ナショナルクライアントの出稿相次ぐ「モビリティ広告」とは インフラ整えアドトラックを再定義

テレシー社長として運用型テレビCM市場の成長をけん引した一人である土井健氏が独立し、2024年に新会社ohpner(オープナー)を立ち上げた。早速、トラック荷台の側面部分に広告を設置して走る「アドトラック」のポテンシャルと課題に着目し、「モビリティ広告」として再定義。取引慣行の改善と法令順守に努めたこともあり、企業からの引き合いが増え年内はすでに満稿だという。オフライン広告の新たな可能性を切り拓こうとしている土井氏に現在の取り組みと今後のビジョンを聞いた。

アドトラックをめぐる負のイメージから脱却

━━もともとオンライン広告でキャリアを重ね、前職での経験からテレビCMやOOHなど「旧来型」メディアに携わるようになったと伺っています。新会社「ohpner」で目指すことを教えてください。

広告業界で長年キャリアを積んできたので、ohpnerも軸足は広告事業に置いています。ただ、会社のフィロソフィーは「自分とみんながうれしいことをする」。これに合致すれば、広告に限らずどの産業でもチャレンジしていきたいと考えています。

前職のテレシー時代も自由にやらせてもらいましたが、あくまで「広告の範囲で」という制約はありました。今はそれが解き放たれ、上場企業の傘下ではできない意思決定のスピード感で、自分の興味と社会のニーズが合致する領域に次々とチャレンジできるのが、今の最大の面白さですね。

写真 人物

ohpner 代表取締役 土井健 氏
同志社大学商学部卒業後、サイバードへ入社。モバイル広告代理店事業立ち上げに従事。2011年、fluctの立ち上げに参画。年間売上20億から114億の日本最大級のSSPに育て上げ、親会社の東証一部上場に当時大きく貢献し、2014年にVOYAGE GROUPの執行役員、2016年にfluctの代表取締役に就任。2020年に株式会社VOYAGE GROUPの取締役、2021年にサイバー・コミュニケーションズの取締役、運用型テレビCMを展開するテレシーの代表取締役に就任。テレシー初代CEOとして、売上を3期目で78億まで伸ばし、2024年3月に退任。
オフライン広告に革命を起こすべく、2024年ohpnerの代表取締役、モビリティサイネージ取締役会長に就任。2025年8月にラジオ大阪への出資、大株主として社外取締役に就任。

━━その中で、ohpnerが現在最も注力しているのが「モビリティ広告」です。なぜこのメディアなのでしょうか。

前職のテレシー時代に広告主としてアドトラックを活用した際、その絶大なメディアパワーを実感したのが原体験です。東京で生活している方ならば、「アドトラック」と聞くと真っ先にあの高収入求人情報サイトを思い浮かべますよね? つまり、あのトラックによって、数十億円規模のテレビCM投資でも到達できないほどの認知を獲得しているということです。

これだけのポテンシャルがありながら、この業界は30年近く変わっていません。媒体資料や出稿後のレポートも存在せず、コンプライアンス意識も低い。また「ナイトワーク」の広告イメージが強いため、大手企業などが出稿をためらう傾向にありました。このカオスな状況を、広告業界で長く経験を積んできた自分が変えられるのではないか、と考えたのが始まりです。

━━「アドトラック」を「モビリティ広告」と再定義した背景には、どのような“進化”がありましたか。

単に呼び方を変えたわけではありません。まず私たちは、従来の業界が抱えていた課題をすべて解決することから始めました。媒体資料を整備し、GPSによる走行管理と人流データを活用したレポーティングを徹底。東京屋外広告協会の審査やエリアごとの音量規制といった行政ルールを遵守し、剥がれないような高品質なポスターで運用する……。

これまで当たり前でなかったインフラ整備を徹底した上で、これはもはやアドトラックとは別の新しい広告メディアだと考え、「モビリティ広告」と再定義しました。将来的には自動運転社会の到来も見据え、「モビリティ」という言葉を選んでいます。

写真 インフラを整え、「モビリティ広告」へ

インフラを整え、「モビリティ広告」へ

健全化がもたらす信頼と、街を変える社会的意義

━━業界の健全化が、ナショナルクライアントからの信頼獲得につながり、ビジネスの急成長に直結しているのですね。

広告業界の作法を理解している私たちがルールを整備したことで、これまでリーチできなかったナショナルクライアントや上場企業にも安心して活用いただけるようになりました。おかげさまで事業は想定より“2年前倒し”の勢いで成長しており、来年2月まで直販だけで満稿の状態です。一度出稿されると継続してくださるクライアントが非常に多いですね。

今は需要に供給が追いつかず、広告代理店経由のご依頼はお断りしている状況です。現在トラックとドライバーなど運行体制の増強を進めており、より多くの企業にご利用いただけるようになる見込みです。

━━業界の健全化は、社会に対しても良い影響を与えているように感じます。

昨年、東京都の屋外広告物条例が改正され、これまで規制対象外だった都外ナンバーのトラックにも規制が適用されるようになりました。これにより、コンプライアンス意識の低い業者が参入しづらくなり、業界全体の健全化にとって大きな追い風となっています。私たちのシェアが拡大することで、都心の景観を占めていたナイトワーク系の広告が減り、街の印象も変わりつつあります。

また、訪日外国人の方が渋谷のスクランブル交差点などで目にする広告は、日本の印象を左右するという側面もあります。そこに上場企業や世界的なIPの広告が走っていれば、「日本はすごいな」と感じてもらえるはず。そんな景観づくりの一翼を担えることも、この事業の社会的意義の一つだと考えています。

━━モビリティ広告は、どのような企業や商材に向いていますか。

ほぼすべての商材に合うと考えています。それくらいリーチ力とコストパフォーマンスが高い。例えば、渋谷を走行すれば、月にのべ500万~600万人にリーチできますが、費用は同エリアのハチ公付近にある大型OOHの7分の1程度です。圧倒的に安いですよね。

BtoCはもちろん、BtoBのクライアントにもご活用いただいています。大手企業が多い丸の内地区を走行させ、私たちが扱うエレベーター広告と組み合わせる、といったプランも可能です。どういう人に届けたいかに合わせて、走行ルートを柔軟に設計できるのも強みです。

ラジオ局のポテンシャルに商機を見出す

━━今後のメディア開発についてもお聞かせください。今年の8月末には、ラジオ大阪への資本参加も発表されました。

ラジオ業界も、モビリティ広告と同じように大きなポテンシャルと「ひずみ」を抱えていると感じています。これは、アドトラックが持つメディアパワーが正しく評価されていなかった状況と非常に似ています。今も多くの一流タレントがラジオ番組に出演したいと思っていただけることなどは大きなポテンシャルです。既存のビジネスモデルに固執するのではなく、この価値を活かして商いの仕方を変えれば、ラジオはまだまだ活性化できると信じています。

具体的な構想はまだ明かせませんが、ヒントは「マルチデバイス」です。ラジオ大阪は関西圏には強いですが、全国には届きません。だから、番組の出口をYouTubeなど他のメディアにもつくる。タレントのキャスティング力というラジオの強みを活かしながら、調理の仕方を変えて、新しい価値を生み出していきたいと考えています。

━━最後に、ohpnerとしての今後のビジョンを教えてください。

広告事業が軸足であることは変わりませんが、常に「自分とみんながうれしいこと」を追求していきたいです。事業を成功させ、利益を出すことは社会からの通信簿だと考えています。社会に良い影響を与え、関わる人々を幸せにする。その両方を実現することが、事業をやる上での私の信条です。モビリティ広告もラジオも、その他の事業も、すべてこの考え方をベースに、これからも新しい挑戦を続けていきます。

お問い合わせ

ohpner株式会社

メール:contact@ohpner.com
URL:https://ohpner.com/

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