キリンビールで「一番搾り」「氷結」などのヒット商品を手がけてきた門田クニヒコさんと小元俊祐さんが、五島列島の福江島で開業したクラフトジンの蒸溜所「五島つばき蒸溜所」(長崎県五島市)。アクセス困難な半泊という土地には、潜伏キリシタンの祈りが息づく歴史と、島の人々の温かな受け入れがありました。大量消費商品の世界で培った哲学を、ゼロからの酒づくりにどう活かすのか。シェア争いではなく、地域の「新しい価値をつくる」という物づくりのかたちが見えてきました。
離島に移住して蒸溜所を開業
━━キリンビールを飛び出し、クラフトジンづくりを始めたきっかけを教えてください。
門田
:キリンビールでは50歳になると「ライフプランセミナー」という研修を受けるんです。早期退職制度の説明も含まれていて、会社としては「そろそろ次の人生を考えろ」というメッセージだと受け取っています。自分の年表を作って、入社から今までの出来事と感情の起伏を可視化していきます。
それを書いてみて、「ああ、やっぱり自分はお酒が好きでキリンビールに入ったんだな」とか、「ものづくりやマーケティングが好きだったな」と改めて気づいたのです。でもそれも、「あと数年で終わっちゃうかもしれない」と思ったのが、きっかけでした。それで小元さんに、「自分たちで酒をつくりたい」と相談しました。
小元
:僕はちょうどキリンビールを辞めるタイミングで、次のことは何も決めていませんでした。お酒は30年やってきて、やり尽くした感もあった。でも門田くんからの話は、今までにない新しい挑戦ができると思ったのです。メーカーとして制約の中で作るものではなく、自分たちの理想を形にできる。それが魅力でした。
それに、門田くんと一緒にやった仕事はほとんどうまくいっていて、成功確率が高い(笑)。誰とやるかも大事で、最初から「これはうまくいく」と思えたのです。不安はまったくなかったですね。