面白法人カヤックの「その手が、あったか。」 其の2 既成概念を水に流す、痛快アイデアを生む方法

ジャズ的なブレスト文化

カヤックを最も特徴づけているものは「ブレスト」です。みんなが無責任にアイデアをポンポン出し合っていく中で、原石のような企画が生まれ、それを育てていく…このプロセスがとても面白い。

代理店時代は、偉い人に恐る恐る企画を差し出す文化でしたが、カヤックは真逆です。オープンキッチンのように、その場で素材を持ち寄り、料理をつくるようにアイデアを育てる。私はこれを「ジャズ的」と表現しています。代理店のように、各自が入念な準備をして合わせる「オーケストラ的」な進め方の良さもありますが、カヤックには即興のセッションから生まれるジャズ的な魅力があるんですよね。

「こう言ったら怒られるかな」と考えると、発想は角が取れてしまいます。でも、カヤックでは一切否定されない。「褒めてもらえるかもしれない」と思える環境があれば、人は思い切り既成概念を超えたことを言えるようになります。

そのためには、アイデアを出す人だけでなく、受け止める人のリアクションがとっても大事です。ルールはシンプルで「とにかく否定せず、褒める」。その心理的安全性が、ブレイクスルーアイデアを生み出します。

そもそも「うんこミュージアム」も、普通の会社なら提案の段階で止まるはずです。でも、カヤックにはそれがなかった。誰かが蹴ったボールがそのままスルーパスを繰り返してゴールネットを揺らしたような感じ。運もあるかもしれませんが、まずは自分のタガを外さないとアイデア自体が便秘になって出てこない。その「凝り固まらないこと」、そして周りがそれを盛り立てることが大事だと思います。

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異色企画から広がった事例

象徴的な事例が「毒掃丸」の広告です。「うんこミュージアム」がヒットしたことで「カヤックはうんこに詳しいのでは」と思われて(笑)、「毒掃丸」という名前の便秘薬を作っている会社から依頼が舞い込みました。予算は限られていましたが、「便秘から解放される心地よさ」という世界共通のインサイトに注目し、YouTubeの6秒広告を企画。

トンネルから出てくる映像や少年がウォータースライダーから気持ちよく滑り出てくる映像、イルカが水中から美しく飛び上がる映像など、とにかく「スルッと出る気持ち良さ」に特化した映像をストック映像からメンバー全員で必死に探して、その映像の最後に「ついに出た。」や「気持ちよく出た。」というコピーをつけました。

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完成した時はチーム全員が「思っていた以上のものができた」と小躍りしましたね。制約の多い環境は難しさもありますが、その分、逆転の発想が生まれる。まるでテコの原理のように、逆境をひっくり返すことができた良い経験でした。

私はよくカヤックの仕事を表現する時に「痛快」という言葉を使います。胸がすっと晴れるような、スカッとする体験。それこそ自分がつくりたいものです。

他の会社にできることをする必要はない。カヤックならではの「そう来たか」と思わせるものを生むことができたこのプロジェクトは、まさに痛快でした。ただひとつお伝えしておきますが、私はうんこにそこまで詳しい訳ではありません(笑)。

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