デジタル時代におけるブランド価値と共感を生むブランド体験の創り方

7月に名古屋で開催された「マーケティングサミットリージョナル2025」から注目セミナーをレポート。シヤチハタの舟橋正剛氏は、プロダクトからサービスへと舵を切った自社の変革と、生活者視点で共感を呼ぶ「しるしの価値」について語った。また、イオンエンターテイメントの今井良氏は、スキップされない広告としての「シネアド」が、映画館という特殊な環境を活かしながら、ブランドとのポジティブな出会いをどうつくるのかを紹介した。

「危機感」からのスタート

スタンプ台やネーム印で知られるシヤチハタは、創業から100年を迎える。順調に売上を伸ばしていたが、社内に広がっていたのは危機感だったと舟橋正剛氏は話す。スタンプやゴム製品の需要が先細る中、10年以上の開発期間を経て1965年に誕生したのが、革命的な浸透印「Xスタンパー」だった。その機能性を世に広めるため、1970年の大阪万博に出展。来場者にXスタンパーを使ってもらうことで利便性の良さが伝わり、ブランド認知が一気に加速したという。

その後も、オフィスで使いやすい製品を中心に展開していたが、Windows95の登場とともに世の中はデジタル化へシフト。1995年には電子印鑑システム「パソコン決裁」を発売し、未知の分野に飛び込んでいったが、当初は売れ行きが低調だった。2008年のリーマンショックを機にBtoC商品へも本格参入。コロナ禍では「手洗い練習スタンプ おててポン」など、コロナ禍前に商品化されていた子ども向けのスタンプがヒットし、売れ行きが低調だった商品も社会課題を解決するツールとして壁を乗り越えていったと語った。

変革の根底にあるのは、「しるす」という行為をさらに深堀りする姿勢だ。単なるプロダクトの供給ではなく、世の中の共感を呼ぶ価値を生み出すことこそが、ブランド構築の鍵であると舟橋氏は話した。

「しるし」がつなぐ顧客体験の価値

「はんこを押すためだけに会社に行く」ような時代は、すでに終わりを迎え、コロナ禍を契機に電子決裁ニーズが爆発的に拡大。1995年から粘り強く続けてきた電子印鑑サービス「Shachihata Cloud」はついに花開いた。現在では導入件数約110万件、継続率97%、月間利用数は約612万回。年間売上は1億円程度から15億円ほどへと飛躍している。時代の変化とともに、スタンプ台やはんこといった従来のプロダクトから脱却し、サービス型の価値提供へと転換してきた。その背景には、「お客様や社会に役立つ商品・サービスの開発こそが、ブランド価値の創出につながる」といった信念があると舟橋氏は語る。

たとえば、釣り具専用マーカーや建築現場で活用されるスタンプ、さらには尿ハネを可視化するスプレー「MIERUMO」など、業界や生活シーンに密着した感情に響くプロダクトを次々と考案。市場動向を読み取り、クラウドファンディングなどで顧客の反応を確かめながら、小さな仮説と挑戦を積み重ねる姿勢は、リアルイベントでのスタンプラリーや、フォントライセンスといったエンタメ分野にも広げている。

デジタル時代の嫌われない広告の可能性

続いて登壇したのは、イオンエンターテイメントの今井良氏。同社は、全国98劇場・834スクリーン(25年10月時点予定)のイオンシネマを展開し、映画館を「感動の輪をつくる場所」と捉えている。今井氏は、広告が嫌われがちな時代において、ブランドが生活者とポジティブに出会う手段として、シネアドが果たす役割について語った。

「広告はスキップされる時代に入った。そんな中で、広告が見られる環境に価値がある」と今井氏。映画館は観客が自らの意志で訪れる場であり、スマホを手放し、2時間という集中した時間を過ごすのが大前提にある。スクリーン以外の情報を遮断した没入空間は、広告にとって非常に恵まれた接触環境であるという。

実際にLUMENが行ったEyeトラッキング技術による調査でも、シネアドは他の動画媒体と比べて高いアテンションとビューアビリティを実現。観客の心理状態も「リラックス」「開放的」であり、ブランドメッセージを受け入れる素地があるという結果も事実だ。さらに、上映作品のジャンルやキャスト、原作といった切り口でのターゲティングも可能で、生活者の趣味嗜好やライフステージに合わせた訴求がしやすいのも大きな強みだと今井氏は語った。

映画を観ること自体がポジティブな体験であるからこそ、広告もその一部として信頼を得やすい。それがシネアドという媒体が持つ、デジタル時代における嫌われない広告としての可能性であると強調した。

ターゲティングと共感でつくるブランド体験とは

動画広告が「一瞬で惹きつける」ことを求められる中で、あえて「物語を語りきる」シネアドは、長尺の映像でもスキップされず、集中して視聴される希少な動画メディアである。ブランドが生活者に伝えたい想いを、その世界観ごと届けられる環境はシネアドだからこそ叶う。

シネアドの強みは、精度の高いターゲティングと、共感性の高い文脈づくりにあると今井氏。作品ジャンル、原作、キャストなどによって来場者の属性や嗜好は大きく異なり、ターゲットに合わせた訴求が可能だ。例えば、子育て世代が多く来場するファミリー映画では、育児関連のサービスや商品を自然に届けることができる。

さらに、シネアドならではのプロジェクト型活用も進み、話題の「エールシネアドプロジェクト」では、60秒のショートムービーを制作し、劇場放映だけでなくWebやSNSへの2次利用も可能にした。短い時間で感動を届け、共感を生み出す広告体験が、人々の記憶に深く刻まれる。広告がスキップされる時代だからこそ、きちんと見られ、きちんと伝わる環境で、ブランドの物語を届けることに、これからのマーケティングのヒントがあると締めくくった。

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