『パーパスの浸透と実践』によせて(佐藤卓)

ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

『パーパスの浸透と実践』を読んで、この方丈記の冒頭文を思い出した。自然も社会も動的平衡、つまり流れの中にあってエントロピー増大の法則に抗うことが、生命も企業も存在し続けるということなのだろう。資本主義と民主主義が合流する川では、どうしても効率と平等の中で組織は目的を見失いがちで、気がついた時にはよどみにはまり危険な状態に至っていることがある。知らず知らずのうちに成長だけが目的化しがちな現代社会で、それを予測し、自社の存在意義はどこにあるのかを問わざるを得なくなった時に、“パーパス”という強く頼れそうで、しかも魅力的な言葉に惹かれるのは必然だろう。60年前30億人だった世界の人口が今や80億人を超え、環境問題も複雑に絡む時代に、少なからず環境に負荷をかける各企業が、存在する意義を問われて当然なのである。

著者はこの本の前に『パーパス・ブランディング〜「何をやるか?」ではなく、「なぜやるか?」から考える』を出版し、その重要性をいち早く説いた。そして、著者が率いるSMOという会社で実際に数多くのブランディング構築の経験から、それが絵に描いた餅になる可能性をも予測して出版したのが第二弾にあたるこの本である。この予測と出版の意味は大きい。著者も危惧しているようにパーパスの策定は企業経営においてブームのようになってしまったからだ。流行りに乗じて、自社のパーパスもあやしいコンサルティング会社が「企業のため、そしてブランドのために、これからはパーパスの策定が重要になります」などと誘導すれば、迷走している会社はすぐに靡いてしまうだろう。もちろん信頼できるコンサルティング会社も多々あるわけだが、パーパスは策定すればいいというわけではなく、その後が重要なのだと著者は語る。この著書第二弾ではそれを7つのステップにしてわかりやすく解説してくれている。ブランディングに関わることも多くある私自身も読みながら、自分が行ってきたことは「そういうことだったのか」と気付かされた。そしてパーパスの策定とそれをうまく活かしている企業へのインタビューなども、あまり公開されていない実践に基づいた情報として興味深く拝読できた。

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