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コラム

成長企業が実践する「評価される」広報チームのつくり方

客観性と当事者性~PR会社と事業会社の広報では使う筋肉が違う、という話

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こんにちは、株式会社はねの矢嶋です。年始から始まったこのコラムもいよいよ第5回を迎えました。今回はPR会社に関する論考について、私の経験からお話しできればと思います。

前回(第4回)のコラムで、私はPR会社に関して次のように述べています。

PR代理店を活用するなど一部業務をアウトソースすることによりリソースを補完することは可能ですが、ノウハウやアセットが社内に蓄積されるわけではなく、持続性に欠けるため、あくまで補完手段と考えた方が良いでしょう。

業務範囲が広範な一方、リソースに限りがある広報組織において、大きな成果を創出し、「評価される」チームになるためにはPR会社のサポートを得ることも重要な戦略オプションになります。

一方で、私の知人の広報担当者からは、よくこんな声も聞こえてきます。

「お願いしたことをちゃんと履行してくれない」
「事業理解が浅くて小手先のアイデアばかり」
「そもそもメディアリレーションが弱くてお願いした意味がない」等々。

私はLINEに入社する前に4年間ほどPR会社(日系PR会社2年、外資系PR会社2年)で働いていた経験があるほか、その後のLINE・メルカリではPR会社とお仕事をする機会も多くありました。そして現在はPRアドバイザーとして外部から事業会社の広報活動を支援する立場です。

今回は、PR会社と事業会社の広報という双方での経験を通じ、私が感じたPR会社の強み・限界や、その活かし方についてお話をさせていただきます。

 

PR会社時代に感じた「当事者性」の限界

写真 研修参加メンバーたちとの飲み会の一コマ
外資系PR会社在籍時の研修参加メンバーたちとの飲み会の一コマ(中央奥が筆者)。

まず、私がPR会社を辞めて事業会社に転身しようと思ったきっかけとなったエピソードから始めたいと思います。

当時(2007年頃)、私は外資系PR会社に勤めていて、主に外資系IT・ヘルスケアのクライアント企業に対して、PR戦略の立案から実行まで様々な活動支援をさせていただいていました。

以前に働いていた日系PR会社では、クライアントはスタートアップ企業中心、アプローチもパブリシティ活動が主だったのに比べ、外資系PR会社ではクライアントは名だたる外資系大手企業ばかりで、求められている役割も上流のコミュニケーション戦略部分が中心。私にとってはすべてが新鮮で、PRのプロフェッショナルである諸先輩方からも学ばせてもらうことが多く、PRパーソンとして成長するには最適な環境でした。

さらに、米国の本社で開催される、各国オフィスの幹部候補生を集めた研修トレーニングのメンバーにも選抜され、(従来のマスメディアだけでなく)ブロガーやインフルエンサーを活用したPR戦略(当時は「デジタルPR」と呼んでいました)のフレームワークを学ぶ機会を得ることができました。

そして、研修から帰国後は、日本オフィスの「デジタルPRリード」として、クライアント企業に対してデジタルPR戦略の提案や、研修講義を行う立場になりました。

当時は急速に普及の一途をたどっていたインターネット・ソーシャルメディアに対し、マスメディアの影響力が相対的に低下していくなかで、ブロガーやインフルエンサーなど「個人」を対象とした広報活動の必要性が叫ばれ出していた時代です。

果たしてクライアント企業からブロガー向けPRイベントを受注し、イベント自体も多くのブロガーに参加いただき大盛況、ブログ記事でもいくつか紹介されて、めでたしめでたし……と言いたいところだったのですが、クライアント側の予算都合により、この取り組みは志半ばで継続されることなく終了してしまいました。曰く「ROIが見えない」と。

私から言わせれば、今回のイベントはあくまでブロガーの皆さんとクライアント企業との最初の“接点”づくりでしかなく、今回を起点に継続的に関係性を築いていきながら、ブロガーの“先”にいる一般読者の方も含めて、中長期的に関係性の輪を拡げていかないと意味がありません。

また、ブロガーとのコミュニケーションも、クライアント企業担当者が「この商品を知ってほしい」という想いを込めて直に接するからこそ意味があるのであって、PR会社という「当事者ではない」人間で代理できるものではありません。

結局、クライアント企業が我々PR会社に求めていたのは、中長期的な関係性づくりではなく、短期的な話題化=「打ち上げ花火」だったのだなと、やりきれなさを感じたことを覚えています

そして、これは「ブロガー」ではなく「メディア」「記者」に置き換えても成立する話であり、私はこのときはじめてPR会社という「当事者ではない」立場であることの限界を認識したのでした

 

フラットに客観性を保つことが難しいのが事業会社の広報

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その後、私は縁あって2008年にネイバージャパン(現:LINEヤフー)に一人目の広報担当者として入社し、以来、その後のメルカリも含めて約15年にわたり事業会社広報としての道を歩んできたわけですが、事業会社の広報にも限界はあります。

事業会社に入社して思ったのは、「スコープが決まっていない」(自分で全てデザインする必要がある)と「リソースが圧倒的に足りない」ということです。

PR会社の場合は、向き合うカウンターパートは事業会社の広報担当者や宣伝・マーケティング担当など、一定の広報に対する前提理解もあるうえに、クライアントから提示される「オリエン資料」を基に、コミュニケーションを通じて解決したい課題や、依頼したい活動の範囲・スコープも所与として決まっていることが多い。そのため、やるべきことは良くも悪くも明確です。また、何かの判断が求められるケースが生じた場合、最後に判断するのは全てクライアントです。

一方、事業会社においては、向き合うカウンターパートは経営部門や事業担当者、リーガル・HR・CS担当など、広報に対する前提理解が無い方も含め、社内のあらゆる人との調整・やりとりが発生します。

すなわち「何をやるか」以上に、「なぜやるか」について広報としてのスタンス・意思を持ち、事業/経営観点での意義・価値までロジックを組んで説明しないと物事が進まないことが多い。つまり、PRのスキルや経験以上に、他部署を巻き込む「推進力」が強烈に求められるのです。

関連して、広報として求められるカバー範囲も、社内広報・事業広報・コーポレート広報・採用広報・危機管理広報など非常に広い中で、コミュニケーション上の課題抽出から戦略(中長期/短期)・戦術の策定まで、「何をやるか」だけでなく「何をやらないか」まで全て自分でデザインする必要があります。

広報はよく「身体の半分を社内に、身体の半分を社外に」と言われる通り、常に社外から見た客観的な視点を持つことが重要とされます。

そのため、日ごろからメディアの報道・トレンドを定期的にウォッチすることはもちろん、定期的に記者とコミュニケーションすることも大事な活動になります。ところが、気が付いたら社内で一日中ミーティングして終わってしまった、なんてことも少なくなく、社内調整に追われながら、フラットに客観性を保つことは非常に難易度が高いことを思い知らされました。

 

事業会社とPR会社の心地よい関係性とは

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このように、事業会社広報とPR会社広報、同じく広報という業務に従事する立場ではありますが、これらは似て非なるものであるという認識です。それぞれ強みが異なるので、一様にどちらが良いか・悪いかは言えるわけではありません。平たく言えば、「使う筋肉が違う」という感じでしょうか。

その違いを認識したうえで、最後にPR会社の活用是非について少しだけコメントしたいと思います。

私のスタンスとしては、活用の目的・依頼業務の範囲(活動スコープ)・KPIが明確な限りにおいて、リソースの“補完手段”としてのPR会社の活用についてはポジティブです。

「当事者性」は高い一方で、社内ステークホルダーが多く、「客観性」を保つのが難しい事業会社広報に対して、PR会社は様々な企業との活動実績・ケースに裏打ちされた「客観性」「普遍性」に基づく提案や実働が可能となります。

既存の型にはまらないクリエイティブアイデアの提案や、事業会社だけではカバーしきれないメディア開拓(特にテレビの情報番組など関係性が積みあがりづらい領域)、物理的に人手がかかる記者発表会の運営・進行・メディア対応、あるいは事業会社広報からは直言しにくい経営層へのメディアトレーニングや、セカンドオピニオンとしての危機管理広報など、多岐にわたる広報業務におけるお悩み・課題をサポートしてくれるパートナーとして非常に心強い存在であります。

一方で、24時間365日自社のことを考えている事業会社の広報担当と比べて、常に複数のクライアント企業を同時並行的に抱える立場であるPR会社の広報担当においては、「当事者=インサイダー」であるからこそわかる市場動向や自社に対する深い洞察、社内の様々なステークホルダーの思惑やコンテクスト理解、「当事者であること」が故に構築できるメディアとの深い関係性などは望むべくではないですし、限界があります。

そこは割り引いたうえで、「アウトサイダー」の立場であるPR会社に対して何を求めるのか、どんな成果を期待したいのか、明確にすることが必要ではないかと思います。

今回も長くなってしまいましたが、この辺で終わりにしたいと思います。次回コラムをお楽しみに。

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