難問は分割する。―「宣伝会議賞」応援企画・発想ブレイクスルー集【7】


約2カ月間にわたる「宣伝会議賞」の応募期間も残り約2週間となりました。現在発売中の月刊『宣伝会議』10月号では、「宣伝会議賞」の審査員7人に、アイデアを前に進めるための方法を聞きました。AdverTimes.では、誌面に載せきれなかったインタビューの全文を公開しています。最後は、一般部門審査員を務める高橋尚睦(よりのぶ)さんです。

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高橋尚睦氏

読売広告社

クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、YouTube Works Awards Japan グランプリ、TCC新人賞、ACC賞、広告電通賞金賞、読売広告大賞最優秀賞、JAA賞など受賞。主な仕事に、明電舎「電気よ、動詞になれ。」サッポロビール箱根駅伝「走れ、母のお腹を蹴っていたその足で。」「走りたかった4年生たちへ。」代々木ゼミナール「第0問.今日ここにいる自分を褒めよ。」など。日本テレビ「一行ポップ」出演中。近年では作詞・作曲も。

Q1. アイデアが出ないとき、最初に頭の中で何をしますか?

「考える軸を絞る」です。

たとえば「ユーザー視点から考える」「商品の視点から考える」「シーンから考える」など考える軸がいくつかある場合、「この2時間はユーザー視点で考えることだけに絞ろう」というように、1度の思考時間に対して1つの軸に決め込みます。他の軸はその2時間ではひとまず無視します。

思考の軸自体がわからない場合は、その2時間を「この課題はどんな軸で考え得るか」を考えることだけに絞ります。それまでつくったアイデアを振り返ってみて手薄な軸を割り出すのも良いと思います。

「難問は分割せよ」という言葉がありますが、これは本当にいろんなことに当てはまる金言で、情報量が今の自分で扱えるサイズになるまで、考えるべきことを分割していくのが良いと思います。

Q2. 視点を変えたいときに使う“発想フレーム”や“型”があれば教えてください。

「変数を増やす」ことを意識しています。

たとえば定番の5W1Hで切り口を増やすという方法ひとつとっても、「人」✕「商品」で考え終わったら、それだけじゃなくて「人」✕「時」✕「商品」でも考えてみる。そこから脈がありそうならさらに「人」✕「時」✕「場所」✕「商品」と変数を増やして、考える範囲の解像度を高めていきます。

「◯◯」✕「商品」の◯◯は何でも良いのですが、アイデアは商品そのものではなく、商品と世の中との「関係」の中にあるので、「関係」の数を増やせるように、一度商品から離れた材料を増やそうとしていきます。

材料にした情報が同じでも、思考を広げるうちにアウトプットはまったく別の独立したアイデアになるのはコピーのおもしろい部分です。

いつも見ている風景。「変数を増やす」と書き込むことが多くなってくるので、メモはA3サイズにすることが多いです。余白が広いと頭のサイズもA3になる気がします。

いつも見ている風景。「変数を増やす」と書き込むことが多くなってくるので、メモはA3サイズにすることが多いです。余白が広いと頭のサイズもA3になる気がします。

Q3:アイデアを刺激する“インプット”として頼りにしているものは?

これはもう「ぜんぶ」ですね。課題を心に留めたら、「目に見えるもの」「聞こえてくるもの」「それを受けて自分が感じたこと・連想したこと」のすべてを課題と結び合わせ続けます。散歩して目に入ったものでも、カフェで聞こえてくる言葉でも、その刺激で自分が連想したものでも、無理やりでもいいので、一度課題と掛け合わせてみる。すると机に向かっているときとは違うアイデアが生まれやすいように思います。実際、自分のプロフィールに載っているコピーにもそうやって生まれたものがあります。

あとは音楽に刺激を受けることも多いですね。そのとき聴いていた曲や頭のなかで思い出していた曲がいま考えている課題とぶつかると、「この課題はこういう読後感のものになったら良いのでは」という“感触”がぼんやり見えてくることがあります。すると今度はその感触をめざしてどんな映像や音楽があればいいのかを考えられたりします。

Q4:頭を切り替えるために、物理的な“環境”で工夫していることは?

起床後、とにかくなるべく早い時間帯に考えることです。

創造性って鮮度が命の“生もの”のような感覚があって、起きてから時間が経つほど頭がどんどん「真っ当」になっていってしまうように感じます。なのでいちばん良いのは、机に翌日考えたいことの準備(メモやノートを開いておくなど)をしておいて、起きたらすぐ取り掛かることですね。

ただひとつだけ難点があって、私自身は夜型なので、この矛盾と毎日格闘しています(笑)。とはいえ人それぞれ思考が冴える時間は違うと思うので、いろんな時間帯で課題に取り組んでみて、自分の最強の時間割を見つけてみてください。時間帯によって人の能力ってここまで変わるんだ、ときっと実感すると思います。

Q5:気持ちが落ち込んだとき、どうやって立て直しますか?

今日できなかったことがすべてじゃないと考えます。

チャップリンの有名な言葉に「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」というものがありますが、アイデアを考えることもこれによく似ているなと。うまく考えられなかったその一日だけの視点で見ると、もうこの世の終わりのような気分になりますが、結局アイデアは量が質を生む世界なので、締切までの期間内にどれだけ「総量」として思考を積み上げられたかが最終的にはモノを言うと思います。

なので、今日できなかったことはもう取り戻せない事実は受け止めつつも、同じくらい「かといって致命傷ではない」という事実に目を向けます。ゲームで自機を1機落としても、最後の1機でラストステージをクリアできればまったく問題ないですよね?

Q6:これまでに“スランプを抜けた瞬間”のエピソードがあれば教えてください。

とある予備校CMの企画。音楽を主軸にした企画で、もう大枠オーソライズもされていたのですが、もっと良くできそうな気がしてモヤモヤしていたんですよね。

ある休日、歩いていたら突然、歌詞は受験用語を駆使したものにして、そのときメロディはこうで、こんな心情を歌いこんで、そのとき映像はこんな演出で、と一気につながっていった経験がありました。

ある電気にまつわる企業では、若年層向けにSNS施策を、ということで企画も大枠決まっていたのですが、これももっとよくできそうな感覚があったんです。ある日Xでアニメーションの投稿を見ていてふと、SNS企画ではなくて動画企画にしたらどうだろう、ピクセルアートを使ってコピーをコンテンツ化できないか、そのとき音楽はこんな感じで…と一気に思いついて、新たに提案し直したことがあります。投稿自体はピクセルアートではなかったのですが、なぜかそこに繋がっていきました。

全然ドラマチックな結論ではないのですが、共通しているのは、「違和感と、とことん付き合うこと」。この課題、もっといけるはず…と思いつづけると、無意識がその不快感を解消したくて勝手に考えてくれることがあります。

反対に違和感を手放したら頭はサボり始める気がしていて、逆説的ですが、スランプを感じたら、その不快感をしばらく抱えたまま走るほうがよいのかもしれません。

Q7:応募者の皆さんにメッセージをお願いします。

大人になってから、こんなに努力が結果に繋がりやすいものってなかなかないと思います。年齢不問。誰でも参加できて、自分が得意そうな課題を選べて、しかも匿名で審査される。肩書も実績も通用せず、実力✕努力量でチャンスがどんどん広がっていく。そう考えると、「宣伝会議賞」ってすごく貴重な場だと思えてきませんか?

なのでここはひとつ、甲子園球児やM-1に出場する芸人さんになったつもりで高い熱量で臨んでみてください!ここで頑張った経験は次の年にも必ず活きるし、その先の仕事にも確実に活きてきます。あと1ヶ月。絞りきってみてください、応援しています!

第63回「宣伝会議賞」特設サイトはこちら

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