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コラム

成長企業が実践する「評価される」広報チームのつくり方

LINE、メルカリで体験した「広報起点で会社の成長ステージが変わる瞬間」

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人見知りで口下手な人間がなぜか広報に…

はじめまして、株式会社はねの矢嶋と申します。今回より、”成長企業が実践する「評価される」広報チームのつくり方”というお題でアドタイにてコラムを執筆させていただきます。

まず簡単に自己紹介をさせてください。大学卒業後、新卒でスタートアップ企業に勤務した後、海外留学、PR会社勤務を経て、2008年にネイバージャパン(現:LINEヤフー)に入社。コミュニケーションアプリ「LINE」のサービス立ち上げからプロダクトPR、危機管理広報、日米同時上場など広報マーケティング全体を統括していました。

その後、2017年10月にメルカリに入社し、グループ広報責任者として、現金出品などの不適切出品問題や、東証マザーズの上場、鹿島アントラーズのM&Aや、新規事業広報などに関わり、2023年3月末に退職しました。

現在は「株式会社はね」という広報戦略マネジメントに特化した会社を立ち上げ、スタートアップ企業を中心に広報のコンサルティングをしています。

経歴だけ羅列すると、よく「華々しいキャリアですね」と言われるのですが、まったくそんなことはなく、20代は転職を4回もしていますし、会社を辞めて留学(しかも語学留学)するなど、まさに試行錯誤の連続でした。

また、広報という仕事も、気がつけば20年近いキャリアになりますが、コミュニケーションを生業とするにもかかわらず、元来は人見知りで口下手な人間で、駆け出しのPR会社時代は、記者に電話するのが嫌で嫌でなりませんでした。

 

一本の記者からの問い合わせで、世界が変わったLINE

2013年、LINEが1億ユーザー達成した際の記念イベントから。

そんな私が、今なお広報の最前線で仕事しているのが不思議でならないのですが、これまでのPRパーソンとしてのキャリアを通じて、「広報起点で会社の成長ステージが変わる瞬間」に何度か立ち会う機会があり、それが私にとって広報という仕事のやりがい、原動力になっています。

私はよく外部の講演で
「一発のメディア露出でパーセプション(認知)が変わることはない」
「あるべき姿から逆算して、一つひとつ詰将棋のように一貫性のあるメッセージや発信を積み重ねていくことが重要」
という話をします。

確かにそれは事実なんですが、一方で、粘り強く何度も繰り返し繰り返し同じスタンスで、同じメッセージを発信し、メディア露出を積み上げ続けた先に、1回の大きなモーメント(発信機会の山場)や露出をきっかけとして、取材が取材を呼び、世間の共感を生みだし、会社の見られ方がガラリと変わる、そんな「ティッピング・ポイントを超える」瞬間に立ち会うことがあるのもまた事実であります。

例えば、コミュニケーションアプリの「LINE」。「LINE」は韓国の大手検索ポータル「ネイバー」を運営するNHN Corporationの日本現地法人であるネイバージャパン(当時)が2011年6月に立ち上げたサービスで、サービス開始まもなくタイ・台湾・香港などの東アジアや中東地域で大人気になりました。

一方、日本国内では2011年11月にタレントのベッキーさんを起用したCM放映を起点に、若年層を中心に利用者が拡大してはいたものの、世間的にはそこまで注目されている状態ではありませんでした。

そんなあるとき、ネイバージャパンのコーポレートサイトにある「お客様問い合わせフォーム」宛に一通の問い合わせが来ました。送り主は日本経済新聞の記者で、こう書いてあります。

「どこよりも詳しく書くので、私にLINEの取材をさせてほしい」

そもそも「お客様問い合わせフォーム」に記者から問い合わせが来ることはそれまで皆無でしたし、こんな高い熱量で問い合わせを送ってくること自体も異例。これは本当に記者からの問い合わせなのか、半信半疑、戦々恐々としながら記者に連絡を取り、取材をセットした記憶があります。

そんな異例の初顔合わせでしたが、果たして取材は順調に進み、2012年の年明け、日本経済新聞電子版の一面に「スマホが拓く世界市場 和製『LINE』ヒットの裏側」という記事がドンと出ました。

もちろんこれまでも「LINE」の広報担当者として様々なメディアの方にコンタクトを取り、プレスリリースを送り、取材の打診など頑張ってはいたものの見向きもされない状態。

それが、この日をきっかけにしてテレビ局や新聞、ビジネス誌はじめ多くのメディアから取材が殺到する、まさに「取材が取材を呼ぶ」状態に。ベッキーさんのテレビCM効果も相まって日本の利用者も急増しました。

当時の私は大崎にあったネイバージャパンのオフィスで終電近くまで働いて、そこから山手線で帰宅する毎日だったのですが、あるとき電車内でスマホを覗いている人たちの画面がほとんど「LINE」一色になっていることに気付きます(注:覗き見をしたわけではなく、たまたま目に入っただけです)。

自分が広報・マーケティング担当としてゼロから携わったサービスが、まさに人々の生活、コミュニケーションのインフラになりつつあることを肌身に染みて実感し、感動したことを今でも覚えています。

LINEは2016年、日米同時上場を果たす。タイムズスクエアの前で役員の舛田淳氏とともに。

 

上場コミュニケーションで見られ方が変わったメルカリ

2018年1月、メルカリ取締役社長兼COO(当時)の小泉文明氏(左)とともに(月刊『広報会議』の取材時に撮影)。

あるいは、フリマアプリの「メルカリ」。私が2017年10月に入社した当時から、運営会社の株式会社メルカリは「ユニコーン企業」としてネット業界界隈では注目されていましたし、山田進太郎や小泉文明ら経営陣はじめ、ネット業界に限らず金融・商社・小売りなど各方面から優秀な人材が集まる「ゴールデンチーム」としても話題の会社でした。

他方、「メルカリ」のサービス自体は、急成長したことによる「成長痛」とも言うべきか、2017年の春ごろから現金出品や不適切出品など意図せぬ不適切利用事案が頻発。毎週のように新聞の社会部や週刊誌、テレビの情報番組などで批判的な報道が相次いでいる状態で、(ネット業界を除けば)まさに「四面楚歌」な状態でした。

なお、当時の広報対応などの状況は宣伝会議発行の広報の専門誌『広報会議』にもレポートされていますので、よろしければご覧ください。

しかも当時は対外的に公表していませんでしたが、東証マザーズへの上場も間近に控えており、広報チームのミッションとしては、世間から早期に信頼回復をしつつ、世間的に最も注目度が高まる上場タイミングで社会から応援される会社に変革していくことが急務でした。

そこで、私は入社早々、新入社員オリエンテーションもそこそこに、経営陣へのインタビューや、これまでの報道状況のリサーチや事業ロードマップ、経営資料の情報収集などを元に、現状の外部コミュニケーションにおける課題を整理していきました。

現状の(極端に言えば)「ポッと出のイケイケな急成長ベンチャー」というパーセプションから、「CtoCマーケットのインフラを担う信頼される企業」「テクノロジーの力を使って本気で世界に挑戦しようとしている応援すべき企業」というパーセプションに転換することをゴールとして、上場タイミングから逆算していつ・何をやるかの戦略・ロードマップを作成し、一つひとつ手を打っていきました。

筆者作成(外部講演資料から)。メルカリで実践したパーセプションチェンジの例。

ここでは詳細については割愛しますが、結果として、上場タイミングの掲載記事は「日本から本気で世界に挑戦している企業」としての論調一色になり、ネット業界に限らず、世間からの見られ方は明確に変わりました。

「日本で悪目立ちしている会社」から、「(高度経済成長期のソニーやホンダのように)日本からビッグテックに立ち向かっている会社」へと、変貌を遂げたのです。

これは結果論かもしれませんし、果たして私が入社直後に立てた戦略が奏功したかどうかは検証しようもありませんが、当時の広報チームは(現場担当者は一生懸命頑張っていたものの)「成り行きに合わせて臨機応変に対応しながら目先の状況を何とかする」状態であったことを踏まえると、少なくともこうした論調にはならなかったのではないかと思います。

もちろん企業も社会も「生き物」であり、その後のコロナ禍のマスク転売問題はじめ、引き続き世間や企業状況の変化に合わせて社会との対話は継続していくことになるのですが、広報起点で会社の成長ステージが変わった瞬間として、この不適切出品から上場までの「怒涛の日々」は今なお思い出に残っています。

 

「企業の成長ステージを変える瞬間」を創り出したい

ちなみに、LINEのときは記者からの偶発的な一本の問い合わせが起点でしたが、メルカリではこれまでの経験を元に意図して実現した成果ということで、なおさら感慨深いです。

私が現在独立して様々な企業様の広報コンサルティング・支援をさせていただいているのも、これまでの経験を元に、広報を起点としてクライアント企業の成長ステージを変える瞬間を創り出したい、という想いがあります。

とはいえ、独立してまだ半年ちょっとで日々試行錯誤の連続ではあるのですが、今後のコラムでは、私が考える「成長企業が実践する『評価される』広報チームのつくり方」についてご紹介していこうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

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