流動するクリエイター市場 視野が狭ければ可能性まで狭めてしまう

第一線のマーケター・クリエイターが明かす、キャリアアップの奥義。今回は、カオナビでコミュニケーションデザイン室 Head of Creative/クリエイティブディレクターを務める長谷川亮さんにこれまでのキャリアを、マスメディアンの荒川が伺いました。良い転職は、良質な情報を入手することから始まります。「こんなはずではなかったのに…」とならないための、転職情報をお届けします!

――広告業界に入ったきっかけを教えてください。

もともとはエディトリアルデザインに興味があったのですが、とあるご縁から、学生インターンとして佐藤可士和さんのアシスタントデザイナーをしたんです。広告業界が華やかな時代、可士和さんが手がけるSMAPのアートワークなど、スケールの大きな仕事を手伝ううちに広告の世界に引き込まれ、2006年に新卒でHAKUHODO DESIGNに入社しました。

社長の永井一史さんは、言わずと知れたアートディレクションの巨匠です。永井さんは僕に商業デザイナーの仕事の本質を教えてくれました。「デザイナーが良いデザインをするのは当たり前。クライアントが言いたいことをいかに伝えて、興味を持ってもらうかまで設計するべきだ」と。この教えは、いまでも胸に深く刺さっています。実際、永井さんがクリエイティブの力で企業のマーケティングを大きく成功させる瞬間を何度も目の当たりにしました。「デザイナーってここまで考えるんだ」と衝撃を受けましたね。

――その後、偉大な師匠のもとを離れたのはなぜですか?

20代後半に差し掛かった頃、アートディレクターとしてひとり立ちしたいと考えるようになりました。当時私はサントリー「伊右衛門」をメインで担当していて、クライアントからも評価いただいていましたが、どこか「永井一史」というブランドに守られている気がして。このまま長く居続けると、自分の力を過信してしまいそうで…。それに、グラフィック以外の領域に挑戦してみたい気持ちもありました。

2011年に入社したのは、外資系広告会社、グレイワールドワイドです。同社では、アートディレクターとコピーライターがタッグを組んで、担当ブランドに関する企画から制作まで、一気通貫で担当します。コンセプトワークやCMのプランニング、戦略設計など初めてやることばかり。自分の力を試すにはうってつけでしたが、最初はすごく苦労しました。思考の巡らせ方がグラフィック制作とは全然違うんですよね。

転機は入社2年目、ケロッグの「プリングルズ」ブランドを担当したことでした。一流グローバル企業を相手に、企画を考え、合意形成をして、プロダクションに指示を出しながら、海外ロケに立ち会う。レベルが高い複雑な案件でしたが、上司は僕に委ねてくれました。それまではどこか他のメンバーに頼る気持ちがあったのが、ここでスイッチが入ったというか。仕事を自分ごと化できて、うまくいくようになりました。28歳になった頃でした。

人物 写真 長谷川氏

カオナビ
コミュニケーションデザイン室Head of Creative
長谷川亮 氏

バンタンデザイン研究所に在学中、佐藤可士和氏率いるSAMURAIで学生インターンを経験。卒業後はHAKUHODO DESIGNに入社し、アートディレクター永井一史氏に師事。ブランディングエージェンシーSIMONE、外資系広告会社グレイワールドワイド、アサツーディ・ケイ(分社後はADKクリエイティブ・ワン)を経て、2021年にカオナビ入社。2023年より現職。

――どのような経緯で現職へ?

2018年にアサツー ディ・ケイ(当時)に、クリエイティブディレクターとして転職しました。1年半が過ぎた頃、コロナ禍になりました。ひとりでいる時間が増えて、それまでがむしゃらに走ってきたので、一度立ち止まって人生設計を考えてみたいと思うようになりました。

リモートでのコミュニケーションが普通になってくると、不思議なもので、昔のクリエイター仲間とよく連絡を取るようになったんです。中には事業会社の中核で働いている人もいて、仕事の話を聞いて驚きました。クリエイターって、そんなにビジネスに深く踏み込めるのか、いまはそんな需要があるのか、と。僕はずっとチャレンジしてきた自負もあった分、「広告業界という狭い世界のことしか知らなかったんだ」とがくぜんとしました。そうしたら、自分はクリエイターとして、アンバランスな筋肉の付き方をしているんじゃないかという気がしてきたんです。上半身はムキムキなのに下半身はガリガリ、みたいな。

それで、このままではいけない、広告という一側面ではなく、会社経営全体を知りたいと思いました。これまで多様なクリエイティブをカタチにしてきたことで、経験の「広さ」には自信がありました。一社の事業に深く入り込めば、「奥行き」が出せる。10年後も通用するクリエイターになるには、通るべき道なのではないかと思ったのです。

――数ある事業会社の中からカオナビを選んだ理由は?

テクノロジーで個の力を引き出し、社会を変えていくというパーパスに共感したからです。また、BX(ブランドエクスペリエンス)をつくる過程に興味があったので、未完成の組織でBXを実践したかったんです。僕が入社した2021年のカオナビは、上場してリブランディングを目指すタイミング。規模感や資金力、安定性があり、クリエイティブに注力できる地盤も経営陣からの期待もあった。「経営陣と対等に議論し、一緒に成長を目指す」という僕の理想に合っていると感じました。

いま振り返っても、その判断は正しかったと思います。経営陣とチームメイトのようにさまざまな課題に向き合ってきたことで、会社、経営、事業への理解は徐々に深まってきた気がします。10年後も通用するにはまだ努力が必要ですが、まあ、3年はいけるんじゃないかな(笑)。

――キャリアの指針はありますか?

何かを決断するには2つのやり方があります。ひとつは、誰に何を言われようと、自分を信じてわが道を進むやり方。もうひとつは、客観的に市場を見ながら判断するやり方です。

僕は断然、後者。永井さんに教わったように、商業クリエイターは人にモノを伝えることが仕事のゴールだから、常に客観的な視点を持って決断していくべきだといまでも思っています。

自分のキャリアについても同じです。クリエイター市場はすごい勢いで変化しています。視野が狭いと、自分の可能性まで狭めてしまう。時には立ち止まって自分を俯瞰(ふかん)で見ることが大切です。そうすると、日々の仕事の意味が違って見えてきます。身近な人に「どう思う?」と相談するだけでも全然違うと思いますよ。僕は会社でも妻にも、口癖のように聞いています(笑)。


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荒川 直哉(マスメディアン 取締役 国家資格キャリアコンサルタント)
荒川 直哉(マスメディアン 取締役 国家資格キャリアコンサルタント)

マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。

荒川 直哉(マスメディアン 取締役 国家資格キャリアコンサルタント)

マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。

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