私たちの選択は、計画通りに行われるものばかりではなく、思いがけない出会いや衝動などの「偶発的」な要素に大きく影響を受けている──書籍『偶発購買デザイン 「SNSで衝動買い」は設計できる』は、こうした偶発的な購買を戦略的に作り出すことが、SNS時代にブランドの躍進につながると説いている。いまやこうした偶発的な選択行動は、購買行動だけではなく、より広範な人の選択行動にも見られるようになっているという。著者の宮前政志氏に、スキマバイト、カフェ来店、転職活動を例に、「計画」から「偶発」への変化が具体的にどう表れているのかを3回にわたって寄稿してもらった。
「予定」と「衝動」がもたらす新しい働き方── スキマバイトの「計画」と「偶発」
「副業」や「スキマバイト」という言葉が当たり前になった現代、その動機は大きく二つに分類できる。ひとつは“いつまでにこれだけ稼がなければ”という必要に迫られた計画的な動機。もうひとつは“やってみたい”という気まぐれや好奇心に根ざした偶発的な動機。金銭か、好奇心か。スキマバイトを選ぶ理由にも「計画的利用」と「偶発的利用」という、二つの異なる利用が存在する。
「計画的利用」層には目的達成が見える発信が有効
計画的なスキマバイト利用は、収入増などの働く目的意識をはっきり持ってスキマバイトを探して働く行為だ。収入増や生活費の補填など明確な目的を持つ人たちがテレビCMやWeb広告で認知し、「給料日前だからちょっとスキマバイトで稼ごう」「急な出費をまかなうために働こう」と計画的に働きに出る。
広告主としてこうした計画的ニーズを捉える場合、例えば「借りるくらいなら稼ごう!」といったメッセージで、借り入れニーズ関連のワードで検索した層をデジタル広告でしっかり刈り取るといった戦略は有効かもしれない。テレビCMで「計画利用」の認知を広げ、リスティング広告やSEO対策で「計画的に稼ぎたい」層の背中を押して「需要刈取」を行うわけだ。
「偶発的利用」層の需要は気まぐれや好奇心から生まれる
一方で、もう1つのスキマバイトは「偶発的利用」だ。偶発的なスキマバイトは、目的意識がはっきりしておらず暇つぶしや気分転換、好奇心などで「ふと思い立って」スキマバイトを利用する行為だ。忙しない毎日の中で、突如として「ぽっかり空いた1時間」ができる。そんなとき「ただ時間を潰すのはもったいない」「新しい刺激が欲しい」という、ちょっとした衝動が背中を押す。
これはSNSのタイムラインを眺めているとき、ふと流れてきた友人の「短時間バイト、思ったより楽しかった!」「意外と簡単にできた」という発信に心が動き、「自分もやってみようかな」と気まぐれに始まる。この「偶然」の力が、多くの新しいユーザーを生み出す。ユーザーによる情報発信のSNSや口コミとの遭遇により、「やってみたい」「知らなかったけどおもしろそう」と思わせる「需要」が沸き上がる。
