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仕事を休んで米国留学! マーケターにとっての学び直しの意味はどこにある!? Babson Collegeレポート

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事業とコミュニケーションの境がなくなる時代に、マーケターは何を学ぶべき?

シンガポールに駐在し、江崎グリコで全世界のPockyの広告を統括してきたマーケターの玉井博久さんが2023年8月より休職をし、米国に留学。Babson Collegeに通い始めました。40歳を過ぎ、なぜいま、学び直しをしようと思ったのか。20年ぶりの米国での学生生活で何が得られているのか。多くの起業家を輩出してきたBabson CollegeのMBAプログラムはどう実務に生かせるのか。米国にいる玉井さんに話を聞きました。

 

――なぜ、休職をして米国留学を決めたのか?

江崎グリコの社員としてシンガポール駐在になったのが2017年。その後、コロナ禍があって、出張も少なくなったことで、これからの自分がどうあるべきか、を考えなおす時間を持てました。

そのときに思い出していたのが、あるグローバル企業からやってきたインド人の上司の話でした。Pockyを含めたグリコブランドのキャンペーンのクリエイティブをチェックしてくれるのがこの上司で、クリエイティブの出来についてはいつもほめてもらっていました。でも、よく言われたフィードバックが「もっと、生のビジネスを知る機会を持つといいよ」というコメントでした。そのことについて考えているうちに、なんとなく、いちキャンペーンをつくるだけでなく事業をつくるようなことにかかわれないか、と思うようになったのです。

もともと2016年にお菓子で学べる無料アプリのプログラミング教材である「GLICODE(グリコード)」の開発に携わり、もはやマーケティングキャンペーンとビジネスの境目がよく分からなくなってきていると感じていました。グリコードは広告活動の一環として開発したものでしたが、結果的にそれがいま、江崎グリコのCSR活動にもなっている。加えて、宣伝会議の「アドタイ」の連載企画で2021年当時、ウォルト・ディズニー・カンパニーにいらした加藤匡嗣さんにインタビューをして、まさにウォルト・ディズニーでは事業とコミュニケーションの一体化が進んでいることも痛感していました。

 

――そこから、なぜ留学をすることになったのか?

私は広告クリエイティブの仕事からキャリアをスタートさせたのですが、佐藤雅彦さんの仕事の仕方にとても憧れを抱いてきました。佐藤さんは広告には作り方があるのだ、ということを明確に示している。なので、私も海外の広告賞の受賞作を徹底的に分析して、その作り方を抽出して、取り入れてみたりしてきました。そうした有効性は宣伝会議が主催する「カンヌから学ぶグローバルクリエイティブセミナー」でも伝えてきました。なので、事業をつくろう、ビジネスをつくろうと考えたときに、まず型を学びたいと思ったのです。これが起業家を多く輩出していてアントレプレナーシップ教育で世界的に著名なBabsonのことを知るきっかけでした。

Babson Collegeは27年連続アントレプレナーシップ教育で全米No.1(U.S. News調べ)を誇り、全米TOP10の大学(The Wall Street Journal調べ)で世界中から起業家やファミリービジネスの創業家が集まる学校です。MBAプログラムの日本人卒業生にトヨタ自動車代表取締役会長·豊田章男さんらがいることでも有名です。

 

――実際に9月から入学して、どのような学びがあったのか?

周囲のメンバーは20代後半から30代前半が中心で、自分は一回り年齢が上です。ただ4ヶ月ほど授業を受けてみての感想は知っていることが半分、知らないことが半分で、このバランスがとても学びやすく、逆に40代で入学して良かったと思っています。私はクラスで唯一の日本人で、昔スタンフォードに留学したりシンガポールに5年以上駐在したりしていたとはいえ、アメリカ人やインド人と英語で同じ立場でやり合うわけですので、知っていることが半分くらいあるからこそ、教授やクラスメイトたちに貢献でき、信頼を少しずつ勝ち得てこられていると思います。

財務関連の講義は、これまで知らなかったことが多く、新しい学びになっています。キャッシュフロー計算書を作成したり、新規事業の損益分岐点分析をしたりすることに加えて、投資家に対して自分達の事業価値がいくらなのかを数字で提示することで、ファンドレイジングやエグジットする技術を学べたことは大きいです。

また、Babsonは起業家や会計士は多い一方でマーケティングのバックグラウンドを持つ学生が少ない印象ですので、マーケティングの実務経験があると戦略立案や差別化に関する議論で授業をリードできます。どう売上をつくるか?どう他社と差別化するか?こうした戦略に関する議論では、これまでのマーケティングの実務で培ってきた経験がそのまま生きます。

先日はそんな経験を買ってもらって、他の学生の前でPockyのグローバルでのマーケティングの戦略について講義するように教授から依頼されました。

Babsonならではの教育についてはアントレプレナーシップ教育に非常に独自性があると思います。9月に入学して4カ月の間に、講義とは別で新規事業を企画・プレゼンしなければなりません。

121名在籍している学生をランダムに割り振り、5~6名のチームに分けます。このチームに分かれて、最初の7週間で新規事業案を作成してプレゼンする。さらに、その次の7週間で、その事業の3年目までの具体的な実行プランを作成してプレゼンすることが求められました。初めて会った人たちと短時間で事業の方向性を定めるだけでなく、実際に顧客となる人々に会って生の声を集めて着手すべき課題を特定し、その解決策をアイデアで終わらせず実際にプロトタイプとして提示しなければなりませんでした。その間にいわゆるMBA必修科目を授業で学びますが、これらの授業もサイロ化せず、事業創造にどう関わっていくかが示され、学んだことをすぐに新規事業立案に活かすことができました。

ここで面白かったのが新しいアイデアはすぐに形にできるということです。簡単なものはAIを使って何個もイメージビジュアルをつくってしまうし、あとはプロダクトであれば「段ボールでプロトタイプをつくってみろ」と指導されます。完成度の高さよりも、早く形にしてみて試して、そして作り直すことが大事…という話なのですが、確かに段ボールでアプリやデジタルコンテンツなどのプロトタイプすらつくれてしまう。このあたりの考え方とスピード感は新鮮でした。

他にも、世界中から集まる若者たちとChatGPTをはじめとするGenerative AIを使いこなしていったり、新規プロジェクトに投資するかどうかのリスクを出来るだけ数値化してワーストケースをどう回避するかを考える統計学的な分析技術を学べたりと、学校に来なければ知らなかったようなことに触れることができています。私はBabsonに通うために結果的にMBAに通うことになりましたが、今回留学してみて、ある程度の経験を積んでからの学び直しにも意味があるなと感じています。まだ始まったばかりですが、思い切ってチャレンジしてみてよかったと思います。

 

Pockyの戦略についてマーケティングの講義でプレゼンテーションを行う玉井さん。学生の反応も良かった。

 

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