoud氏がゲストとして登壇。サウジアラビアのビジョン2030の文脈でHDHYUNDAIとのパートナーシップの重要性に触れ、活力ある社会、繁栄する経済、効率的な統治を創造することを目標とするサウジアラビアは、同社との強力なパートナーシップによって実現するという。

基調講演に登壇した、HD HYUNDAI Vice Chairman & CEOのKisun Chung氏。現場のトランスフォーメーションを標榜する。

HD HYUNDAIのDevelon Marketing Manager Winta Bereket氏。建設機械にAIやロボティクスの導入により遠隔操作、遠隔制御、自律運転を推進、安全性と作業効率化を実現するという。

Google CloudのPhilip Moyer氏は、HD HYUNDAIとのコラボレーションについて説明し、建設に特有のデータの構造を理解し、現場管理の質を改善するためGoogleのAIモデルと Vertex AIプラットフォームを使用することを強調した。

ゲストとして登壇した、International Relations Advisor, Saudi Ministry of Industry and Mineral ResourcesのGhadah Amer Alhamoud氏。

BOSCHは、従来のエネルギー事業と水素活用の両立を標榜、パートナーシップの強化でAI活用を推進

BOSCHによるプレス発表会では、生活とモビリティに焦点を当てた革新的なエネルギーソリューションについて説明があった。世界のエネルギー消費の80%を占めると言われる化石燃料への依存を減らすことが急務であることを強調。従来のエネルギー源を最適化し、水素を中心としたサスティナブルな代替エネルギーの探求を主張した。

また同社は自家用車からトラックに至るまでEV技術で飛躍的な進歩をもたらしているという。特に、自動化されたEV充電ソリューションAVC(Automated Valet Charging)は、充電スポットの発見から充電時間の管理に至る課題解決を行う統合システムであり、それが成功していることに触れた。

その他、同社の重要な戦略として、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)との協業に触れ、コラボレーションは、同社のモビリティと家庭用エネルギーシステムの両方において、効率、性能、利便性を向上させる革新的なサービスを生み出すことに不可欠な取り組みと主張した。

登壇した、BOSCH Member of the Board of Management Tanja Rucker氏。産業の脱炭素化を提唱し、AIを活用した製造業の排出削減サービスの提供について訴求した。

PGI(パナソニック グリーン インパクト)によるサスティナビリティへの取り組みを発表

Panasonicは、サスティナビリティと気候危機への対応に重点を移しているという。プレス発表で同社は住宅や自動車向けのサスティナブルなエネルギーソリューションの創出の他、工場を水素および太陽光発電の活用によりネットゼロへの転換、循環型経済の追求にコミットすると強調した。

同社は、エネルギー使用の最適化、節水、食品廃棄物の最小化、資源の再利用を目的とした環境に優しい消費者向け製品の開発、大気中のCO2を農作物の成長の促進に生かす資源に変換するバイオCO2技術についても触れた。

さらに、同社が掲げるPGI(パナソニック・グリーン・インパクト)を大きく取り上げ、パナソニックは、31の工場をカーボンニュートラルに移行することに成功し、革新的な技術とビジネスソリューションを通じて排出量の削減の取り組みが大きく前進していると宣言した。

登壇した、品質・環境担当、CS担当執行役員の上原 宏敏氏と、Vice President Branding & Strategic CommunicationsのMegan Pollock氏。同社のサーキュラーエコノミー取り組みとしてリサイクル可能な生分解性の素材「 Kinari」を発表。

上原氏による同社の取り組みであるPGIについての説明。2050年までに3億トン以上のCO2排出量を削減するといい、31の工場をカーボンニュートラルに移行することに成功し、革新的な技術とソリューションを通じて排出量削減に大きく前進していると説明した。

ビジョンの明確さに注目、韓国・ドイツのB2B企業の発信

今回のCESでは、韓国とドイツのB2B領域の発信のパワーと品質の高さ、ビジョンの明快さが印象に残った。そして多くの企業が新たなテクノロジーを発表するだけでなく、オープンイノベーション、そしてサスティナビリティへの探求の重要性を訴求していた。日本企業のB2B領域の発信の1歩・2歩先を行っていると言って間違いないだろう。

注目に値するのはプレゼンテーションのコンテンツの質の高さにとどまらない。出展エリアでの展示内容、展示そのものの品質も極めて高いものであった。少なくとも、展示エリアのオーディエンスの人数の多さ・密度の高さが、CES参加者の注目の度合いを現していたと筆者は考える。

彼らのプレゼンテーションに共通するのは、時代のトレンドを捉え、投資すべき領域を明確にし、彼らのプロダクト・サービスの開発構想に反映させているところにある。今回のCESはAI、生成AI、そしてメタバースが注目されていることは明らかであった。韓国・ドイツのB2B企業のプレゼンテーションからAIを含む新興技術によって、力強い未来ビジョンが描かれ、体現するプロダクトを示してくれた。

もうひとつが前述のオープンイノベーションである。彼らはAmazonやMicrosoftなどのGAGAM企業をはじめとする、様々なコラボレーションにより、イノベーションを達成していると説明していた。欧米・韓国では、オープンイノベーションの推進が、トラディショナル企業のイノベーションの原動力であると信じられているようであった。韓国・ドイツのトラディショナルな非IT企業においても、オープンイノベーションを中心としたエコシステムについて大きく言及し、オーディエンスの支持を得られていたと思う。

こうした、CES文脈のコンテンツを盛り込み、高い質のプレゼンテーション、ゲスト登壇者とのコラボレーションは見事であった。韓国・ドイツの出展そして登壇企業は、CESを通じた認知とブランドの向上とそれによるビジネスへの貢献を果たしたのではないだろうか。

プレス発表したEVの重機プロトタイプを展示するHD HYUNDAIの展示エリア。

HD HYUNDAIは重機という特定領域の展示に特化していたにも関わらず、展示エリアは活況であった。

 

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写真 人物 森 直樹氏

森 直樹氏
電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブ・センター
エクスペリエンスデザイン部長/クリエーティブディレクター

光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。