大原大次郎さんのとっておきの楽曲集「ノートリミング」

切り取りきれない風景

人の声に惹かれる。

言葉や文字が誕生するずっとずっと前の時代に思いを馳せると、そこには声があったのだと思う。空気を震わせながら、声色や声量を変えたり、重ねたり抑揚やリズムをつけながら、声そのもので遊びながら、歌の原型のようなものが生まれたんじゃないかと思っている。

声の延長線上に歌があって、そこから言葉や文字が紡がれていったと想像してみる。文字と声が初めて自分の中で繋がったのは、平野甲賀さんがイルリメさんとの対話の中でご自身の描き文字を指して「僕の文字はラップのようなものだ」とおっしゃっていたことがきっかけだった。それ以来、声は空気中で文字のような像を結び、文字は声のように空気に還るようなイメージを持つようになった。

“見せておきたい景色がずっと募って 写真じゃ切り取り切れないから 話せば白々しくなるから 連れて行きたい気持ちになります”(イルリメ『トリミング』より)。まさに、という景色に出会ったとき、このリリックを思い出す……と言葉にするのも白々しいのだけれど、そんな、文字や画では切り取りきれない風景が音楽にはあると感じる。

仕事中は無音のほうが良い、という人もいる。カフェなどの、ほどよい喧騒を好む人も多い。自分は仕事中はずっと音楽を聴き続けている。ただ、文字を扱うことが多いので、眼の前にある文字と同時に言葉が聴こえてくると、つい歌の世界に没入してしまうため、日頃はインストを(主に上品なテクノを適温で、または下品なテクノを爆音で)浴びている。

このプレイリストは、好きなのに、好きだからこそ、声を聴き流さないように、聴き逃さないように仕事中はあえて聴かないようにしている、とっておきの楽曲集です。

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おおはら・だいじろう

タイポグラフィを基軸とし、グラフィックデザイン、ブックデザイン、イラストレーション、映像制作などに従事するほか、展覧会やワークショップを通して文字の新たな知覚を探るプロジェクトを多数展開する。著書に『HAND BOOK:大原大次郎 Works & Process 』(グラフィック社、2023)。


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