映画『国宝』の勢いが止まらない。6月の公開以来、4週連続で前週比100%超えを記録し、ついに8月21日までの公開77日間で、観客動員数782万人、興行収入110.1億円を突破した。実写の日本映画で、興行成績100億円を突破した作品は過去に『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年公開)、『南極物語』(1983年公開)、『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年公開)の3本しか存在しない。
『国宝』はなぜこれほどまでに快進撃を続けることができるのか。各種プロモーションを指揮した東宝の市川南氏、岡田直紀氏と、制作幹事を務めたミリアゴンスタジオの村田千恵子氏へのインタビューから、企画・製作・宣伝の3つの視点で、ヒットの理由を紐解く。
(※本記事には後編があります)
多くの映画会社が困難だと判断した『国宝』の実写化はなぜ実現したのか?
━━『国宝』がついに興行成績100億円を突破しました。この作品の映画化はどのように決まったのでしょうか。
市川
:まず、『国宝』の製作幹事はミリアゴンスタジオで、中心となったのは村田千恵子プロデューサーです。私たちは配給会社として、出資の一部と劇場配給、興行の一部をお預かりした立場という視点でのお話になります。
『国宝』の原作者は吉田修一さんですが、吉田さんが原作の『悪人』を、2010年に当社で製作・配給しました。この『悪人』で、『国宝』でもタッグを組むことになる、李相日さんと吉田修一さんが監督と原作者という立場で出会っていたのです。
そこで生まれた関係性の中で、お二人は中国映画の『さらば、わが愛/覇王別姫』という映画について語り合ったそうです。この映画も『国宝』と同様に3時間近い作品で、京劇の俳優の愛憎劇を、中国の激動の歴史を背景にしながら描いたものですが、同じような作品を日本で撮るなら歌舞伎になるよねという話になったのがきっかけだと聞いています。
その後、2017年に吉田修一さんの『国宝』の新聞連載が始まり、2018年に単行本化され、李監督の次の企画として、社内のプロデューサーから『国宝』を撮りたいと提案が上がってきました。非常に魅力的な作品でしたが、当時、東宝では実現は難しいと判断しました。