「100歳の女性インスタグラマー」を一躍有名にした広告、その背景にある文化的価値観とは

2024年のカンヌライオンズ受賞作を、異文化理解の専門家はどう読み解くのか。世界の広告事例を異文化理解の視点から解説する書籍『世界の広告クリエイティブを読み解く』の著者の一人、渡邉 寧氏に3つのグランプリ作品を分析してもらった。共通するキーワードは「個人主義」と「女性性」だ。

カンヌの受賞作にも、世界的に進む「個人主義化」が反映されている

近年、世界は着実に個人主義化する傾向を示しています。世界価値観調査等のグローバルな調査における世代グループ別分析によると、特にZ世代など若い世代ほど個人主義的な価値観の傾向が強くなることが報告されています。この結果、個人主義化の一つの帰結として、「自分が享受している権利と同等の権利が、マイノリティとして差別や不利益を被っていた人々に対しても認められるべき」という考えを鮮明にする人が目立つようになってきました。

この個人主義の価値観は、広告表現でも色濃く見ることができます。本稿では、2024年のカンヌライオンズで高く評価された3つの作品を通じて、個人主義の価値観がどのように広告表現に反映されているかを探ります。同時に、それぞれの作品が生まれた文化的背景にも目を向け、グローバル化が進む中での文化差の重要性についても考察していきます。

女子サッカーにスポットライトを当てた「WoMen’s Football」

イメージ グラフィック 「WoMen's Football」

最初に取り上げるのは、エンタテインメント・ライオンズ・フォー・スポーツ部門とフィルム部門でグランプリを受賞したOrange「WoMen's Football」です。

サッカー大国フランスにおいて、女子サッカーに十分な注目が集まっていない問題を解決するために、通信会社のOrangeは、フランス女子チームの技術的なプレーをVFXで男子選手のプレーのように見せかけた動画を制作し、SNSに投稿しました。これにより、フランスの視聴者が持つ、女子チームの技術力に対する偏見に対する揺さぶりをかけることが狙われました。

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