顧客構造の改善結果は
「FOUND GOOD」は、アダストリアが企画開発、生産し、イトーヨーカ堂に卸すという形態を採っている。ただし、アダストリアはイトーヨーカ堂に対し、発注数量やマーチャンダイジング(MD)計画の提案のほか、店頭陳列や什器、掲出物などのVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)のほか、接客支援、ソーシャルメディアでのプロモーションなど、直営店に近いサポートを行う。

イトーヨーカ堂は2023年3月、祖業と言える衣料品事業からの撤退と、食品販売を中心に据える事業方針を発表。既存の衣料品売り場はテナントの導入を中心に進めていた。一方、「自主MD撤退を境に、店舗全体の客数と売上については前年対比で低迷傾向だった」と、イトーヨーカ堂の梅津尚宏・執行役員専門店事業部長は課題を明かす。すべてをテナント化すると、収益性が悪くなるおそれもあったようだ。
アダストリアとの協業は、衣料品からの撤退と前後して持ち上がった。イトーヨーカ堂の構造的な課題として、顧客の高齢化がある。2021年3月〜22年2月の「セブンカード」や共通ポイント「nanaco」のID-POSデータによると、イトーヨーカ堂の顧客の構成は、人口の年齢別構成比に対して、20歳代は9.9ポイント、30歳代は5.7ポイント低い。他方で、50歳代は6.8ポイント、60歳代は6.5ポイント高いこともわかっていた。アンケート調査では、2021年時点で「食品しか買わない」人が38%に上っていたという。
「FOUND GOOD」のモデル売り場を設けた「イトーヨーカドー木場店」では、「FOUND GOOD」をことし2月15日に導入。結果、30歳代女性の構成比が導入前の19.4%から5.3ポイント伸びて24.7%に、40歳代女性も21.3%から24.7%に増加した。推計はGPSを用いた来店客のデータで、導入前の比較期間は2023年2月20日〜3月19日。導入後は2024年2月26日〜3月24日。
客数自体も導入前の24年1月29〜2月4日の週を底に、オープン日を含む2月12日〜18日の週からV字回復となっている。店舗全体の売上も直近の3月25日〜31日の週で前年を超えた。
「食品とアパレルの両方をご購入いただいたお客さまは、2月15日前後の8週間における『7ID』会員の増加率で140%となった。同期間の1人あたり売上も201%、3月の食品売上も107%と、相乗効果を出せている」(梅津氏)
食品売り場側でも、30〜40歳代のファミリー層の集客を見越し、共働き世帯、子育て世帯向けのデリカ(総菜)や冷凍食品を強化した。簡便さやすぐに食べられることをアピールし、買い回りによる、店舗全体での収益拡大を図っている。
「FOUND GOOD」は2024年4月24日時点で、「イトーヨーカドー」47店舗に導入。そのうち、アダストリアは14店舗をプロデュースしている。イトーヨーカ堂との協業を担うのは、アダストリアのビジネスプロデュース本部リテールプロデュース部。
「地域や店舗の作り、売り場の坪数によっても動きが変わるので、データを見ながら改善を進めている」と話すのは、アダストリアの小林千晃・執行役員ビジネスプロデュース本部長だ。
「価格レンジは専門店とロードサイド郊外店の中間となるように設定した。日常的に訪れてほしい売り場なので、2週間に1回のペースで新商品を投入し、来店のたびに新たな商品と出合えるようにする」(小林氏)
吸水・速乾などの機能性を備えたブラウスなどのほか、生活雑貨などが好調。大まかな商品の分類は、7割がベーシックなもの、3割がトレンドを反映したものとした。
「当初想定よりも、ベーシックな商品に偏りがある印象。等身大の生活に合った価格帯で、商品のある生活は、等身大の一歩先、というブランドを実現したい。秋ごろに向けて修正していく」(小林氏)
イトーヨーカ堂はことし7月までに、「FOUND GOOD」を、「イトーヨーカドー」64店舗に拡大する計画。「イトーヨーカドー」は24年度中にも93店舗に体制再編する。ことし2月29日にオープンした新コンセプト店舗「SIPストア」、セブン-イレブン松戸常盤平駅前店(千葉県松戸市)にも170〜180品目を展開する。
