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コラム

新版・伝説のPRパーソン~広報の歴史的発展に貢献した人々~

『グレイテスト・ショーマン』のP.T.バーナムが開拓、興行パブリシティの手法

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巧妙な宣伝で人気「フェイク・テイメント」の世界

フィニアス・テイラー・バーナム(Phineas Taylor Barnum、1810年~1891年)
Hulton Archive/ゲッティイメージズ

 

フィニアス・テイラー(P.T.)バーナムは、「地上最高のショーマン」と称された、19世紀に活躍した興行師です。空前絶後の「ごまかしのプリンス」あるいは最上級の「いかさま師」とも評されたバーナムは、1830年代からニューヨークを拠点に、荒唐無稽な見世物小屋や博物館をはじめ、サーカスなどの興行で人気を集めました。

彼の生涯を描いたテレビドラマや映画はいくつか制作されていますが、2017年に公開された『グレイテスト・ショーマン』では、ヒュー・ジャックマンがバーナムを演じていました。映画のタイトルは、バーナムが開設した「バーナムのアメリカ博物館」で催された興行「世界最大のショー」からきています。

コネチカット州生まれのバーナムは、地元での事業の失敗や、自身が創刊した新聞社のオーナー時代に名誉棄損で収監されるなど紆余曲折の後、1834年にニューヨークに移りました。1835年に、ジョージ・ワシントンの元乳母で160歳を超えているとの評判があった黒人奴隷の女性、ジョイス・ヘスを買い取って見世物にすることで、興行師としてのキャリアを始めました。

実際には、ヘスは80代の女性だったにもかかわらず、バーナムの巧妙な宣伝によって興行は成功を収めます。嘘で固めた彼の興行は「フェイク・テイメント」(Fake-Tainment)とも呼ばれ、現在ならバーナムは「フェイク・ニュース」の元祖だったといえるでしょうか。

彼が、1841年にニューヨーク市ブルックリンに開設した「バーナムのアメリカ博物館」という見世物小屋は、映画『グレイテスト・ショーマン』にも登場する「親指トム将軍 (General Tom Thumb)」などの人気で大成功を収め、ヨーロッパ巡業では、英ヴィクトリア女王にも謁見しました。

小人症の「親指トム将軍」こと、チャールズ・ストラットンとP.T.バーナム。

 

専属広報をつけ、イベント・プロモーターの手法を確立

その後、1871年に「バーナムのアメリカ博物館」を見世物だけではなく、サーカスやリサイタルなどと組み合わせた「地上最高のショー」(The Greatest Show on Earth)に発展させて、国内巡業を始めます。この巡業は大がかりなもので、馬車での移動が困難になり、彼は新たな移動手段を探していました。

アメリカでは1850年代に東海岸からミシシッピ川までの地域で鉄道網が次々と完成し、1869年には大陸横断鉄道が開通しました。その後も、次々と路線が建設されて、都市と地方間の移動が可能となりました。

この鉄道に目をつけたバーナムは、1871年から業界初の興行列車を始めました。彼は「ロードショー」式興行の先駆者であり、バーナムの「サーカス列車」は、他のサーカス興行主も採用するようになっていきます。

バーナムは興行先で観客を集めるために、新聞によるパブリシティを活用しました。アメリカでは、19世紀末までに2000紙が発行され、ニューヨークでは1部1セントで販売される大衆日刊紙が何十万部も発行されていました。今やアメリカで最大のマスメディアとなった新聞は、その多くが地方紙であり、話題性ある記事で売上を伸ばしたい新聞社にとって、ニューヨークで大人気の「地上最高のショー」の情報は、喉から手が出るほど掲載したかったのでしょう。

日刊紙『The Daily Graphic』(1873年10月17日発行)に掲載された、P.T.バーナムによる興行に関するパブリシティ。

 

興行のプロモーターであるバーナムは、自身の専属広報担当者を雇い、巡業先に広報担当者を先まわりさせ、記者に無料招待券を渡しては興行の紹介記事を書かせたほか、主要都市の新聞には告知広告を出しました。記事や広告で盛り上げ、派手な興行列車で到着したあと、市内をパレードする。そして興行が記事になる、という仕組みが確立され、彼の興行は各地で人気を博しました。

バーナムは、現代でも通用する優れたイベント・プロモーターであり、パブリシストでした。これらの成功は、後のサーカスやイベント興行に真似されます。興行パブリシティは、バーナムが道筋をつけ、多くの者がその後に従い、広く普及していきました。

 

「バーナム効果」で社会心理学の分野にも影響

一方、バーナムは「バーナム効果」として、社会心理学の分野にその名を残しています。バーナム効果とは、「多くの人に当てはまることを言われているにもかかわらず、これは自分のことを指している、と勘違いさせる心理的効果」のことで、米国の神学者ポール・ミールが、「We’ve got something for everyone(私たちには何か共通なものがある)」というバーナムが述べた言葉から名づけたものです。

また、この心理現象を検証した米国の心理学者バートラム・フォアにちなんで、「フォアラー効果」とも言われています。

バーナム効果は、占いや血液型診断、さらには現代では製品・サービスの広告宣伝手法のひとつとして、幅広く用いられています。バーナムは一般大衆の「怖いもの見たさ」につけ込み、世紀の大発見といった巧みな言葉で彼らの心理を操ることに長けていました。

米LIFE誌が1999年に選んだ、「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」では、バーナムはアメリカ人22名の中に選ばれています。

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広報豆知識(Public Relations Tips)~普段使っている専門用語の由来を知る

フェイク・ニュース(Fake News)

ドナルド・トランプ前米国大統領が頻繁に使って、広く認知された感のある「フェイク・ニュース(Fake News)」とは、報道機関や情報提供者が意図的に事実と異なる情報や、誤解を招くような虚偽の情報を作成したり、配信したりする場合に使われる。フェイク・ニュースは、私たちの社会生活や政治に大きな影響を与えたり、特にソーシャルメディアの普及により迅速に広がったりする可能性がある。

フェイク・ニュースの特徴として、「意図的な虚偽情報」「情報の拡散」「対象者(物)に対する信頼性の低下」「政治への多大な影響」などがある。対抗策としては、メディアやステークホルダーによる「事実確認 (Fact-Checking)」「フェイク・ニュースに惑わされないオンライン・プラットフォーム対策」「教育とメディアリテラシー」「報道倫理の確立と強化」などが挙げられ、AI学習によるモニタリングも効果をあげている。