予定調和が壊れるとき、人の心が動く
そもそも「なぜ面白い広告コンテンツが必要なのか?」に触れておくと、好意的な接触は、ブランドへの愛着形成を進め、商品の購入検討を生み、口コミを加速させるからです。人の心が動く体験が内包されていることが重要であり、そのために面白い広告コンテンツという手法があると考えています。目的は「人の心を動かすこと」であり、手段が「面白いコンテンツ」である、という順番です。
けれど、「面白いコンテンツ」にはライバルが多すぎる。そんな中でも目立ち愛される広告をつくらなければいけない。無理難題の解決の糸口として、コンテンツの中身だけで勝負するのではなく、コンテンツ周辺の文脈までをデザインした「コンテンツ体験」で勝負することが重要だと考えています。
以前、キアヌ・リーブスが公園のベンチで一人で食事をする写真が大きな話題になったことがありました。名優が着飾って歩くレッドカーペットの美しい写真よりも、意外な一面を見た時に、心が動いて「誰かに伝えたい」「一緒に盛り上がりたい」という気持ちになるものです。いつも通りだと素通りされがちですが、違和感があると頭の中に「?」が生まれ、能動的な体験への一歩となるのです。
例えば、いつも見ているCMにもなんとなくのトンマナが存在し、そこをはみ出していない限りはコンテンツのクオリティ勝負になってしまいます。もちろんその中で素敵な表現を生み出している広告は沢山ありますが、クオリティの基準がそもそも高くなってしまっている中では、正攻法だけだと心を動かしづらいことも事実です。
数年前、こどもが噛み噛みな発音で愛らしく一生懸命にセリフを話す日清のご褒美ラ王のCMを見た時、ひときわ輝いているように感じました。完成度が高い映像がCMとして連続する中、突然、へたっぴなセリフが飛び込んでくる。そのギャップにきゅんとしてしまいました。「CMとはこういうものだ」とうっすらとした固定観念ができ上がっている中で、その文脈を見事に裏切っていて、良い意味での違和感がありました。個人的にとても印象深いCMのひとつです。
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