プレゼンは、きみのキャリアを上げるためのカギだ。
今は、小学生もiPad片手に、毎月のようにプレゼンする時代である。
面接、ピッチ、初めて会う人との対話、すべてがプレゼンテーションの一種だ。
にもかかわらず「プレゼン苦手です」という相談をよく聞くので、迂闊者なりの「プレゼンで緊張しなくなる方法」を伝授したい。
ぼくはプレゼンがとても下手だった。
まず、顔が怖い。
「何ふてくされてんの」「殺人犯のような目つきをしているね」とよく言われる。
「人は見た目が9割」であるところ、ファーストインプレッション―90点。
20代の頃、とある自動車系クライアントでのこと。CMとWebも含めた、統合キャンペーンのプレゼン。Webは、テクニカルディレクターであるぼくが一番説明できるだろう、ということで、ぼくがプレゼンターの役を引き受けた。CMやグラフィックの話が終わり、ぼくが意気揚々と企画の説明をはじめた。
ところが、ふと途中で相手の顔を見ると、クライアントの目が半開きの四重くらいになっている。
ものすごい重みで落ちてくる上瞼に、全身全霊で拮抗しているのだ。
ねっ
眠そう!!!!
しかも、一人ではなく、二人が眠そうにしていた。
まちがいない。
ぼくが原因だ。
キンチョールのCMの、大滝秀治の顔が脳裏に浮かんだ。
「お前の話はつまらん」
こうなると、プレゼンに集中できない。「眠そう。どうしよう」という動揺が混じり、話している内容がうわずってくる。すると、さらに余計な内容を語り出してしまい、何を言っているかわからなくなっていく……。
これが世にいうプレゼンナイトメア である。
ここで、上司の高草木博純さんがフォローに入ってくれた。
高草木さんは、アートディレクター(AD)である。一般的にADは「口よりも中身で勝負!黙っていいデザインを仕上げる」タイプの人が多いが、この御仁は神がかり的にプレゼンがうまい。以前会ったどのアートディレクターとも違う軽妙な語り口と、よくわかる話の引き出し、ぼくがそれまで自慢げに話していた最新技術について、誰にでもわかるような比喩で説明していく。
「彼が言ってるのは、実はまあ、簡単に申し上げると、こういうようなことでして……」
と高草木さんが補足説明を始めると、なんと、みるみる眠そうな二人の目が開いていく!
「……ということなんですよ。じゃあ続きをどうぞ」
と、またぼくにバトンタッチした。
気を取り直して、続きのページから説明をするぼく。あとは1ページ、細かい補足説明だけ。流暢に説明をしながら、資料に目を落としていた顔を上げて、クライアントのほうを確認すると
また四重
船すら漕いでいる。
そして、なんと鼻ちょうちんが出ている——。
鼻ちょうちんは、マンガだけの世界ではなく、現実世界に起こりうる事象だと初めて知った。クソつまらないぼくのプレゼンによって。
ショックだった。
自分はプレゼンテーションが下手なのだ、とあらためて自覚した瞬間だった。
何がいけなかったのか?差は何なのか?
それからなるべくプレゼンは自分から手を挙げて、打数と試行錯誤を増やして研究をした結果、少しずつ成功したり褒められるようになってきた。
「緊張しない、良いプレゼンの公式」は2つだけである。
① Howよりも、WhoとWhat
②「友達へのサプライズプレゼント」と思え
① Howよりも、WhoとWhat
うまく話そうとするから緊張する。
いきなり、How = 技術や見え方を鍛えようとするのが一番無理ゲーで、それまで鍛錬もしなかった人間が、いきなり流暢に闊達に話せるようになるわけはないのだ。大根役者が名俳優になるのと同じ類の難易度である。
実は、マーケティングと同じだ。
Howの前にWhoとWhat、誰に何を言うと一番響くのか?ということをきっちりと絞り込む。これだけでいい。
Whoとは
Whoの定義は簡単。目の前にいるプレゼン相手だ。きみは、プレゼン相手のことをどれくらい知っているか?
プレゼン相手が経営者やCMOであることも多いので、Webにだいたいインタビュー記事が掲載されている。会社のミッションやトップメッセージも読む。どの事業がどのくらいの割合の売り上げかを調べる。すると、相手が何を考えているか、何をしてほしいかが分かってくる。
経営者にとって、広告宣伝費というのは事業の中で大変悩ましい流動費だ。できればゼロに近い方が望ましいが、なければサービスは売れない。なので、まず「大事なお金を払っただけの効果がありそうか」を求めているのであって、きみのプレゼンが軽妙で面白くあるかどうかは、本質的には関係ない。
さらには、広告が面白いかどうかも、効果には直接的には関係がない。
しかし、つまらない広告を打ちたいクライアントもいないので、面白いことは最低限の条件。そのうえで、どれだけ効果を出せるかにこだわると、相手と同じ目線になる。
できれば、部分的に相手に憑依できるくらいが望ましい。
当たり前だが自分の意図が、相手の意図と100%一致したら、すべてのプレゼンは通る。
しかし、「あたしはあなたにはなれない」とaikoも歌っているように、生き方も考え方も違うので、部分的にシンクロ率を上げていくのである。相手の思いを理解する。
先方からのオリエンテーションを営業に任せず、自分で直接インタビューしよう。なるたけリモートではなく、直接会おう。憑依のヒントがたくさんあるからだ。
よく、営業が先に聞いてきちゃって、直接聞くタイミングがないというケースがあるが、無理して再度場を作ってもらった方がいい。
オリエン資料を読んでも憑依できない。
「迂闊型」のコミュニケーションは、できるだけ自分で動く。他人を信頼しつつも、すべてを任せない。受け身にならない。しゃしゃり出て、ガワになって、顔になって、主体者の一員になること。
相手の意図を深く理解できているか?憑依できているか?
Whatとは
では、Whatとはいったい何なのか?
Whatとは、「ベネフィット(便益)」と「RTB」の組み合わせだ。
便益とは、読んで字の如く、「便利で利益になること」である。ターゲットの課題に対して、一番リターンが大きそうな仮説。
- 一番売れそう
- 一番話題になりそう
- 一番ダウンロードされそう
- 一番有名になりそう
- 一番ブランド価値が向上できそう
RTBとは、Reason to believe = 信ずるに足る理由。
なぜ、その企画が一番効率が良さそうなのか?
・最近話題の時事ネタを盛り込んでいるから
・他社の類似事例でも成功しているから
・成功しているメソッドを踏まえているから
・成功したことが何度もあるから
つまり、
「この企画がいちばん効果的だ。なぜなら〜だから」の組み合わせの中で最高と思われるものを、淡々と出せば良いのだ。
「なんだ、当たり前の話じゃん」と思われた方も多いのではないだろうか。
この当たり前が、きちんとできていないから、独りよがりの案に見えるし、人は人前で話すのに緊張し、プレゼンが怖くなったりとちったりする。とちったってぜんぜんいいのだ。こちらは、あなたの課題に応える最高の企画を持ってきたわけで、それを淡々と説明しているだけだ。
②「友達へのサプライズプレゼント」と思え
ここまで、プレゼンはHowじゃなくてWhoとWhatがまず大事だよ、と言う話をした。
では、How=見せ方や技術は、はたして必要ではないのか?
ある程度は必要だよね、というのがぼくの答えだ。
なぜかというと、「一番効果の高いWhat =ベネフィット+RTB の組み合わせ」というものを客観的に証明できない場合があるからだ。マーケターやコンサルは、定性インタビューやA/Bテストで証明できるが、クリエイティブや新規事業は、「たぶん一番いいと思うッス」という主観が混じらざるを得ない。そこはHowで埋める必要がある。
最近、ぼくのプレゼンを聞いた人はこう言ってくださる。
「中村さん芸人みたい。ついつい面白くて聞き入ってしまう。他の人にプレゼンされても面白いと思わなかった企画が、俄然面白く感じました」
そう。
ぼくは苦節ン十年、鼻ちょうちん問題を改善し、Howも会得し、面白そうなプレゼンができる身体になって帰ってきたのだ!!
では、お教えしよう。
Howのレベルを上げるコツは……。
正直、場数です。
ミもフタも無いことを言ってしまうが、どれだけの数、シチュエーション、相手へのプレゼンテーションをこなしたかという場数を踏むことによる総合的な身体的技術や、場慣れ、教養、人間観察能力の集大成だったりする。おそらく1,000回はプレゼンを経験している。
ここで生きてくるのが、「迂闊型」のコミュニケーションだ。
迂闊鬼十則の142
プレゼンターをなるべく多く買って出よ
プレゼンターを買って出ると、いいことがたくさんある。
まず、「他人が作った資料はうまくプレゼンできない」ので、自分で資料の大部分をつくることになる。チームにとってきみは要になる。きみの価値向上となる。いいことも悪いこともきみ中心に相談が来るようになり、経験値が上がる速度が段違いになるのである。
プレゼンに限らず、なんでも首を突っ込み、自分から「やりましょうか」と挙手して、多くつとめ、率先して失敗して恥をかこう。
「あなたのプレゼンのおかげで勝てた」とチームから喜ばれることはあるが、「お前のプレゼンのせいで負けた」と言われることは、不思議なことにないのだ。
しかし、「結局、場数っス」というのは何も言っていないのに等しいので、ぼくが心がけている技法を紹介する。
「メチャメチャ面白いことを考えたので、あなたなら絶対喜んでくれると思います。発表します発表します!あー楽しみ!」と、友達や恋人にサプライズプレゼントをあげるような気持ちでしゃべろう。
きみたちは、友達や恋人と日常的なコミュニケーションをとるときに、緊張してとちることがあるか?
ムダに構えて、相手を尊大に捉え、過大評価して、言葉を選び、失敗しないように、うまく淀みなく話そうとするから緊張する。
もうきみはすでに、相手の気持ちや課題感を理解・共感できており、それに応えるための最高のプレゼントを用意してきたのだ。
カッコなんかつけずに、きみが最高だと思うものを、友達に伝えるように、誰よりもワクワクして面白そうに話せばいいのだ。
「中村さんは、アイデアを話しているとき、ひときわ声が大きいですね」
と言われたことがあるが、自分が最高だと思ってワクワクしているアイデアを、つまらなそうに話す奴がいるか?
こちとら棺桶に片足つっこみはじめたアラフィフだが、あなたに最高のプレゼントをあげられると思ってときめきながらプレゼンしているのだ。こんまりが片付けながらときめくド変態であることと同様、他所様の広告考えて勝手にときめいているド変態である。
自信がないのは、自分で話す内容にワクワクしていない。つまり、Howの前、WhoとWhatがきちんと準備できていないからなのだ。いきなりコミュニケーションスキルを上げようと思わず、自分をそのままぶつけるのが最も効果が高い。ウソがないからだ。
相手のガードを下げ、「あれ、この人こんなに自分のことを知っててくれたっけ」と、相手とのシンクロ率を上げるために、目線を近づけていく、緊張をしない間柄でいるくらいのことができれば、あとは中身だけだ。
同様に、パワポやkeynoteの「発言者ノート」に話す内容を台本として書いている人がいるが、あまりそれで魅力的なHowになっている人を見たことがない。それより「細かい部分は抜けてしまっても、自分の言葉で話す」ことのほうがよっぽど効果が高い。
迂闊鬼十則の143
プレゼンは、Howではなく、WhoとWhat
迂闊鬼十則の144
「友達へのサプライズ」と思ってプレゼンせよ
※3回予定だった連載、好評のため伸びました。
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