「従業員数基準」への対策が必要
経済産業省中小企業庁は5月16日、「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案」を成立させた。「下請代金支払遅延等防止法」の題名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(適正取引推進法・取適法)に改め、2026年1月に施行される。従来は不当な価格で発注する「買いたたき」行為などを禁止しており、今回新たに、下請事業者からの価格交渉の申し出に対して対応する義務などが新たに追加された。
広告・メディア業界においても、この法改正の影響を受ける。広告やデザインの制作を委託する際には、単価表に基づいて発注するケースが多いが、昨今の物価高騰を背景に、価格交渉に応じる必要性が高まると見られる。
また、新たな適用基準として「従業員数基準」も新設された。今後は従来の取引内容と資本金の区分だけでなく、委託事業者と受託事業者の従業員数も考慮する必要がある。一方で取引先の正確な従業員数を確認する方法は少なく、「自社の従業員数が基準を超えていた場合は適用させる」といった対応方針をあらかじめ決めておくことが重要だ。
今回の改正は、物価上昇や賃上げの動きを踏まえ、取引の適正化を通じて価格転嫁を促進することを目的としている。
2024年度の調査では、下請法の違反件数は6982件に上った。「支払遅延」(59%)が最も多く、次いで「支払代金の減額」(16.4%)、「買いたたき」(12.9%)が続き、この3項目で全体の約9割を占めている。これらの違反行為は、受託事業者と合意していた場合や、委託事業者側に違法性の認識がなかった場合であっても違反とみなされる。
従来は「下請事業者」「親事業者」「下請代金」といった用語が用いられていたが、「取適法」では「中小受託事業者」「委託代金」などの表現に改められた。現行下請法に関するアンケート調査において、「下請事業者」という用語が業界であまり使われておらず、上下関係を連想させるとの否定的な意見が寄せられたことを反映している。