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コラム

成長企業が実践する「評価される」広報チームのつくり方

経営者の皆さん、「ひとり広報」の次のステージを描けていますか

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こんにちは、株式会社はねの矢嶋です。第4回となる今回は、「経営者の皆さん、『ひとり広報』の次のステージを描けていますか」というテーマでお話したいと思います。

前回(第3回)のコラムでも、「ひとり広報」について少し触れさせていただきましたが、昨今、「ひとり広報」関連の書籍が何冊も出版されるなど、ある種の“ブーム”として注目を集めています。

 

「ひとり広報」実態調査から見えること

「ひとり広報」の実態については、日本パブリックリレーションズ協会の「ひとり広報実態調査」(2023年2月実施、同6月発表)が詳しいです。

ひとり広報の良さ、メリットに関する設問では、「良い結果が出たときに強い達成感がある」(82.5%)、「自分で意思決定ができ、自由に動ける」(80.3%)、「会社を背負う使命感、責任感を持てる」(75.4%)などが上位に挙がっています。

一方、悩みやデメリットとしては「成果を数値化しにくい」(69.9%)、「自分の判断が正しいかどうか不安」(63.3%)、「担当範囲が広すぎる」(61.8%)などが挙がっています。

ひとりであるが故に、会社を背負う使命感を持ちながら自由に動ける良さがあるものの、社内に広報に詳しい上司や経営陣がいるわけではないなかで、全て自分で判断して動かないといけない悩ましさがうかがえます。

 

「ひとり広報」体制を脱するべきタイミングとは?

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かくいう私も若かりしころ、「ひとり広報」を経験しています。PR代理店を退職し、2008年に初めて事業会社の広報としてネイバージャパン(現:LINEヤフー)に入社したときは、しばらく「ひとり広報」時代が続いたので、その大変さは身に染みてわかります。

「ひとり広報」については至る所で議論が尽くされているので、私からは“経営から見た広報チームの在り方”、という視点でコメントさせていただきたいと思います。

私のクライアント企業にも「ひとり広報」の会社がいくつかあり、経営者の方から今後の広報体制についてアドバイスを求められることが多いのですが、以下のように述べることが多いです。

  • ・広報リソースについては、会社の業績や体力にも拠るところが多いので、一時的に「ひとり広報」体制であるのは仕方がない
  • ・他方、今後大型資金調達やIPO、事業投資を踏むタイミングなど、会社がスケールしていく段にあたっては、早期に「ひとり広報」体制を脱してチーム体制に移行した方が良い(少なくとも、今の状態が「ベスト」だとは思わない方が良い)

前回コラムでお伝えした通り、一般に広報組織はリソースがヒト・モノ・カネのいずれにおいてもナイナイ尽くしであることが多い一方で、(大企業を除き)コーポレート広報、事業広報、採用広報、インターナル広報などカバー範囲が広く、どうしても目先のやるべきことにリソースを奪われがちです。

50人~100人規模の会社であれば、経営や事業部との距離も近く、事業もコア事業主体のため経営/事業課題の把握から広報施策の実行まで「ひとり広報」でシームレスに行うことは可能です。

ただ会社規模が数百人規模になり、事業も複線化してくると、社内情報のキャッチアップだけでも大変になりますし、社会に対しても影響力を発揮していくフェーズになるので、潜在層も含めた市場の拡大に向けたコミュニケーションや、有事に備えたリスクマネジメントなど広報活動の領域も広がってきます。

そうなると、現場担当者目線で言えば、経営や事業部からのオーダーに対して「ボールを落とさないようにする」ことで精一杯で、全て総花的に浅く・広く、「上澄みをすくう」活動しかできない、という状態に陥ってしまう懸念があります。

とどのつまり、企業の広報活動に何を求めるか次第ですが、会社や事業部の要請に応じてプレスリリースを出す、取材を入れるといったいわゆる「受けの広報」「目の前の案件の最大化」で良しとするなら、これでも良いかもしれません。

他方、会社/事業課題・世間的なトレンドなどを加味した「対外的なインパクト・モメンタム(勢い)創出」まで広報に求めるのであれば、リソースは拡充していく必要があります。

※なお、PR代理店を活用するなど一部業務をアウトソースすることによりリソースを補完することは可能ですが、ノウハウやアセットが社内に蓄積されるわけではなく、持続性に欠けるため、あくまで補完手段と考えた方が良いでしょう。

 

チームマネジメント視点で見る「ひとり広報」の課題

もう少し噛み砕いて説明してみます。「ひとり広報」を「ひとり広報チーム」と捉えると、一般論としてチームのマネジメントは以下3つの役割に大別されます。

グラフ その他 一般的なマネージャー(リーダー)の役割
筆者の講演資料から。

「戦略マネジメント」は、適切に経営陣とアラインメント(連携)し、経営の方針・計画を踏まえながらチームとしての戦略・方向性を定めて計画を立てていく領域です。

「業務マネジメント」は、立てた戦略・方向性に対して、成果達成に向けて実行・フォローアップしていく領域になります。

最後の「ピープルマネジメント」は、チームメンバーの育成や採用などを行い、より大きな成果を創出していくようにすることです。

「ひとり広報チーム」の場合、「ピープルマネジメント」は無いとしても、「戦略マネジメント(戦略立案)」と「業務マネジメント(実行)」まで全てひとりで担っている状態と言えます(ちなみに弊社は「戦略マネジメント」部分のコンサルティングと「業務マネジメント」の伴走・コーチングに特化しています)。

これの何が課題かと言うと、実行できるリソースが一人(=自分)しかないので、「あるべき姿」から逆算する「戦略思考」ではなく、いま自分ができることを最大限頑張る、という「積み上げ思考」に陥りやすくなる、つまり、広報担当者の限界=(その会社の)広報の限界になってしまうことが弊害として挙げられます。

 

もしも「ひとり広報担当者」が退職したら?

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また、特定個人に依存した組織は退職時のリスクも伴います。

広報業務はメディアとの人脈含め、良くも悪くも属人性が高いものです。なおかつ「ひとり広報」の場合はナレッジマネジメントも機能しにくいことから(ナレッジ・ノウハウの共有よりも、目先の実行にリソースが取られがちのため)、引継ぎもままならないまま急に担当者が退職してしまい、会社の広報活動がストップしてしまった、という話もよく聞きます。

とりわけ広報担当者の採用は目下「超売り手市場」。後任担当者を探そうにも半年~1年かかる、という話はザラであり、「必要になったら採用する」では遅いのです。

あるいは、担当者個人のキャリア/成長という観点でも、現場の実行業務の繰り返しではいつか「飽き」が来ます。会社としてスケールしていくことが見えた段階で、早期にマネージャーに抜擢することは大きな成長機会になるでしょう。

なぜなら、自分で手を動かすのではなく、他者(配下のチームメンバー)をマネジメントしながら、チームとしての成果達成を目指すことは全く別のチャレンジだからです。

また、実行業務から一部切り離し、経営との対話機会を増やすことで視野・視座が広がり、「経営の言語」を操れるようになることも期待したいところです。

 

「経営者がリソースを増やしてくれない…」どうすれば?

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上記は私の支援先の経営者に対して提言している内容ですが、現場担当者の目線で見たときに、「どうやって経営者を説得するか」という点も知りたいところではないかと思います。

私からの提案としては「人手が足りないから採用してほしい」は、実態に即して考えれば正論かもしれませんが、あまり好ましいアプローチとは言えません。

経営者の目線で考えると、人手を増やしたところで成果が2倍になればまだしも、その保証が見えない限りにおいて、新たに広報担当者を採用する、という判断には至りづらいからです(そもそも何を成果とするか、という部分の目線合わせから必要かもしれませんが)。

そうではなく、半年~1年先の経営/事業の動きを踏まえて、「広報としてこういう対外的なインパクト・モメンタム(勢い)を創出したい」と伝える。あるいは「ここで大きなモメンタムを創出しないと経営/事業的に機会損失になる」ので、「人を採用したい」という大きな広報戦略・グランドデザインに基づいて兵站(リソース)を補充してもらうアプローチの方が建設的な議論になりやすい気がしています。

第1回のコラムでも一部ご紹介しましたが、2017年にメルカリに入社した際に私が取り組んだのは、まさに戦略に基づいてリソースを補充してもらうアプローチでした。

まず取り組んだのは、現状の外部コミュニケーションにおける課題を整理すること。同時に、世間的に最も注目度が高まるマザーズ上場のタイミングで「社会から応援される会社」にパーセプションチェンジすべく、上場から逆算して、いつ・何をやるかの戦略・ロードマップを作成しました。

とはいえ、当時のメルカリの広報チームメンバーは私を除いて2名。私が実現しようとしていたことに比べるととても足りません。

そこで、当時の上司であった小泉文明さん(メルカリ 取締役 President(会長)兼 鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長)に対して、「これらのロードマップを実行するためにはリソース(と予算)が必要」という相談をしました。

すると、早々に小泉さんの「鶴の一声」で、前職で広報経験がある人事担当者を社内からコンバート異動してくれたほか、採用も私の権限で大きく拡充してもらうことができました。

広報が描いた戦略に対して、A) 最大成果を得るためにリソースを拡充するか、B)現有リソースの範囲内でやれることに活動範囲を縮小するか、そこは最終的に経営者判断になります。ですが、少なくとも広報担当者として「どういう絵を描こうとしているのか」を示すことが重要ではないでしょうか。

今回も長くなってしまいましたが、この辺で終わりにしたいと思います。次回コラムをお楽しみに。

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