1冊目は『なんだ、けっきょく最後は言葉じゃないか。』。著者は、クリエイティブディレクター/コピーライターの伊藤公一氏。伊藤氏は2011〜2015年Hondaのエグゼクティブクリエーティブディレクター(ECD)をつとめ、「セダン愛。」(Honda)、「人生は、よくかんで」(日本生命)、「たくさんのいい就職が、この国を変えていく」(リクルート)などの仕事があります。
本書は、伊藤氏が社内で中堅コピーライターに向けて開催していた「コピーゼミ」の内容を書籍化したものです。プロがコピーを生むプロセスをロジカルに解説する実用的な側面がありながら、多数の名作コピーを味わう楽しみも。広告コピーの「相手を想像し、気持ちを動かす言葉を届ける」エッセンスが凝縮されており、一段上を目指したいコピーライターはもちろん、言葉を使って人の心を動かしたい経営者やリーダーにも読んでもらいたい一冊です。
伊藤公一著『なんだ、けっきょく最後は言葉じゃないか。』定価1760円(税込)
発売以来、各所での講演依頼など、反響が続いています。著者の伊藤氏に、発売以来の3年半を振り返ってコメントをいただきました。
著者 伊藤公一氏コメント:
2021年に言葉の本を書いた。一応、広告コピーの本だったが、言葉を使ったコミュニケーション全体を視野に入れて書いたつもりだ。書いて良かったと思っている。
新しく担当することになったクライアントの社長が興味を持ってくれて、宣伝部の社員に大事なことが書いてあるから読んでおきなさいと紹介してくださったりした。
何より、この本を書いたおかげで、言葉を生業に、という自分の立ち位置が定まったように思える。
書いたときはコロナ禍真っ盛り、各国のリーダーが自分の言葉で国民に発信しているのに比べ、この国の政治家の発する言葉は官僚が書いたものをただ読み上げるだけ。全く心に響かず、暗澹とした気持ちになったことを覚えている。
今、言葉を取り巻く環境は当時より悪化していると思う。2024年4月の衆議院補選での大騒ぎ、7月の都知事選後の止むことの無い誹謗中傷。海外に目を向ければ、米国の大統領選での相手を貶める言葉の応酬。パリ五輪では敗者に罵詈雑言が浴びせられた。
言葉で人の心を動かす。それは相手にどんな気持ちになってもらいたいかをあらかじめ決めて、それに相応しい単語や文体を選んでいくという技術だ。そのことは相手を幸せな気持ちにすることもできるが、相手を効果的に傷つけることもできるということを示している。
広告のコピーというものは人の気持ちをポジティブにすることを目的している。手法としてネガティブなアプローチも存在するが、それは概ね人に強い気づきを与えるためのもので、最終的なゴールはポジティブなものだ。
相手をやり込める論破を痛快と思ったり、すでに傷ついている人に、いわれのない言葉で追い打ちをかけたり。そんな言葉たちの真逆に広告のコピーはあると思う。こんな世の中だからこそ、改めてコピーライターとは素敵な職業だと思う。
意識して言葉で人を傷つけようとする人間を止めることは困難だ。しかし、そんなつもりはなかったのに誰かを傷つけてしまう、そんな悲劇は回避することができる。
この本ではコミュニケーションを誰かととろうとする時には想像力が大切だと書いた。それは相手の気持ちを動かすときに、相手が今、どんな気持ちかを想像して、それを変えていくのにはどんな言葉が有効かを想像するということ。そしてそのことは、一般の会社員にとっても学生にとっても、誰にとっても必要なことだと思う。
これ以上、予期せぬ言葉のやり取りで、あなたを取り巻く個人的な世界が荒まないよう、この本が役立ってくれたら、それに勝る喜びはない。
担当編集者のおすすめポイント:
インフォメーションとコミュニケーションの違い。この説明から、本書は始まります。インフォメーションは、情報を正確に伝えるためのもの。コミュニケーションは、伝えた上で、相手の心を動かすためのもの。言いたいことを言っても、実は相手にはほぼ伝わらない。世の中のすれ違いの多くは、このシンプルな法則を知らないために起こっているのではないでしょうか。
