ヤプリと宣伝会議は8月4日、インターナルコミュニケーションの推進を検討する研究会の第7回を開催した。大手企業16社の責任者が参加し、企業カルチャー変革とインターナルコミュニケーションについて議論した。
ヤプリのオフィス(東京・六本木)にて研究会を開催。
「インターナルコミュニケーション研究会 ~企業行動に変革を起こし、イキイキとした組織を~」
【趣旨】アプリプラットフォーム「Yappli」を提供するヤプリと宣伝会議が共同で研究会を2024年4月に発足。従業員一人ひとりが活躍できる状態を生み出すため、経営機能としての広報が果たすべき役割や、風通しの良い企業風土を醸成するインターナルコミュニケーションのあり方等を議論している
「インターナルコミュニケーション研究会」第7回は、エイチ・ツー・オー リテイリング、エバラ食品工業、大阪ガス、カッパ・クリエイト、JTB、島津製作所、商船三井、昭和産業、住友ゴム工業、大和ハウス工業、TBSテレビ、東レ、西日本旅客鉄道、日本特殊陶業、三菱UFJ信託銀行、ルネサンスのインターナルコミュニケーション関連部門責任者が集まった(五十音順)。またアドバイザーとして、日本マイクロソフトやNECなどでインターナルコミュニケーションを実践してきた岡部一志氏、そしてボードメンバーとしてヤプリが参加した。今回の研究会のテーマは、組織として目指したい企業カルチャーの醸成。前半は、アドバイザーの岡部氏が「企業カルチャー変革におけるインターナルコミュニケーションの重要性」について解説した。
なぜカルチャー変革が必要か
「いまやビジネスの場においても暑い時期は軽装が当たり前になりました。十数年前と比べ、職場でのドレスコードが変わったり、上司を役職名では呼ばずに『さん付け』にしたりと身近なところから長年の慣習に変化が起きているという企業も多いのではないでしょうか。また、経営方針の重要テーマとして従業員の行動様式や働き方を改革し、ダイバーシティーの高い環境を構築するなど、目指す企業カルチャーを醸成していく手法はたくさんあるはずです」と岡部氏。研究会では自身の経験にもとづく考え方や事例を共有した。
まず、なぜ企業カルチャーの変革が必要なのか、その要因を岡部氏は3つに整理した。1つ目は「パーパス/ミッションの遂行」のため。社会における企業の存在意義を示し、その役割や責任を果たすには、外部環境に応じて社内も変わり、社会とのつながりを深めていく必要がある。同時に、変えずに継続すべきカルチャーを見極めることも重要だ。2つ目は「事業成長」のため。スピード感を持ってイノベーションを起こし競争力を高めるには、人材・組織のあり方そのものを進化させることも求められる。3つ目は、「評価・評判の向上」のため。どのようなカルチャーを育み、良い方向へと変革しようとしているのか。これは投資家や顧客、求職者、そして従業員も注目しており、ステークホルダーのエンゲージメントを高める一因になると岡部氏は指摘する。
コミュニケーション部門の役割
「ミッション」を実現するための「カルチャー」を言語化し、2つをセットにして推進しているのがグローバル企業マイクロソフトの事例だ。ミッションにある「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」ために、「Growth Mindset(成長する考え方)」「Customer Obsessed(お客様に寄り添う)」「Making a Difference(世界を変える)」といったカルチャーが重視される。また、人事評価もカルチャーテーマと連動させることで浸透を徹底している。こうした事例を踏まえ岡部氏は、カルチャー変革におけるインターナルコミュニケーションの役割を4つ提示した。
①目指すカルチャーの明確化と継続的なメッセージ発信
②多様な角度からの事例収集とデータ化・コンテンツ化
③トップから現場の従業員まで、カルチャーについてストーリーテリングができる環境づくり
④従業員がカルチャーを体感できる参加型の機会の創出と発信
「時間はかかりますが、インターナルコミュニケーションを通じて従業員のマインドセットが変化することで、目指すカルチャーが醸成され、その結果、従業員エンゲージメントが向上、事業が成長し、パーパスが推進されるという好循環が生まれます」と岡部氏は言う。
またNECのコミュニケーション部門に在籍していた岡部氏は、経営計画にもとづき「従業員がカルチャーを実感できる機会」を年間計画に落とし込んでいたという。国際女性デーやプライド月間のようなパブリックイベント、ファミリーデー、協賛スポーツイベントなどでの従業員やその家族の体験設計や、従業員一人ひとりがプロボノや被災地復興支援などの社会貢献活動に参加できる仕組みを立案。主管部門がバラバラに施策を実施するのではなく、コミュニケーション部門がリーダーとなり、施策後にはエンゲージメントの観点でサーベイをとり、データ化してPDCAを回していた。「カルチャー変革の実現には、それを推奨するコミュニケーション部門自体が、全社に誇れる存在になっているかどうかも重要です」と岡部氏は強調した。
社内の理解を得るための工夫
研究会後半は、参加者でグループワークを行った。議論の中では、企業の合併や理念体系の策定といった新しい価値観を社内に浸透させるフェーズにおいて「トップを巻き込んだ施策とボトムアップで波及させる仕掛けの両方が欠かせない」という意見が示された。また、そうしたプロジェクトに従業員が参画すること自体が、個人の成長につながるようなコミュニケーションを意識することも重要となる。
従業員が、新しいカルチャーやそれに伴う社内の変化をポジティブに受け取っていれば、自然と周囲に伝えたくなるもの。オウンドメディアに従業員に登場してもらい、ストーリーテリングをする機会をつくることも、カルチャー変革を推進する手法のひとつだ。
企業を社会に適応させていく
参加者からは「ビジョンはあるものの、行動規範まで策定できていない」という声も聞かれた。一方で、目指すカルチャーを明確化し、従業員が実感できるようにする取り組みは「企業が社会に適応していく重要なプロセス」であり、「世の中の動向を把握し、社会とつながる視点を持つことが重要」との意見も共有された。また組織には多様な人材が存在することから、「インターナルコミュニケーションをしっかりと行うことが、多様な価値観を知り、組織が進化を遂げるきっかけになるのでは」という指摘もあった。
既存文化との調和
歴史の長い会社は、確立した企業DNAがありながらも、時代のニーズに合わせて形を変え挑戦していくことが求められる。参加企業の中には、社内起業制度を導入したケースや、従業員が自ら手を挙げ参加できる機会をつくり、それを楽しむ様子をコンテンツ化して共有するケースもあった。
また、新事業に挑戦する際には、既存分野とのつながりや必然性をしっかりと社内に伝えることが求められる。「既存文化へのリスペクトを示し、新旧の調和を図ることを大事にしている」という意見も寄せられた。既存領域の価値を再認識できるよう、社外広報を強化し、外部メディアを通じて客観的に価値を示していくことも有効な手段となる。
従業員と社会とのつながり
地方に多くの店舗を持つ企業では、地域社会との連携や被災地復興支援などに取り組む事例が見られた。従業員が社会とのつながりを感じて、存在意義を再確認できれば、カルチャー変革にもプラスに働く。「平時から企業が社会に貢献していることを示せていれば、有事の際も従業員がモチベーションを維持できるのではないか」という意見もあった。
また、食品を扱う企業では、従業員の「フードロス問題」に対する意識が高いという事例が紹介された。社内で当たり前とされている価値観も、コミュニケーション部門が、従業員の視野を社外へと広げる機会をつくれば、改めて気付きを与えることもできそうだ。
カルチャー変革につながる手法は多様にある。手段ありきで取り組むのではなく「なぜ実施するのか」という目的意識を明確にし、組織へのインパクトを基点に計画を立てていきたい。
研究会後の懇親会では「かっぱ寿司」による出張回転ずしが振る舞われ、参加者が交流を深めた。
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